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火の章
忍者とストーカーと私 ★
しおりを挟む季節は秋――
読書の秋、食欲の秋、芸術の秋……
そして、文化祭の秋。
「麗ちゃん先輩のクラスは何やるんですか?」
部室に持ち込んだミシンの前で大量の布と格闘する麗ちゃん先輩。パステルカラーのピンクとか青とかの……ワンピースかな? なんかめっちゃフリフリしたの作ってる。
「うち? うちは魔法少女喫茶よ」
「それはまた大変そうですね」
「でも、せっかくならみんなでかわいいの着たいじゃない? だから手分けして頑張ってるの。私はこういうの得意だから、多めにもらってきてるんだけどね」
さすが麗ちゃん先輩。ほんといい人だよなぁ。
でもそれ、女子が着るんですよね? 麗ちゃん先輩が着るのはまあいいとして、残りはそれ、女子の分ですよね?
「麗せんぱぁぁぁぁぁい!」
響いたのは野太い声。直後、見上げる私の視界を猛牛のように突進していったのは、きれいに刈り上げられた硬そうな角刈りの黒髪。そして視界いっぱいに広がったのは、プロレスラーみたいな逞しい背中。
麗ちゃん先輩が可憐な仁王像なら、この人は可憐なミノタウロス……って、なんかこれデジャヴ? 夏休み前にもこんなのなかったっけ?
いやいや、それより可憐なミノタウロスってなんだ!? 私、なんか感覚おかしくなってきてない?
「あら、奏じゃない。どうしたのよ、そんなに慌てて」
麗ちゃん先輩に飛びついたのは同じクラスの男子、桜小路奏くんだった。
重量級同士の抱擁は迫力あるなぁ。そういえば夏休み前、桜小路くん校門前で公開告白してたけど……あれ、結局どうなったんだろう?
「奏くぅぅぅぅぅん!」
直後、桜小路くんを追うように飛び込んできたのはやっぱり同じクラスの女の子で、乙女聖さんだった。
「もう、アンタしつこいのよ! あたしは隼人様一筋だって言ってるでしょ!!」
「奏くんのそういう一途なところも好き! だから私のハーレムに入って!!」
「話の通じない女ね! だからお断りだって言ってるでしょ!!」
麗ちゃん先輩を挟んで痴話げんか(?)が始まった。うわぁ、迷惑。ほら、麗ちゃん先輩も困ってるじゃん。
「あの――」
「うるさいぞ、無駄肉女と青ヒゲ。玲が迷惑がってるだろ」
風峯、またお前か。私が穏便に済ませようとしてたのに、コイツはほんと毎回言葉選ばないな。青ヒゲはともかく無駄肉って……ほんと、全世界の大きい方が好きな人と大きい人に失礼だぞ、お前。
「うるさいわね、ロリコン眼鏡。私はあんたみたいなうらなり青瓢箪に興味はないのよ」
「風峯くん、ひどい! あたしのこれはひげじゃなくて、肌が白いからちょっと血管が透けて見えてるだけって言ってるでしょ!」
「黙れ無駄肉と青ヒゲ。俺はロリコンじゃないし、お前のはどう見てもヒゲだ」
うっわ、容赦ないな、風峯。でも桜小路くん、血管はさすがに無理があると思う。それは仕方ない。
「はーい、みんなちょっといっぺん落ち着きなさいって。で、奏。なんかあったから、わざわざ私のとこまで来たんでしょ?」
「あ、はい。それなんですけど……」
桜小路くんが麗ちゃん先輩を頼ってきたのは、最近ストーカーに悩まされて困っているということを相談したかったからだった。
「今年に入って体操着が三着、柔道着が一着。予備がなくなるから洗濯大変だし、気持ち悪いしお金はかかるしで、ほんっと最低!」
うわぁ、それはお気の毒。ちなみにそのストーカーって乙女さんじゃないよね? 乙女さん、いっつも桜小路くん追い回してるけど……
「ちょっ!? ちがっ、私じゃないから! 私は奏くんの物が欲しいんじゃなくて、奏くんが欲しいの。そこんところ誤解しないでよね」
つい乙女さんの方を見たら、思いっきり察されて怒られた。
「ごめん。つい……」
とはいえ乙女さんも本気で怒ってたわけじゃないみたいで、謝ったら「ま、いいわ」と軽く許してくれた。よかった。
「それに、ストーカーだったら私にもいるし。というか夏休み明けてからだけど、結構な人数の女子がストーカーに悩まされてるのよね。ま、私には護衛がいるから、物を盗まれたりは今のところないんだけどね」
「護衛?」
思わず聞き返した私に乙女さんは得意げに胸をそらすと、「たまきち!」と一言。
「へい、お待ちっス~!」
一瞬の沈黙の後――
「い、いやぁぁぁぁぁぁ! 変態!!」
部室内に轟いたのは野太い絶叫。ごつい両手で顔をおおった桜小路くんが、それに背を向けてうずくまっていた。
「うっわぁ……」
思わず声がもれてしまった。
だって! いきなり天井から、ピンクのアフロから肌色のウサミミがのぞく全裸にマフラー一丁の変態が降ってきたんだよ!! もうこれ、うわぁ以外の言葉が出てこないよ。
「ども~。一年普通科、月野玉兎っス~。あ、気軽に『たまきち』とか『もじゃ』って呼んでくださいっス~」
「私のハーレムメンバーその二、たまきちよ。ちなみに一番は奏くんのために取ってあるからね」
「いらないからさっさと埋めちゃいなさいよ、そんなもん!! あとたまきち、アンタはとりあえず服着なさい!」
「服は着ないっス! 別に見えてないんだからいいじゃないっスか~。俺っちの天然モザイク、めっちゃすげーっしょ」
堂々と、なぜかむしろ誇らしげに腰を突き出す全裸変態。確かになんか下にもアフロがあって見えてはないけど……見えてはないけど! でもそれ、見せていいやつなの!? 普通、そこ含めて隠さない?
