あなたの奴隷になるならば

朝霧カノ

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フィン・スペンサー

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星が降りそうな夜。

リーネは白い息を吐きながら、星空を見上げていた。

「綺麗だ…」


この数日。不自由なく暮らしいていたが、少し気になることがあった。

誰かに見られているようなのだ。

どうやら、例のメアリーの使用人がリーネを監視しているようで。1度、庭で彼女にすれ違った際

「ちゃんと言いつけは守ってるようね」

と声をかけられたことから、自分は見張られているのだと知ったのだった。


(俺なんか監視しても仕方ないのにな)

リーネは首を傾げるが、気にしたところでしょうがない。なにより、ダニーの言葉に甘えて彼の家に行っていたら、どうなっていたのだろう…

そんなことを考えながら、リーネは星の一つ一つを結び、星座を思い浮かべる。


最近では凍てつく寒さはだんだんと和らぎ、今日は毛布を肩からかければ外でぼんやり出来るくらいの寒さだ。

さて、もうそろそろもどうろうかと思っていた時だった。人影が、庭の方からぬっと現れ、リーネの方へと近づいてくる。

「やあ、リーネくん…だね?」

リーネは足元に置いていたランプを手に取り、掲げると、底には黒の長い髪を一つぬ結んだ背の高い全身真っ黒な男がこちらをニコニコとした笑みを浮かべながら見ていた。


「あの、どうして」

「ヴィクから聞いたんだよ。愛おしい子をようやく手に入れたって」

男はそういった後、さてどうしてかな?と首を傾げた。

「そんな愛しい子がどうして馬小屋に?」

ゾッとするような冷たい目付きに、リーネはふるりと身体を震わせる。怖い。と心の底から思った。

「ここ、で、仕事を、するようにって」

震える声で答えるリーネを男は、すまないねと、また人好きのする笑みを浮かべて頭を撫でた。

「怖がらせるつもりはなかったんどよ…ただ、あれだ執着していたのに、なぜ馬小屋に?と思ってねぇ。最近は人間らしくなって、いい変化だと思ったんだけどな」

「十分良くしてもらってます…」

リーネの言葉に、男はニコッと笑う。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。
私はフィン・スペンサー。まあ、ヴィクの幼なじみってやつさ。仕事はまあ、この国を守る兵隊さん…ってところかな。気安く、フィンさんって呼んでね。リーネくん」

そう言って、出された手をリーネは恐る恐る握り返す。

「は、初めまして。あの、俺、本当に大丈夫なので」


「ふむ…」

「…」(いつまで握手するんだろう)


フィンは困った様子のリーネをじっと見つめたあと、握った手に力を込めて、自分の方へと引き寄せる。長身のフィンの胸にばすんとぶつかり、リーネはええー?!と慌てる。


「…ヴィクに飽きたなら、私のところにおいでよリーネ。私ならこんな所で寝起きさせないよ。奴隷の地位も捨てさせる。騎士学校にはいるのはどうかな?
どうやらリーネは身体能力も高いみたいだし。将来的に私の右腕として働いて貰えると嬉しいんだけど」

突然のフィンからのオファーにリーネは驚き目を白黒させる。

「なぁ?良いんじゃないかな、リーネ。わたしとおいで?」


両肩に手を置かれ、じっと顔を覗き込まれる。
その端正な顔と、なんだかいい匂いのする体臭にリーネはクラクラしてしまう。

「あ、あの、ダメです。俺、ヴィクター様の」

「なんで?そのヴィクター様とやらが君をこんな所に捨ておいたんでしょ?」


あれ?この人何か勘違いしてる!とリーネは気が付き、違うのだと伝えようとするが、フィンはすでにリーネを連れていく気満々で、リーネを連れ出すよう遠くで待機していた馭者と、執事に声をかけている。

