学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎

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風の章

トキメキ☆吊り橋効果

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「最悪だ……」

 教室の机に突っ伏し長い長いため息をつく。

「どしたの? ずいぶんとお疲れみたいだけど」
「ああ、六花《りっか》……ちょっと、ね」

 昨日の顛末を六花へと吐き出す。すると彼女は苦笑いを浮かべ、「ご愁傷様」と武田《たけだ》先輩と同じ言葉をくれた。

「華《はな》ちゃんね~。悪い子じゃないんだけど……あ、でも男の趣味は最悪だわ」
「確かに」

 思わず同意。昨日武田先輩たちに聞いたところによると、黄龍院《きりゅういん》さんは小学三年生の時に風峯《かざみね》と同じクラスになり、それ以降ずっとアタックし続けてるとか。
 すごいな。いったいヤツの何にそんなにも惹かれてるんだろう? せっかくの顔と頭だけど、あの性格で差し引きゼロどころかマイナスだと思うんだけど……これが蓼食う虫も好き好きってやつかな?

「で、テストの順位で勝負……だったら絶望的ね~」
「黄龍院さんってそんなに頭いいの!?」
「違う、逆よ逆。あの子赤点常連、落第ギリギリの成績だもの。残念ながら風峯は引き取ってもらえないわよ」
「じゃあ何でテストで勝負なんて持ち掛けてきたの!?」
「うん……おバカ、だからかな」

 思わず再び机に突っ伏す私に、六花はさらなる絶望を突きつけてきた。

「目下、敵は風峯よ。負けたら玲、アイツの言うこと聞かなきゃなんないんでしょ? 何要求されるかわかったもんじゃないわよ」

 そうだった……そうだよ、そうなんだよ! どうしよう、私、アイツに勝てる気がしない。ううん、でも勝たないとものすごくまずい気がする。いや、確実にまずいよね。とにかく少しでも勉強して確率上げなきゃ!
 仕方なく覚悟を決め、机から教科書を取り出そうとしたのだけど――

「あれ?」

 つっこんだ手がむなしく机の中を泳ぐ。さっきの体育の授業前まではあったはずの教科書とノート、その一切合切がなくなっていた。慌てて机の中をのぞき込むと、そこには一枚のルーズリーフ。

 ――教科書はあずかった。テストおわったら返すけど、それまでこまれ!

 丸っこい文字で書かれた漢字少なめの置手紙。うん、心当たりは一人。

「華ったら、ほんとおバカさんなんだから」
「やっぱりか。どうしようかな……教科書ないと勉強できないのはもちろん、授業の時も不便なんだよなぁ」
「同じ一年だからさっき授業終わったばかりだろうし、まだ校内うろうろしてるんじゃないかしら? あの子、基本的にどんくさいから」

 散々な言われようだな、黄龍院さん。ほんの少しだけ同情する。

「六花、黄龍院さんのいそうな場所心当たりない?」
「たぶん今日も風峯のストーキングしてるんじゃないかしら?」
「ありがと。じゃあ、ちょっと見てくる」

 風峯のやつ、さっき職員室に行くって言ってたな。てことは、黄龍院さんもその周辺にいるってことか。なんて考えながら階段を下りてったらいたよ。本当にストーキングしてたし。
 風峯を眺めるのに集中してるのか、私がそばに立っても全く気付いてない。私も彼女の後ろから職員室の方を見てみたけど、風峯はまだ中にいるらしくて影も形もなかった。
 まあいいや。今、用があるのは黄龍院さんだし。

「黄龍院さん」
「ひゃっ!」

 よっぽど集中してたのか、普通に声をかけただけなのにめちゃくちゃビックリされた。

「私の教科書一式、返してもらえませんか?」
「な、なんで私だってわかったの!? あ、違う、私じゃないわ」

 思い切り白状しながら白を切る黄龍院さん。確かに面白いな、この子。

「えっとね、まだ授業もあるし、教科書ないと困るんだよ。だから返してくれないかな?」
「あ、そっか……授業の時は確かに困るわね。じゃなくて、私は知らないって言ってるでしょ」
「黄龍院さん、お願い」

