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友達
しおりを挟む「いったんこいつは俺が預かります。ヴィクター様…あんた仕事山済みのはずだった?」
どうやらヴィクターは天上天下唯我独尊我が道こそが正の道と言わんばかりの人物だが、ロイにだけは頭があがらないようだ。
「仕方ないな…分かった。リーネが落ち着くまでもう少し時間をおこう。もう少しだ。少しだからね」
「しつこい、仕事してこい」
(すごい、どっちが主かわかったもんじゃないな…ロイには絶対に逆らわないでおこう。そんなことは絶対しないけど)
数日の間、リーネはロイの用意した部屋で、瀕死の子猫よろしく四六時中世話を焼かれていた。
(そこまで俺、弱っちくない…ていうか頑丈が取り柄?みたいな感じなのにな)
リーネはそう思っていたし、実際ロイにもそのように伝えたのが、一切リーネの言葉に耳を貸さず、熱いものがあれば冷まし、お風呂は必ず一緒に入り、服を着替えさせ、夜は共に寝床に入った。
些か過保護では?とも思ったが、どうやらロイはリーネが最初の日に脱いだ際に見た、傷だらけの身体が若干トラウマになっているようだった。
毎日傷が治っていくのを、ひどく嬉しそうに見ているのを知ってしまえば、リーネはこれ以上何も言うことが出来なかった。
そして、リーネの体力が割と戻り始めた頃、ロイが意を決した顔で話があると告げた。
「俺は、まだ早いんじゃないかと思っていたが…
ヴィクター様が既に限界らしい。お前を早く寄越せと四六時中せっつかれるんだ…まだ、ここに慣れて始めたころだからとは言ったんだが、もう自分の所でも慣れさせれば問題ないだろうと言われてな」
「えっと、つまり…これからはシェラード様の近くでお仕えすればいいってことだろう?」
リーネの言葉に、ロイは苦々しい顔をして頷いた。
一体何を言われるかと思いきや、つまるところ漸くヴィクター・シェラードの奴隷として働くように…ということらしい。なんだそんなことかと、リーネはほっとして笑う。
「笑い事じゃない」
ムッとするロイに、リーネはごめんと、謝りながらそれでもにっこり笑う。
「俺さ、いつ死んでもおかしくなかった訳。しかも、簡単に、さっくり死ねたらいいけど…もしかしたら、じわじわ嬲り殺しにあってたかもだし、それとも餓死してたかもしれない。だって俺は奴隷だから。どんなに頑張っても、奴隷に自由はないから」
「…!リーネ、…」
ハッと、傷つけられたような顔をするロイに、またトラウマでも増やしちゃったか、とリーネは内心苦笑しながら、でもさ…と言葉を続ける。
「こうやって、シェラード様に買ってもらえて、ロイと会えて…面倒見てもらって。
俺、こんな風にまた笑ったり…友達みたいに喋れたりする日が来るとは思わなかった。
全部全部、ロイとシェラード様のお陰だよ」
ふわりと笑うリーネに、ロイの心臓がきゅうとなる。
「友達…」
「あ、ごめっ」
あ、奴隷が主人の側近に友人は無かったか…と慌ててリーネが訂正しようとすると、ロイはそれを遮るように、リーネをぎゅう!っと抱きしめた。
「嬉しい。リーネと、友達…すげぇ、嬉しい」
「…ロイ、いいの?俺なんか…」
奴隷なのに。そう言わんとするリーネをさらに強く抱きしめたあと、ロイはそっと掌をリーネの両頬にあて、自分の額とリーネの額をコツンと合わせた。
急に、綺麗な顔がドアップになり、まつげ長…なんて思う間もなく、リーネの心臓はドクドクと早くなって、顔が真っ赤になる。
「友達なんて、いなかったから…お前が初めて」
「え、ロイはいいやつだし、面倒見いいし、友達多そうなのに」
リーネの悪気のない素の返しに、ロイはくすくす笑う。
「お前にだけだよ、リーネ…それに、これからもずっと、友達はお前だけだ。俺には、お前だけ」
「はは、大げさな奴」
「だって、友人とうのは、永遠に信頼しあい裏切ることなく共にある存在だろう、リーネ」
「え、えっとお」
それって、友達っていうより…と、リーネは思ったが、ロイは今までないくらい幸せそうなのを見ると、水をさすような気がして、そのまま小さく頷くだけにしたのだった。
(俺だけの友達、大切なリーネ…なんて、愛おしい子)
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