学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎

文字の大きさ
19 / 30
火の章

慣れと諦めと希望を胸に ★

しおりを挟む
 
 紫先輩の指の先、そこにいたのは――

「……男子?」

 一人の男子生徒だった。
 麗ちゃん先輩や奏くんと比べると細いけど、標準よりはだいぶ立派な筋肉男子。ただその顔は、いかにも不審人物ですって感じの目出し帽に隠されてた。それにしてもこんな強そうな人、私たちだけで捕まえられる?

「これ、奏くんにも協力してもらった方がいいんじゃ……」
「却下。おまえ、あのゴリラの全裸見たいか?」

 あ、そっか。奏くん、今シャワー室だった。

「それに、剛が来るだろ」

 ほんとに信頼してるんだなぁ。きっと今までも、麗ちゃん先輩は約束守ってきたんだろうな。
 ひとまず視線を覆面ストーカーに戻す。ストーカーはこの状況に戸惑ってるらしくて、どう動けばいいか迷ってるみたい。
 でも、ストーカーの正体がまさかの男子だったとは。奏くんのストーカーっていうから、私はてっきり聖や天音さんみたいな、ちょっと突き抜けた感じの女の子だと思ってた。だから天音さんが言ってた奏くんのストーカーの特徴聞いた時も、うわぁとは思ったけど、そういう女子もいるのかなぁって思っちゃったんだよね。

「あなたが現れるのは、桜小路くんが汗をかいた時だけ。そして桜小路くんのものが盗まれるのは、彼が運動で使ったあとの体操服や道着だけ。だから、必ず来るって思ってた。だって、ねえ? 司の妨害で一週間もおあずけくらってたのに、こんな新鮮な匂いのついた服、我慢できないでしょ?」

 天音さんから聞いたストーカーの特徴を、微笑みながら本人に向かって語る紫先輩。それにストーカーから悔し気なうめきが返される。

『私も直接姿を見たことはないよ。だって、私が好きなのは女の人だもん。あ、男でもいけるけど男はやり捨てね。で、あいつはゴリ専。だから聖ちゃんがあのゴリラをストーキングすると、必然的にバッティングするのよ。でもでも、毎回必ずってわけじゃないの。あいつが現れるのは、ゴリラの体育とか部活のあとだけ。たぶんだけどね~、アイツ、体臭性愛オルファクトフィリア――いわゆる匂いフェチってやつじゃないかな?』

 天音さんはこのストーカーを匂いフェチだって言ってた。だから奏くんが今日部活だって知って、紫先輩は急遽奏くんをおとりにしたんだ。
 いつもよりゆっくりめにシャワーを浴びて、ストーカに付け入る隙を作ってって。

「さ、観念なさい! その覆面を取っておとなし――」
「避けろ、紫!」

 いきなり覆面ストーカーが突進してきた!
 いち早く反応した風峯は紫先輩を突き飛ばすと、私をかばうように抱きしめてきて――

「風峯!」

 どんっという重い衝撃が風峯越しに伝わってきた。小さなうめき声をもらして風峯がよろめく。
 なんとかふんばってくれたけど……絶対痛かったでしょ、今の。かばうとか……風峯のくせにかっこつけんな。
 風峯は私を離すと、覆面ストーカーが逃げていった方へと顔を向けた。それと同時に紫先輩も態勢を立て直す。

「剛! 遅い!!」
「麗! 受け止めて!!」

 そして紫先輩は、手に持っていた縄を勢いよく引っ張った。

「ああん……って、いぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「おわっ!?」

 紫先輩が引っ張った縄は林くんを縛っていたもの。だからそれを引いたのなら、林くんがついてくるのは当然のことで。
 高速で地面を引きずられた林くんは、その勢いのまま覆面ストーカーの足へと絡まる。そして覆面ストーカーは全速で逃げていたことが仇になって、林くんが絡んだ衝撃で弾丸の如くふっとんだ。

「魔法少女エンジェル麗、プリティーに見・参☆」

 直後、聞こえてきたのはふざけたセリフ。弾丸ストーカーの着弾点で彼を待ち構えるように麗ちゃん先輩がポーズを決めていた。

「麗ちゃん先輩!」

 でも待って。麗ちゃん先輩、なんで魔法少女の衣装着てんの? え、わざわざ取りに行った忘れ物って、まさかそれ?
 そんなわりとどうでもいいことを考えてる間に、弾丸ストーカーが麗ちゃん先輩に着弾した。