 じっと見つめると、彼女はばつが悪そうに目をそらす。

「だ、ダメだもん! だって、司の目を覚まさせないと……だから、ダメったらダメーーー」
「あ、黄龍院さん、待っ――」

 突如走り出した黄龍院さん。慌てて追いかけるけど彼女、かなり足が速い。重そうな肩掛けかばんぶら下げてるのに全然追いつけない。結局あっという間に引き離されて見失ってしまった。

「すごいな、黄龍院さん……全然、追いつけない……し」

 私の方は荷物一つもないのに思いっきり息切れしてるけどな。もともと運動そんなに得意じゃないし。あー、疲れた。
 仕方なくぶらぶらと歩きながら黄龍院さんを探す。いつの間にか中庭にまで来てたらしく、何とはなしに渡り廊下から出ると空を仰ぎ見た。

 水槽の中にいるみたい。

 実習棟と教室棟に挟まれた裏庭から見上げる空は長方形。しかもこの時間、ここはあまり人通りがないみたいですごく静か。校庭の方から聞こえてくる運動部の声も、校舎からこぼれ落ちてくる管楽器の音色も、どっかガラス一枚隔てたみたいに遠く聞こえるから余計そんな風に感じるのかも。

「やだ、離して! 離してったら!!」

 柄にもなく感傷に浸っていたらいきなり女の子の切羽詰まった声が飛び込んできた。それはとても聞き覚えのある、今まさに絶賛探索中だった黄龍院さんの声だった。

「黄龍院さん!」

 声が聞こえる方、中庭の奥を目指して走った。そこにいたのは黄龍院さんと……やたらリアルな豚のマスクを被った変質者だった。

「誰かぁぁぁぁぁ、変質者ぁぁぁぁ!!」

 私は力の限り叫んだ。
 だって、私が飛びかかったところで助けられるとは到底思えなかったから。そんなの無謀にもほどがある。だったらここは普通に助けを呼ぶべき。
 次いでスカートのポケットからスマホを出そうとしたその時、豚男がぐったりとした黄龍院さんを小脇に抱えたまま飛びかかってきた。
 豚男は空いている方の腕で私を押し倒し、そのまま逃げるように背を向けた。

「……っけんな! この変態豚男!!」

 か弱い女の子に躊躇なく暴力を振るう変態、許すまじ! 私は勢いよく跳ね起きると変態に飛びかかる。けれど現実はそんなうまくいくものではなく、あっけなく振り払われてしまった。

「お前のような胸平《むねたいら》族に用はない」

 豚男は本当に失礼で、そしてどこまでもムカつく奴だった。ヤツはしりもちをついた私を一瞥し鼻で笑うと、そのまま黄龍院さんを抱えて走り去ってしまった。

「なんだよ、胸平族って!! ……チビだからってなめんな」

 近くに落ちていたスマホを拾い、とりあえずアドレスの一番上に出てきた風峯を呼び出す。

「どうした、玲?」

 ワンコールもしないうちにヤツが出る。なんか気持ち悪いな。ま、いいや。

「黄龍院さんが変質者に連れてかれちゃったんだ。追いかけたいんだけど私一人じゃ無理だから、悪いんだけど武田先輩たち連れてきてくれないかな」
「……玲、今どこにいる?」
「裏庭」

 風峯は私の場所を確認すると、すぐさま通話を終了する。そして五分もしないうちに現れた。一人で。

「みんなは?」
「後から来る。それより……」

 風峯の声が一段低くなった。
 ヤバい、なんかすっごい怒ってるっぽい。って、そりゃそうだよね。目の前でみすみす黄龍院さんさらわれちゃったんだもんなぁ。
 険しい顔で見下ろしてくる風峯の雰囲気に気圧され、私はうつむき身をすくめた。

