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風の章
勝負♡真ヒロイン降臨
しおりを挟む風薫る五月。
花粉の猛威も過ぎ去り、新緑が目に眩しい初夏。カーテンを揺らす風はどこか懐かしく優しい。
「つっかれたー」
大きく伸びをして凝り固まった体をほぐし、そのまま目を閉じ椅子に体を預ける。頬をなでる風が心地よく、うっかりすると寝てしまいそうだ。
「玲《れい》?」
まさに夢の世界へダイブ! というその瞬間、面倒くさいやつ筆頭の声が聞こえた。沈みそうな意識を無理やり救い上げ、重いまぶたを開くとそこには……
「な、なななな何してんの!?」
目を閉じた、憎らしいほどに整った風峯《かざみね》の顔がなぜか超至近距離にあった。あわやというところでヤツの侵略を止め、力の限り押し返す。けどコイツ、動かないし!
「何って……目を閉じ上を向いたお前がいたから、これは接吻をしろということだと判断した!」
「不正解だ! いいから離れろ、この変態!!」
離れろって言ったら意外とすぐ離れてくれた……よかった! それにしても本当に心臓に悪いやつだな!!
いくら好きでもなんでもない相手とはいえ、風峯《コイツ》は見た目だけならかなりの美少年《イケメン》。そんなヤツの顔がいきなり目の前にきたらびっくりするに決まってる。あー、まだ心臓がどきどきしてる。
「じゃあ何してたんだ?」
「テスト勉強して疲れたから休んでただけだよ。ほんっと風峯の思考回路はわけわかんないな!」
ドキドキをごまかすように思わず早口でまくし立てたけど……だめだな、まだ結構動揺してる。それもこれも、無駄に顔がいいコイツのせいだ、もう!
「どれ、見せてみろ」
「あ、ちょっと!」
風峯は勝手に隣に座ると、さも当たり前のように私のプリントを奪い取った。と、その時――
「司《つかさ》!」
派手に開かれた引き戸の向こうから現れたのは、なんだかよくわからないけど怒ってる女の子。重そうな胸部を揺らし風峯を睨みつける。
明らかに関係者だと思われる風峯に、小声でそっと「どちら様?」と聞いてみた。けれどヤツは私の質問も件《くだん》の女の子もまるっきり無視。
「ここ、間違ってる」
「あ、うん。それはありがとう。いや、そうじゃなくて……」
「ちょっとぉ! 無視すんな!!」
あくまでも自分のペースを崩さない風峯に女の子がキレた。そんな彼女が怒って動くたびに揺れる重装胸部装甲。その圧倒的存在感は否が応でも私の視界に入ってくる。すごいな……なんだろう、視界の暴力?
とその時、突然大きな音と共に清掃用具が入れてあるロッカーの扉が開いた。
「はいはーい! 僕でよかったらお話聞くよ」
中から出てきたのは金髪碧眼の天使のような美少年、林《はやし》。ただしその体操着を彩るのは真っ赤な麻縄。ご丁寧なことに、今日も亀甲縛りで準備万端のようだ。
そんな変質者登場に女の子は当然ドン引き。ヒィっと小さな悲鳴をあげると大きな目をうるうると潤ませ、何をしに来たのかよくわからないうちに泣きながら走り去ってしまった。
本当に何だったんだ、いったい?
「あの子も毎回毎回飽きないわねぇ」
入れ違いで部室に入ってきた武田《たけだ》先輩と麗《うらら》ちゃん先輩が呆れ顔であの子の後ろ姿を見送る。
「武田先輩の知ってる方ですか?」
「私だけじゃなくて麗も風峯くんも知ってるわよ。黄龍院華《きりゅういん はな》、いわゆる幼馴染ってやつね」
「華ちゃん、いつになったら僕のこと足蹴にしてくれるのかなぁ」
何かを想像して悶えている林くんは無視して、私は先輩たちに視線を固定した。
目を合わせちゃダメだ、つっこんじゃダメだ、変態は無視だ無視。なんか視線を感じるけど、見たら負けな気がする。
「それにしても玲ちゃんも災難ね~」
「本当に。ご愁傷様」
なぜか麗ちゃん先輩と武田先輩が唐突に憐れみのまなざしを送ってきた。
え、意味わかんないんだけど!?
「玲ちゃん、華に完全に目ぇつけられちゃったわよぉ。これから鬱陶しいだろうけどがんばってね!」
「ちょっ、目つけられたって何でですか!? 私、何もしてないですよ!!」
先輩二人の生温《なまぬる》い視線が風峯に向けられたのを見て悟った。
ああ、こいつのせいか、と。
一人何事もなかったかのように私のプリントの間違いを黙々と直す男。それはそれでありがたいけど、できればあの子の問題の方を早急に解決してほしい。
「ま、あの子もおバカだけど悪い子じゃないのよ。ただほんのちょっとだけ、思い込みが激しくて直情的で間抜けでおっちょこちょいなだけで」
「麗ちゃん先輩、それって一言でまとめると面倒くさいってやつじゃないですか?」
「あら玲ちゃん、シ・ン・ラ・ツ」
おどけた仕草でウインクをする麗ちゃん先輩。いやいや、そんなかわいい仕草じゃごまかされませんからね。それに麗ちゃん先輩がやるとそれ、一般的にはかわいいというより怖いですから!