「悪い子には~、プリティー麗がお天道様に代わって~、お~しお~きよ~」
「ぐっ、離せ!!」

 もがく覆面ストーカーの背にがっつりとまわされた麗ちゃん先輩の両腕。そのまま麗ちゃん先輩は大きく息を吸い込むと――

「ひっさつぅ~……天使の抱擁エンジェルエンブレイス!!」



 麗ちゃん先輩、後半は完全に野太い咆哮になってましたよ。魔法少女どこいった。完全に地声ですよね、それ。あと麗ちゃん先輩、それ天使じゃなくて完全にただの熊の抱擁ベアハッグです。

「んほぉぉぉぉぉおぉぉぉ」

 麗ちゃん先輩の必殺技に、覆面ストーカーから悲痛な叫びが上がっ……悲痛?
 いや待て。これ悲痛か? なんか……喜んでない?

「しゅご、しゅごいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 メキメキと締め上げられ、気持ち悪い声を上げ続ける覆面ストーカー。

「成・敗!」

 仕上げとばかりに麗ちゃん先輩が腕に力を込めた。すると覆面変態は聞いていられないような声を上げて果てた。

「これはこれで……また」

 あ、変態泡吹いた。それにしてもきもっ! ほんときっも!!

「麗先輩、ありがとうございました!」

 気絶した変態の覆面をはぎ取ったところで、更衣室から奏くんが走ってきた。
 まだ髪の毛セットしてないからか、前髪が下がっててなんか雰囲気がいつもと違う。……あれ? ヒゲは濃いけど、ありっちゃあり? いや、私の好みではないけど、なんか思ったよりイケてない?
 
逆十字ぎゃくじゅうじ先輩?」

 地面に転がっている変態を見下ろして、奏くんが眉をひそめてつぶやいた。

「奏の知り合い?」
「……はい。同じ柔道部の先輩で、三年生の逆十字先輩です」

 麗ちゃん先輩に悲しそうに答えた奏くん。
 そりゃ悲しいというか、なんとも言えない気持ちになるよね。ようやく捕まえたストーカーが、普段よく顔を合わせる同じ部活の先輩だったなんて。
 とりあえず転がってる変態を紫先輩が縄で縛り、私たちは彼が息を吹き返すのを待った。
 しかしこの変態、めちゃくちゃ幸せそうな顔してるな。本気で気持ち悪いんですけど。
 
「あの、ところで麗ちゃん先輩。取りに行った忘れ物って、その衣装だったんですか?」

 変態が起きるまでの間、特にやることがないので聞いてみた。

「そうよ~。一度やってみたかったの、魔法少女! 紫の趣味で戦隊やってるけど、私としては、本当は魔法少女隊やりたかったのよ」

 あ……あっぶねぇぇぇぇぇぇ!
 今の戦隊もだいぶ恥ずかしいけど、まだジャージだし、衣装的にはなんとか……。でも一時期、それぞれの色のサンバイザーで顔を隠すとかいう案も出てたな。もはや正体バレバレだし、今更かくしても遅すぎるわ! 今のところまだ採用されてないけど、採用されないことを願ってる!!
 そうそう、衣装的にはまだ我慢できるんだよ。でも魔法少女隊なんてやったら……麗ちゃん先輩、絶対衣装とか凝っちゃうじゃないですか! 無理、絶対無理!! その衣装で必殺技とか名乗りとか決めポーズとか、絶対無理!!!

「だめに決まってるでしょ。こういうのはね、スポンサーの意見が一番なんだから。うちの部費、私のポケットマネーが大半なの忘れないでね」
「わかってるわよぉ。だからいつもはちゃんと戦隊やってるでしょ。ま、チャンスは毎回うかがってたけどね。今回はたまたま文化祭の衣装もあったし、今日ならいけるって思ったのよ」

 突如背中に悪寒がはしり、あわてて振り向くと風峯がじっとこっちを見ていた。

「魔法少女か……悪くないな」
「やんないからね! あとそれ、風峯も着ることになるんだよ!?」
「玲のが見られるなら別にかまわないが」
「私がかまうから無理!!」

 何を言い出すんだこの眼鏡は。麗ちゃん先輩がやる気になっちゃったらどうするんだよ!