「バカなの!? そもそも下のアフロも人前にさらすものじゃないでしょ! アンタ上も下も前も後ろも、ありのままボーボーとさらけ出しすぎよ!!」
桜小路くん、めっちゃ正論。なんかすっごい親近感わくわ。
「尻のは毛じゃないっス。尻尾っス! 俺っちのチャームポイントっス!!」
尻を突き出す全裸変態は、一度脳みそオーバーホールした方がいいと思う。
乙女さんの趣味がわからない。わからないよ……
桜小路くんはまあ、癖が強いっちゃ強いけど、理解できなくはない。ただ桜小路くん、恋愛対象男みたいだから、乙女さんが頑張っても無理なんじゃないかなぁ。
で、全裸変態は……一体何がよくてハーレムメンバーにしてるの? わからない、私にはまったくわからないよ。
「あら、お客さま? ずいぶんと賑やかね」
「あー、乙女ちゃん! こんにちは、罵って!!」
そんなカオスな中、悠々と部室に入ってきたのは紫先輩。そして手の施しようのないほどいつも通りな林くんだった。
「あ、紫。ちょうどよかったわ。この子、私の後輩で奏っていうんだけどね……」
林くんを無視して、麗ちゃん先輩が事の次第を紫先輩に説明する。最近、林くんの扱いがみんな雑な気がするのは気のせいだろうか。
って、林くん……なんか服脱ぎだしてるんだけど。あれ、誰か止めてくれないかな。あ、桜小路くんの繰り出した恥じらい張り手でぶっとばされた。よし、解決。
「事情はわかったわ。どうやらこれは、風林火山の出番のようね!」
うわぁ……紫先輩、すっごい嬉しそう。夏休みの間、物足りなかったんだったんだろうなぁ。私は久々の家で心安らかな日々を送れたけど。お母さんも妹も変わってなくて安心したな。って、四か月かそこらでそうそう変わってるわけないか。
「とりあえずクラスにいるときは山田さんが乙女さん、桜小路くんには司がついてあげて」
「私、たぶん役に立たないですよ」
「いいのいいの。山田さんに戦闘力とかは期待してないから。その辺はそこのチャラ全裸でも盾にすればいいし」
「じゃあ、なんのために?」
「なんとなく? なんていうか、山田さんには引力があるって言うか……」
やだよ、なんの引力!? この学校に通い始めてから、変態遭遇率高過ぎて泣きそうなんですけど!
紫先輩の言葉、それじゃまるで私が変態を引き寄せてるみたいなんですけど。認めない……絶対認めない!!
「紫、この青ヒゲにも護衛って必要なのか? 俺も荒事は専門外だぞ。それに、俺よりコイツの方が絶対強いだろ」
「ひどい~! 風峯くん、ほんっとひどい! デリケートなあたしの乙女心に配慮して」
「断る。柔道部のエースに俺なんかの護衛が必要か? お前ならできる。自分を信じろ。俺は玲を守る」
「司、わがまま言わないの。久々の活動なんだから、ちゃんとそれらしくしなさい。そしたら後で山田さんの……」
「紫先輩!? 職権乱用、公私混同よくない!!」
あの人、風峯に私の何を!? もしかして今までも……なんかあった、のか?
「さ、とにかくミッションスタート! 今回は桜小路くんと乙女さんのストーカー退治。張り切っていきましょ」
流された!!!
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