「ごめん。黄龍院さん助けられなくって。でも――」

 軽い浮力、そして唐突に高くなった視界に思わず絶句。

「何、何して――」
「膝、血が出てる。保健室行くぞ」
「こんなの全然平気だし一人で歩けるし! 降ろし――」
「却下」

 問答無用で却下された。
 でも! これっていわゆる「お姫様抱っこ」ってやつ……うっわ、ヤバい。めちゃくちゃ恥ずかしいし、顔熱いし、いたたまれないし!!

「いや、本当に大丈夫だから」
「却下」

 とうとう却下しか言わなくなっちゃったよ。でもさ、そんな不機嫌全開にならなくてもよくない?
 確かに黄龍院さん助けられなかったけどさ、そんなん仕方ないじゃん! 私チビだし非力だし、みんなみたいな取り柄もないただの女子高生だし。あんな変質者、麗《うらら》ちゃん先輩じゃあるまいし一人でどうこうできるわけないじゃん。
 ……って、さっきから風峯無言だから、なんかすっごい気まずいんだけど。

「あの、本当にごめん。黄龍院さん、助けられなくて」
「そんなのはどうでもいい」
「へ? だって、黄龍院さん助けられなかったから怒ってるんじゃないの?」

 予想外の風峯の答えに、思わずヤツの顔を見上げた。
 ほんとコイツ顔だけはきれいなんだよな、なんて考えてたらいきなりヤツがこっちを見た。目が合って、不本意にも一瞬だけドキッとしてしまった。これだから顔のいいヤツは困る。

「馬鹿か、そんなわけないだろう。俺がムカついてるのは、玲がケガをさせられたことだ」

 あれ? なんだ、てっきり黄龍院さん助けられなかったことに怒ってるのかと思ってた。もしかして風峯って変だけど、結構いいヤツ?
 それ以降風峯は一言も喋らず、結局私はそのままの状態で保健室まで連行されてしまった。もう恥ずかしいやらなにやら。途中、廊下にいた人たちの視線がものすごく痛かった。
 手当を受ける私の横で、風峯はスマホを取り出すと誰かと話し始める。

「剛《たけし》……って面倒くさいな。ああ、わかったわかった。麗、集合場所変更だ。みんなに保健室来るように言ってくれ」

 どうやら麗ちゃん先輩だったらしい。剛って一瞬誰かと思った。
 ほどなく全員保健室前に集合。泥のついた制服に膝と手のひらの絆創膏、そんな私を見てみんなの顔が瞬く間に曇る。

「ひどいや! 女の子に暴力振るうなんて……暴力は女の子が振るってこそなのに!!」
「か弱い女の子になんてヤツかしら! 乙女の敵、許すまじ!!」
「本当にひどい。山田さん、よかったらこれ使って」

 ちょっとおかしな方向に憤慨する林くんにドスのきいた声ですごむ麗ちゃん先輩、そして替えのジャージを持ってきてくれた武田先輩。かなり変わってるけど、風峯含めてみんないい人たちなんだよなぁ……なんかちょっとだけ嬉しい。

「って、和んでる場合じゃない! 武田先輩、今すぐあのアプリ立ち上げてください!!」
「あのアプリ?」
「発信機のやつです! さっきもみ合った時、あの変質者の服のポケットに発信機つっこんどきました」

 そう、私だってただ馬鹿みたいに飛びかかったわけじゃない。スマホを取り出そうとした時、ちょうどポケットに入ってた発信機《それ》の存在を思い出したんだ。

「ナイスよ、山田さん」

 武田先輩はスマホを取り出すとすぐさまアプリを立ち上げた。画面に現れたのは動かない三つの光、そして離れた場所で一つだけ移動している光。

「学園戦隊風林火山、出動!」


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