「……はぅん」

 気持ち悪い声と共に変態が目を覚ました。よだれ垂れてますよ、変態先輩。

「さて。ようやく起きたわね、逆十字先輩」

 縛られていること、覆面がないことに慌てふためく変態先輩。けど、もう逃げられないってわかったのか、諦めたようにうなだれた。

「先輩……なんで、こんなこと」

 奏くんが悲しそうに変態先輩を見つめる。それに変態先輩は、「我慢できなかったんだ」ってつぶやいた。

「初めて組み合った時、気づいてしまったんだ。他の誰より、部の中で一番、奏くんの匂いが一番気持ちよくなれるって! あと、奏くんの締め技が一番気持ちよかった!!」
「ひどい! 面倒見のいい、優しい先輩だって信じてたのに……あたしのこと、そんな目で見てたなんて。あたしやっぱり、柔道部なんて無理!! このままじゃあたしの魅力で、他の部員たちも道を踏み外しちゃうかもしれない」

 いやいや、この変態先輩が特殊なだけであって、他の部員はそんなことないでしょうよ。奏くん、いくらなんでもそれは他の人に失礼だと思うよ。

「だが! 俺は今日、もう一人の昇天使を見つけた!! 魔法少女エンジェル麗、さっきのあれは最高の圧迫感だった」
「あら、それはどういたしまして。でも残念だけど、今のあなたとはもう二度と会うことはないんじゃないかしら」

 え? 麗ちゃん先輩、なんか怖いこと言ってない?

「お待たせいたしました、紫さま」

 そこへやって来たのはお馴染み、紫先輩のおうちの謎の黒服さんたち。夏休み前、豚男を連れ去ったあの人たち。

「洗の――矯正プログラム、お願い」

 紫先輩の一言にうなずくと、黒服さんたちは変態先輩を絞めおとしてから回収していった。あれ、どこに連れていかれるんだろう……そして矯正プログラムって…………


 ※ ※ ※ ※


 奏くんをストーカーしてた変態先輩は停学になったみたい。退学にならなかっただけましとはいえ、矯正プログラムって何をされてるんだろう……いや、これ以上は考えるのはやめよう。世の中には知らない方がいいこともある。

「お待たせしました~。魔法少女のハートキャッチパンケーキになりま~す」

 今日は文化祭。そしてここは、麗ちゃん先輩たちのクラスの魔法少女喫茶。あのかわいい衣装を着た女子たちがいっぱいいた。

「すごい! 衣装も食べ物も、本物のお店みたい」
「でしょでしょ! なにせこの私がプロデュースしたんだもの」

 かわいすぎる魔法少女のワンピースに身を包んだ麗ちゃん先輩が、これでもかとばかりに胸を張る。あ、衣装はちきれそう。

「さっすが麗先輩! こっちのガレットもおいし~」
「奏、私のケークサレと一口交換しない?」
「奏くん、私のチーズケーキとも交換して! その食べかけのとこ、ちょうだい!!」

 一緒に回ってる奏くんと六花と聖も、麗ちゃん先輩プロデュースのスイーツの数々に舌鼓をうってる。あ、風峯は当然のごとく隣にいて。もはやいても気にならないレベルに馴染んできてて、ちょっとヤバいなって最近思ってる。
 あと、たまきちもどっかにいる。たぶん潜んでる。聖あるところにたまきちあり。

「あ、玲ちゃーん! あとでうちのクラスにも寄ってね~」

 通りかかった華ちゃんは廊下側の窓から手を振ると、笑いながら遠ざかっていった。
 私たちのクラスは展示だから特にやることないし、今日は思う存分遊ぶんだ! ただバイトとかしてないから、お小遣いは少々心許ないけど。


 卒業まであと二年と少し。
 自由人たちに囲まれるのも悪くないなって思い始めてる。
 絶対ノーマルなままで卒業してやる! この決意はまだ変わってないけど。
 個性的な面々に囲まれて、ちょっと感覚がマヒしかけてる気もしないでもないけど……

 ――私の青春はジェットコースターだ!


 ☆ ★ ☆ ★


 変態ファイル その4

 名前:逆十字ぎゃくじゅうじ 那流詩栖なるしす
 年齢:17
 職業:学生
 性癖:体臭性愛オルファクトフィリア窒息性愛ハイポクシフィリア


 変態ファイル その5

 名前:界楽かいらく 天音あまね
 年齢:16
 職業:学生
 性癖:ドMに内臓姦に獣姦に……書ききれないほどの性癖マスター
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌

双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。 最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...