学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎

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火の章

変態とおとりと私

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 乙女さんは私と同じクラス、しかも同じ寮生だった。今までほとんど話したことなかったけど、話してみると意外と話が合ってびっくりした。
 男の趣味はやっぱりちょっと理解できないけど、六花りっかともはなちゃんともすっかり仲良くなったみたいだし、きっかけはともあれ、新しい友達ができたことは嬉しい。

「で、ひじりんのストーカーってどんなことしてくるの?」

 昼休み、話題は件のストーカーのことに。
 六花はお弁当を食べ終わった後、くっつけた向かい側の机の上におやつを広げながら聖に軽く問いかけた。

「んー、今のとこ見てくるだけ、かな。たまきちがいるからだと思うんだけど、直接何かをされたことはないよ。たまきち、あれでも優秀な忍者だから。ちなみに六花と華は?」
「私は体操服盗られた。ほんとムカつくわ~」
「私はよくタオルがなくなるかな。て言っても、自分でもよくなくすんだけどね」

 どうやら夏休み明けに現れたストーカーは女子限定で複数人をストーキングしてるらしくて、六花たちの他にも何人か物がなくなったって言ってるのを聞いた。ちなみに私はターゲットじゃないらしい。持ち物なくなったこと一度もないや。
 それはそれとして。あの全裸変態、優秀な忍者なら丸出しじゃなくてきちんと忍ばせて欲しい。

「全裸――たまきちは見たことないのかな? いるのはわかってるんでしょ?」
「それなんだけどね~。たまきちも何度か捕まえようとはしたらしいんだけど、相手の逃げ足が異常に早いみたいで」

 優秀な忍者も捕まえられないストーカーってやばいな。でも学校の中で出るんだったら、おそらくは学校関係者だよね? まあ、絶対ってわけじゃないけど。華ちゃんの時や演劇部の事件もあって警備員増員されたし、可能性としては外部の人より内部の人の方が高いと思うんだけど……あー、でもやっぱりわかんないか。忍者にも捕捉できないような隠密スキル持ちだもんなぁ。

「聖ちゃんも大変だね。私も中間テストの頃、ひどい目に遭ったけど……」

 遠い目をしながらお菓子をつまむ華ちゃん。
 ええ、あれはひどかったですね。私も散々な目に遭いました。豚野郎、許すまじ。

「夏休み前は演劇部でも変質者騒ぎがあったんでしょ? 物騒な世の中よねぇ」

 こちらもお弁当を食べるためにくっつけた右斜め前の机で、奏くんが物憂げなため息をついた。部室に来たあの日以来、奏くんとも一緒にお弁当を食べる仲になっていた。なんか感覚としては、もはや女友達になってる。
 そして奏くんがここにいるということは、イコールで風峯もいる。こいつ、毎回私の右隣に陣取るんだよね。ま、部室でもほぼ隣にいるから慣れちゃったけど。

「あれから一週間経ったけど……出てこないね、ストーカー」

 そう、ストーカーはまだ一度も姿を現してない。聖のも、奏くんのも。

「だが、こっちも確実にいるっぽいぞ。三日前、青ヒゲのロッカーを荒らそうとしたもの好きの形跡も残ってたしな」
「姫のとこにも何度か来てたっスよ~。俺っちがいるからか、やっぱ姿は見えなかったっスけど」

 いつの間にか、風峯の隣にたまきちが立ってた。
 この全裸、神出鬼没で毎回心臓に悪いんだよな。あと、毎回クラスの人たちが一斉に目を逸らすから、なんかすっごいいたたまれない。これ、もう確実に「しっ! 見ちゃいけません」的な扱いだよね……

「もう、いっそばーんと姿を現してくれたらいいのに! このままじゃあたしが隼人さまウォッチングに集中できないじゃない!!」
「ほんとほんと。私も奏くん勧誘に集中できない!」

 ストーカー被害にあってるストーカー予備軍ども。これ、解決するともれなく新たな被害者が出るんでは?
 あ、隼人さまが顔面蒼白でこっち見てる。聞き耳たててたんだろうなぁ。ご愁傷様です。

「玲も毎回大変ねぇ。こんなやつらと関わるからよ」

 風峯に冷たい視線を向ける六花。さすが幼馴染さま、よくご存じで。でも、関わっちゃったのは不可抗力だったんです。

「紫ちゃんも麗ちゃんも司も、それに林くんも。みーんな我が強いもんねぇ。がんばって、玲ちゃん」

 憐憫のまなざしを注いでくれる華ちゃん。こちらもさすが幼馴染さま。やっぱりよくご存じで。ほんと我が強すぎるんですけど、あの人たち。

「ここまで動きがないと面倒だな。俺はいつまでこの青ゴリラに関わってればいいんだ?」
「風峯くん、いつもいつもほんっとひどい! 青ゴリラってなんなのよ!? あたしには奏っていう立派な名前があるんだから、ちゃんと奏ちゃんとか奏とか名前で呼んでよ!」
「うるさい青ゴリ。こうなったらもう、困った時のおとり作戦いくか? ここまで何もないと、そろそろ紫も飽きてきてるだろうしな」

