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届け物
しおりを挟む「リーネ!こいつなら、どの馬よりも早く、お前を王都まで連れていってくれる。さあ!急げ!」
話を聞いていたダニーが1頭の牝馬を連れてくる。
銀色が美しい馬だ。リーネが世話をしていた時に一番なついてくれた馬がこの、サラだった。
サラは任せろとばかりに大きくいななく
「ありがとう!!」
ひらりと跨り、リーネはダニーが用意したカバンに書類をしっかりと入れて、肩から下げる。
「道はわかるのか!」
「大丈夫!この前勉強した!」
「さすがはリーネ!」
それも見つかって怒られてしまったが、こうして役に立つ日が来たのだから、良かったとリーネは胸を張る。自分の中で失われかけていた自信がしっかりと息吹くのを感じる。これこそ本来のリーネなのだ。
「リーネくん!これ、シェラード家の紋章が入った短刀です。これがあれば、君はシェラード家の人間として認められます」
セバスチャンがそばに控えていた使用人に慌てて持ってこさせた短刀をリーネに渡す。
美しい装飾もさることながら、その刃は鋭く丈夫そうだ。
「実用性もあります。いざとい時の守刀にしてください」
「わかった」
リーネは短刀もしっかりとカバンにしまい込む。
「行ってきます!!!」
「気をつけて!!」
「気張れよ!リーネ!」
「はい!!」
そのたくましい後姿をどこか悲しそうにセバスチャンはみおっくった。
「あの方にはこんな鳥かごは似合わないのです…」
ーーーーーーー
砂埃を巻き上げながらリーネは見事な手網さばきで、一気に森を超え、街を超え、王都へとたどり着いた。
速度を落とし、人達の流れに合わせて馬を進めていく。
門番に身元を問われ、短刀を出し、主人の忘れ物を届けに来たと言えば、案外すんなりと王都に入ることが出来た。
「ヴィクター様の家、かなり凄いんだな…」
紋章を見た途端、ビクッと震え、むしろ関わりたくないから早く行けと言わんばかりの門番を思い出し、リーネは苦笑する。
初めてみたこの国の王都はかなり華やかなものだ。石畳とレンガ造りの家々、花が至る所に飾られており、なにかの祭りかと錯覚するほどだった。大きな道には露店が溢れ、美味しそうな匂いが至る所から漂う。本来ならゆっくり観光したい所だが、今はそうはいかない。
リーネはうしろ髪ひかれる思い出で、手網を握り直し速度を早めて、王都の中心部分にある中央会議場を目指した。
「あの、でっかい建物か!」
セバスチャン曰く、今日はこの国の重要なポジションにある、貴族や王族などが集まって、緊急会議が開かれているとの事だった。詳しいことは教えて貰えなかったが、おそらくヴィクターが何かしら関わっており、この書類が大きな鍵になるらしい。
「急いで届けないと」
さすがにこのまま会議場に近づけないため、馬屋にいったん預けてから、リーネはかなりのスピードで会議場へと走り出した。
かつてのリーネは、嘘かホントか50mを4秒で走ると言われた男だった。もちろん村の男衆誰一人リーネにかなうことはなかった。
その力は、奴隷となって、やせ細った身体では弱まっていたが、今は違う。あの時の感覚が戻りつつあるのをリーネは感じていた。
道は分からないからと、民家の屋根から屋根へ飛び、会場まで文字通り一直線で向かう。
「ここか!」
よし!と入口の前で着地すれば、どこから降ってきたのかと警備のは兵たちは慌ててリーネを見る。
リーネはそんな彼らにニコッと笑うと、短刀と書類を前に出して、「ヴィクター・シェラード様に届けにきた」旨を伝える。
「え、あ、あのシェラード様ですか!」
オロオロする兵士に、リーネはさすがにダメかと肩を落とす。
「居るはずなんだけど?ダメなら、これ届けてくれない?」
「そ、それは…」
兵士が言い淀んだ時だった。
『午後の会議が始まるまでに、中庭にいるヴィクター・シェラードを仕留めろ』
ヒヤリ、とどこからが聞こえてた声がリーネの耳に届く。雑踏の中、その声をききとれたのはリーネだけだった。
「…中庭どっち!!」
先程まで困ったように笑ってたリーネが、急に怒気と冷静を飲み込んだような顔をして、問い詰める様に兵士たちは息を飲む。
「あ、あっちです」
唯一、なんとか1人だけがそう答え、リーネはその言葉に頷くと、一陣の風だけを残してその場を去った。
「何者なんだあの少年は…」
「とんでもない脚力ですね」
「人間じゃないのかもしれないな」
後に残されたのは呆気となった兵士たちだけだった。
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