「山田さんにとっては面倒以外のなにものでもないだろうけど、すっかり恋敵として認定されてしまったみたいだし……ま、適当に相手してあげてちょうだい」
一瞬、武田先輩が何を言っているのかわからなかった。いや、正確には脳が理解することを拒否した。
「こい……がた、き?」
思い切り顔を引きつらせる私に、武田先輩と麗ちゃん先輩が不思議そうな顔を返してきた。
「だって、山田さんは風峯くんとお付き合いしているのでしょう?」
「麗も聞いたわよぉ。司ちゃんがあちこちで吹聴してたもの~」
二人の言葉に思わず絶句。けど、思考停止してる場合じゃない!
「してません! ありえません!! あってたまるか!!!」
拒否、断固拒否。ここではっきりさせておかないと確実にヤバいことになる。
「照れるな、玲。俺たちはすでに将来を誓い合った仲じゃないか」
それまで一切会話に参加せず無視を決め込んでいたくせに、風峯は颯爽と立ち上がると座る私の肩に当然のように手を置き、そして笑顔で言い切った。
すぐさま肩に置かれた手をどかそうと試みたが、ぜんっぜん動かない! これが男女の差ってやつか!!
「誓ってないし付き合ってない!! そもそも付き合う気もない!!!」
「ははは、玲は本当に照れ屋だなぁ」
「話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
腕力的に抵抗は無駄らしいのでせめてもと口の方で抵抗してみたが、風峯はむかつくくらい爽やかな笑顔で私の言葉を全スルー。ほんと話通じないな、コイツ!
「まあ、それはそれとして。聞いて、今日は新しい秘密兵器を持ってきたの」
武田先輩は私の一大事を簡単に片付けると、うきうきと机の上に小さな丸い物体を並べた。百円玉くらいの大きさの平たくて丸い何か。そして次にスマホを取り出すと何かのアプリを立ち上げた。
「先輩……それ、なんですか?」
「よくぞ聞いてくれたわ、山田さん。これはね、小型の発信機よ!」
校内図が表示されたスマホの画面を誇らしげに私に見せる武田先輩。画面の中央には何やら点滅する丸がある。どうやらそれはこの部室を示しているようだ。
「武田、これの探知範囲はどのくらいなんだ?」
「この学園とその周辺5キロくらいまでね。ま、学園の秩序を守るには十分なカバー範囲でしょう?」
私の頭越しに会話する二人。
どうでもいいが風峯、お前人の頭にアゴ乗っけんな! 重いんだよ、さっきから!! あと勝手に抱き込むな、離せ!!!
「とりあえずみんなに一つずつ配るわね。はい、これ風峯くんと山田さんの分。麗にはさっき渡したからあとは豚、じゃなくて要《かなめ》ね。ほら、そこで無様に這いつくばって受け取りなさい」
「ありがとうございますぅ」
なんかもう、色々疲れてきた。目の前で繰り広げられる日常と化した異常にも、背後霊のように鬱陶しい変態にも……
「やだぁ、玲ちゃんったら。目が死んでるわよぉ」
目の前でころころと笑う麗ちゃん先輩がすごくまともな常識人に見えてきた。疲労困憊、もう今日はテスト勉強むり。私、なんでここを勉強場所に選んじゃったんだろう。
※ ※ ※ ※
というわけで、今日は勉強場所を図書室にしようと思い向かっていたわけなんだけど……
「覚悟なさい、この似非《エセ》ヒロイン! 真のヒロインたる私があなたの野望、必ず打ち砕いて見せるから!!」
絡まれた。図書室の真ん前で。周囲の視線が痛い。
「ごめんなさい、ちょっと言ってる意味が分からないです」
「私、知ってるもの! あなた、魅了とかのチートスキル使って司の心を操ってるんでしょ? そういうの、ネット小説で色々見たもの。じゃなきゃ、なんであなたみたいなのが司と付き合えるのよ!! それとも体? 体で落としたの!?」
「ちょっ、人聞き悪いな! そもそも私と風峯は付き合ってない!! それといつも向こうが一方的に絡んできてるだけだから」
「なによ、自慢!? ちょっと胸が小さいからって……大きな顔しないでよ!!」
馬鹿にされてるのかなんなのかよくわからない返しに思わず絶句すると、彼女は突然びしっと指をさしてきた。
「勝負よ、泥棒猫! 猫……っていうか子狸? まあ、いいわ。とにかく、次のテストの順位で勝負よ。私が勝ったら司を返してもらうから。覚悟なさい、泥棒子狸!!」
「誰が子狸だ! それより勝負とかいいから今すぐ引き取ってよ!! ほんとお願いします!!!」
「じゃあ俺が勝ったら、その時は俺の言うことを聞いてもらおうか」
頭上から聞こえてきたお馴染みの声、乱入してきたのは諸悪の根源、風峯だった。こいつ、なんでいっつも背後から現れるんだ?
「敗者は勝者の願いを一つきく。それでいいな? 黄龍院、玲」
「華って呼んでっていつも言ってるのに……司のばか。ええ、それでいいわ」
「辞退します」
ソッコーで断りを入れた私に二人は声をそろえて、
「却下」
と即答。なんでこんな時だけ気が合うんだよ!
「勝負は今度の中間テスト。最も順位が高かった者が勝者だ」
高らかに宣言する風峯。大きな瞳に闘志をみなぎらせる黄龍院さん。そして「またか」というような生温いギャラリーの視線――
ああ、胃が痛い。
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