「さあ、行こうか」

「ま、待ってください。話を聞いて!」

手を引くフィンを必死に踏ん張り止めようとするリーネの耳に、待ち遠しく、聞きなれた声が届く。

屋敷全体に響くような大声だ。



「リーネ!!!!!」

「ヴィクター様!!!」


物凄い勢いで馬を走らせ、かけよってくるヴィクター。その後ろには、しっかりと続くロイの姿もあった。

2人は小屋のそばに馬を止めると、その上から飛び降りリーネ元へと駆け寄った。

ヴィクターは怒りに燃えた目で、リーネの手を掴むフィンの手を振り払い、素早くリーネを自分の腕の中に閉じ込める。

「大丈夫?リーネ」

「虎杖、すまない。おそくなった」

2人は息を切らして、リーネを庇うようにフィンと対峙する。

「おいおい、ヴィク…悪者扱いはひどいじゃないか。君がその子をこんな所に捨ておいたんだろ?いらないなら、私にくれよ」

フィンは心底、不愉快と言った顔をする。

「捨ておく?そんなわけないだろ。リーネは俺の唯一だ。絶対に手放さない」

「一人称、戻ってるよ」

「うるせぇよ、キツネ野郎」


バチバチと火花をちらす2人に悠仁はオロオロ狼狽える。

「待って、待ってって。フィンさんは、俺の事心配してくれて」

リーネの言葉に、ヴィクターは、はぁ?と声を荒らげる。

「なにフィンさんって、ねえ、リーネ。俺のことはヴィクター様なのに。なんで、親しい感じで呼んでるの?それに何で庇うの??そんなにフィンが気に入った?」

「ちが、っ!だって、ヴィクター様は俺のご主人様で、それに、俺がここにいるのは、」

リーネが今にも泣きそうに言い募る様に、ロイはいい加減にしろ!とフィンとヴィクターを怒鳴りつけた。

「あんたら、リーネを怖がらせてどうする!
ヴィクター様、あんたはまずはメアリー様を、どうにかするのが先でしょう?その為に1日中馬を飛ばして帰ってきたんですから!!」

ロイの言葉に、我に返ったヴィクターは、心底済まなそうにリーネに謝る。

「そうだった。ごめん。僕の留守の間にこんな目に合わせて…許嫁だなんだって、好き勝手やりやがって。

でもそれを、ほっておいたのは僕の責任だね。向こうの両親にも許嫁の解消は伝えたある。リーネがあれの命令を聞く必要はないんだよ」

だから安心して、とヴィクターはにっこり笑う。

「え、そんな、簡単に」

「いいんだよ。そもそも愛とかないし。向こうが勝手に騒いでるだけだから」

やれやれといった様子のヴィクターに、リーネは体の力を抜く。自分のせいで大変なことになったとショックを受けていたのだ。

「ほら、さっさと行く」


ロイに急かされ、ヴィクターはため息を着いてから、名残惜しそうにリーネの頬にキスをすると、「ただいま」と言ってから屋敷に入っていった。


残されたフィンは、そういう事かと1人ごちると、リーネに向き直り、ごめんね、と頭を撫でた。

「勘違いしていたようだね。あの女のせいだとは…本当にすまない。まあ、でも少し残念かな?」

「え?」

「付け入る隙、少なさそうで」

「フィン・スペンサー将軍!」

ロイの鋭い声に、フィンは肩をすくませると、リーネに「またね」と声をかけ、今日は帰ると執事に指示を出し、馬車に乗り込む。


「いつでもヴィクに愛想つかせたらおいで」

妖しく微笑むヴィクターの美しい顔に思わず、うっとりしてしまうリーネ。

それに気がついたロイがまたも鋭い声をあげる。

「さっさと帰ってください!」

「手酷いなぁ、ロイくんは。じゃあね」


フィンは手をひらりと降ると、馬車は静かに屋敷から去っていった。







「さて、帰ろうリーネ」

「あ、ああ。そういえば、スペンサー将軍って」

「あの人、国王軍の将軍なんだよ。ふらっと、真夜中に来るなよな…」

「将軍…!?」





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