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ヴィクター
しおりを挟む急に聞こえてきた腰に来るようないい声にリーネは全身を凍らせる。
「はあ、もう来たんですか…会うのは睡蓮の間のはずでしたし、あと一時間後でしょう」
慣れた様子で、呆れた顔でロイは振り向く。
そしてリーネに紹介する…と耳元で囁くと(リーネはこの時点でキャパオーバーだ)、自分の体をずらし、扉の前で仁王立ちする男を、指さした。
「ヴィクター・シェラードだ」
「人を指さしちゃダメってお母さんに言われなかった?」
「母親にはあったことないので」
「あ、ごめん」
地雷だった?ごめんねえーなんて、謝ってるのか煽ってるのか分からないことを言いながら、ヴィクター・シェラードと呼ばれた男は、2人の元へとやってきた。
「やあ、おはよう。リーネくん」
やたら背の高い男だった。
鈍色の目は鋭く、この男が微笑んでるのか、はたまた睨んでいるのか、全くリーネには分からなかった。
とにかく今の体制はまずいと、慌ててリーネは膝をつき、深深と頭を下げる。
「はい」
「だいぶ綺麗になったね」
「はい」
「ロイとは仲良くなれた?」
「俺は奴隷です」
返事は簡潔に。余計なことは言わない。そう自分で確認しながら必死に返す。
「奴隷ねぇ…まあそっか。俺が買ったんだもんね」
「はい」
何か意味ありげなことをヴィクターは言うが、リーネには関係の無いことだ。
言われたことに、ただ従うのみ。
「それで、もういいですか?こいつに飯食わさないと」
ロイが無理やり話を切り替える。
その言葉に、まさか食事が貰えるのかと、リーネは内心驚いた。
「そうだねぇ!よし・・リーネ、僕とおいで、一緒にご飯食べよ。ロイは睡蓮の間じゃくて、ここで食べるって声掛けてきて」
知らないとこより、ここの方が落ち着くでしょ、というヴィクターの独断に、ロイ同意はしつつも面倒な顔をしながら、部屋を後にする。
置いてかれてしまったことに、リーネはかなりの不安を覚えた。
「さあて、リーネ…こっちにおいで」
ソファにドカッとこしかけたヴィクターが、リーネを手招く。大仰に組まれた足は長すぎて、なんだか窮屈そうだとリーネはふと思った。もちろんそんなことはおくびにも出さずにリーネは従う。
「はい」
ふらりふらりと近づくリーネを、楽しそうに見つめる目に、リーネは居心地の悪さを感じた。
「さあ、捕まえた!」
そう言って腕を引かれ、あっという間にヴィクターの上に乗り上げてしまう。
「あ、の」
「軽いなぁ…こんなんじゃなかったのに…まあ、これから食べて動けばいいよね」
「ご主人様…?」
「え?あ、僕のこと?ご主人様?うんうん、いいねぇ。悪くない響き…もう1回いって」
にこにこと機嫌のいいヴィクターに、変なことをいう貴族だと内心引きながらもリーネは命じられるがままに、「ご主人様」と繰り返す。
その間ずっと、尻をもまれている気もしたが、気にするのも今更。奴隷を殴りたい人間もいれば、揉みたくなる人間もいるのだ、と無理やり納得する。
そんな全てを諦めたような従順なリーネに、上機嫌だったはずのヴィクターの笑みがふっと消える。
残ったのは冷徹とも言える雰囲気に、ヒュっとリーネの喉がなった。
「ふぅん…おもしろくないなあ」
「…申し訳、ごさいませんッ」
「別に、お前が悪いわけじゃないよリーネ」
そういって、頭をポンポンと撫でられる。
思ったよりもずっと優しいその掌に、リーネは思わず自分から頭をこすりつけた。
「ふふ…かあいらしい」(あらあら、まるで子猫じゃん)
食べてしまおうか…そう耳元で囁かれ、リーネは慌てて頭をふる。
「くっくっくっ」
その様子に、プフー!と噴き出し笑い始めた、ヴィクターに、からかわれたとようやく気がついたリーネは顔を真っ赤にする。
「あ、あの、えっと…ごめんなさ…じゃなくて、申し訳ございません」
「ごめんなさいがいーなー。別に謝ることもないけど」
ヴィクターは特別気にした様子もなくそういうと、廊下から聞こえてくる音に、朝食がきたとリーネに伝えて、膝の上からおろした。
「お待たせしました。リーネ、お前のはこっち。消化にいいもんだから、で、あんたのはそっちです」
「ロイ、一応主に向かってひどくない?」
「酷くないです。ほら、リーネ突っ立ってないで、こっちにこい」
ひどい!と、泣き真似をするヴィクターに、オロオロしながらリーネはロイの手招くまま椅子に腰かける。
ロイは慣れた様子で、リーネの胸元に布をかけ、皿を用意し、その上にキラキラと光るような、美しい粥をのせた。とてもいい匂いがリーネの鼻をくすぐる。
ぐぅ
「ご、ごめんなさい」
「かまわない。待たせて悪かった。熱いから俺が冷まそう」
「え、ちょっと、ふーふーするのやりたい!」
「あんたは、さっさと食べて執務室に言っくれ、今日も仕事が山ほどあるだろう」
「えええーロイの鬼!悪魔!」
「なんでも結構…ほら、リーネ口開けて…よし。美味いか?ん、ならよかった。しっかり噛んで」
雛鳥の餌付けよろしく、甲斐甲斐しく世話を焼かれる。それをずるいずるいと言いながらもら楽しそうにみつめるヴィクターに、リーネはいよいよこれが都合のいい夢なんじゃないかと考え始める。
(俺ってもしかして死んじゃったのかも)
そんなリーネの想像を裏切り、物語は動き始める。
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