 紫先輩ならありえそう。あの人もほんと自由人だよなぁ。同好会の活動、学園の平和を守るためとか言ってるけど、本当は絶対自分が楽しむためにやってると思う。

「と、いうわけだ。放課後、部室いくぞ」

 風峯のまとめと昼休の終わりを告げるチャイムで、その場はいったん解散となった。

 そして放課後――

「採用!」

 やっぱりね!
 紫先輩、即答だったよ。動きがなくて退屈してたんだろうなぁ。ほんとこの人は……

「おとりはいいけど……奏は心配ないとして、聖ちゃんは護身の心得あるの? 演劇部の時はかおるちゃんが護身術嗜んでたからよかったけど、とっさのときが怖いのよねぇ」

 おお、さすが麗ちゃん先輩。同好会の良心。

「たまきちっていう護衛はいるけど、私自体はただのか弱い乙女よ。残念ながら身を守る術はないわ」
「この尻尾にかけて、姫は俺っちが守るっス!」

 言ってることはとてもかっこいいが、とりあえずその尻尾尻毛はしまえ。前も隠せ。いいからとにかく服を着てくれ。

「それなら大丈夫。今回は人っていうより、物で釣るから。というわけで、まずは乙女さんの方から片付けちゃいましょうか」


 ※ ※ ※ ※


 聖以外誰もいない教室を、秋の夕日が優しく茜色に浮き上がらせていた。

「乙女さん、よかった! まだ残ってて」

 茜色の教室をがらりと切り裂き、開かれた扉から一人の少女が慌てた様子で駆け込んできた。彼女は帰り支度をしていた聖の手を取ると、有無を言わせず教室の外へと引っ張っていく。

「ちょっ、なに!? 待ってよ、白藤しらふじさん」
「緊急事態なの! 理由はあとで話すから、今はとにかく一緒に来て!!」

 ぱたぱたと遠ざかる二人の足音。そして、教室に残されたのは――


 ※ ※ ※ ※


 演劇部の白藤さん(くん?)に協力してもらって、なかなか姿を現さないストーカーをおびき出すため一芝居うってもらった。今まではたまきちの護衛や聖本人のしっかりとした性格で隙がなかったところへ、ストーカーにとって千載一遇のチャンスを放り込む。

「かかってくれるかしら?」
「一週間おあずけをくらったやつの煩悩を信じましょ。今は祈るしかないわね」

 放送室、モニターを凝視するのは白衣を羽織った紫先輩とピンクジャージユニフォームに着替えた麗ちゃん先輩。しんと静まり返った教室を、その場の全員がモニター越しに凝視する。

「お姉さま! これでよかった?」

 ばんっと勢いよく開かれた扉から、白藤さんと聖が入ってきた。

「上出来よ、白豚」
「きゃーん、お姉さま~」
「僕も~紫さま~」

 叫びながら紫先輩に突進した白藤さん。そして、どさくさ紛れに続く林くん。けど次の瞬間、二人はきれいに縛られ転がされていた。うっわ……二人ともめっちゃいい顔してる。気持ち悪いなぁ。
 しかし紫先輩、それ、もう人間業じゃないです。今のどうなってたの!? まったく見えなかったんだけど。……こわっ!!
 いや、縄さばきもおかしいけど、そもそもこの放送室なに? なんで各教室がモニターできるようになってんの? なんなの、ここディストピアなの?

「あ、紫!」

 麗ちゃん先輩がモニターを指さした。

「来たわね」

 茜色の教室の中、うごめく怪しい影。それは餌として机の上に置かれた、袋に入った聖の体操服へと手を伸ばす。

「現行犯確保!!」

 ミキサーの隣、カバーが外された何かのボタンを紫先輩が押した。瞬間――

『あばばばばばばばば』

 怪しい悲鳴をあげる怪しい影と聖の机を囲うように、天井から鉄格子が降ってきた。

「どうなってんのこの学校!?」

 思わず叫んでしまった。いや、これは叫ばざるを得ないだろ。
 なんで放送室がモニタールームで教室の天井から鉄格子が降ってくんだよ! 何を想定してるの? おかしいだろ、この学校!! ここ、ほんとに学校なの!?

「さ、行くわよ。風林火山号、準備!」

 紫先輩のかけ声で騎馬を組む麗ちゃん先輩たち。

「いやいやいや、今回は怪我もしてませんし乗りませんよ!?」
「ぐずぐずしない! さっさと乗る!!」

 また自分だけ電動立ち乗り二輪車セグ〇ェイに乗ってるし! 交換してよ!!
 結局押し切られ、またもやあの恐怖と羞恥の騎馬に乗せられてしまった。もうやだ、誰か助けて。
 そして距離的にはたいしたことないけど、体感的にはかなりの長距離な地獄のドライブを乗り切り、なんとか教室に着いた。

「さあ、観念なさい。こそこそと人をつけまわす、卑劣で薄汚いストーカー野郎!」

 教室のドアをばばーんと勢いよく開けて、紫先輩がドヤ顔を決める。そして、またあの地獄の時間がやって来た。

「根回しはやきこと、風のごとく」
「お仕置き中はしずかなること、林の如く」
「ハートを侵掠しんりゃくすること、火の如く」
「私の常識は揺るがない……はず、山の如し!」

 今回も半泣きの私の言葉を継ぐように、最後は紫先輩がドヤ顔で見得を切る。

「疾風怒濤! 学園戦隊風林火山、見参!!」

 ……あれ? これだけ怪しい登場したのに、檻の中から反応がない。しんと静まり返った教室、かすかに聞こえてくるのは鼻息? 何かを嗅いでいるような息遣いだけ。

「違う。これ、聖ちゃんの体操着じゃない」

 檻の中、怪訝な顔で体操服に顔をうずめていたのは一人の女子だった。
 
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