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番外編2
ビスカスホリディ1
しおりを挟む八月――
一般的なお盆のこの時期、私のお世話になってる武田学園の寮も十日ほど閉寮になる。というわけで、せっかくだから久々に家に戻ってきたんだけど……
「やーまだちゃん! あっそびまっしょ」
「お客様がお押しになったインターホンは、現在使われておりません」
ふう、これでよし。
終了ボタンを押し、何もなかったことにした。画面の向こうにいた四人はきっと幻だ。疲れてるんだ、私。よし、昼寝しよう。
「玲ちゃん、無視なんてひどい! 麗、泣いちゃうから~」
「玲、お義母さんと妹さんはいないのか? 一度きちんとご挨拶をしたいのだが」
「ああん、放置プレイ! さすが山田ちゃん!!」
「山田さん、そんなことされたら私……うっかり色々一人言もらしちゃうかも」
ドアの向こうから、四者四様の文句やら不穏な呟きやらが聞こえてきた。
麗ちゃん先輩はごめんなさい。そして風峯、おまえは余計なことをするな。林くんは近所に恥ずかしいからやめて。そして武田先輩、なにさらっと個人情報流出させようとしてんですか。
「あー、もう! わかりましたよ!! とりあえず入ってください」
私が住んでいるのは県営のマンション。玄関の前にこの人たち放置するとか近所迷惑が過ぎる。そして恥ずかしい。
「お邪魔しまーす」
ニコニコと声を揃えて上がってきた四人組。
本当に邪魔なんですけど。私の貴重な夏の午後のひとときを奪わないでほしい。
「玲、お義母さんは?」
「仕事。夕方まで帰ってこない」
「妹ちゃんは? 山田ちゃん、妹いるんでしょ」
「友達と出かけてるから夕方まで帰ってこない。あと妹の教育上よろしくないので、林くんとは絶対に会わせません」
「ひどい! 僕、山田妹ちゃんに会えるの楽しみにしてたのに~」
よかった。妹もお母さんも出かけてて、本当によかった。
「でも先輩たち、急にどうしたんですか?」
「あら、用件なら最初に言ったじゃない」
言われたっけ? 武田先輩からは不穏な呟きしか聞いてない気がするんだけど。
「ほら、要ちゃんが最初に言ったでしょ。『あっそびましょ』って」
「ああ、そういえば。林くんが映ったんで、思わず条件反射で記憶から消去しかけてました」
でも遊びましょって、今から? 花火とかお祭りとか、夜のイベント系?
「心配しないで。今日これから今すぐってわけじゃないから。出発は明後日。でも旅行だから、準備や親御さんの許可も必要かなって思って来たの」
「旅行……でも私、そんなに自由になるお金持ってなくて」
「安心して! 宿泊費も交通費もかからないから」
「え、でも――」
武田先輩のおごりとかだったら断るつもりで口を開きかけたんだけど、麗ちゃん先輩に止められた。
「ねえ、演劇部の扶桑花先輩って憶えてる?」
「ぶっそうげ……? えっと、ごめんなさい。どなたでしたっけ」
「ほら、ハイビスカスがトレードマークの部長さん」
「……ああ! ハイビスカス先輩!!」
あ、いっけな。つい心の中で呼んでたあだ名叫んじゃった。
「そうそう、そのハイビスカス先輩がね、別荘持ってるんですって。で、お世話になったから私たち全員よかったらおいでって言ってくれて」
「というわけだから、山田さんもどうかと思って聞きに来たの」
そういうことなら特に断る理由はないけど。あ、でも海外とかだったら困るな。私、パスポートなんて持ってないし。
「あの、場所は?」
「千葉よ。近くにきれいな海水浴場もあるんですって」
宿題はほぼ終わらせてあるし、お金の心配もないならいいかも。家にいてもゴロゴロしてるだけだし。ならってことで、お母さんにRINEでメッセージを送ってみた。
するとすぐに既読がついて、気をつけて行ってきなさいっていうのと、お世話になる方へのお土産をちゃんと持っていくようにって返事がきた。
「麗ちゃん先輩、武田先輩、お母さんのオッケー出ました!」
それからはみんなで近所のショッピングモールに出向き、お土産を買ったり旅行に必要なものを買い足したり。お小遣いは少し寂しくなっちゃったけど、こういうのってやっぱり楽しい!
夕方みんなと駅で別れたあと、アブラゼミやミンミンゼミに混じってヒグラシが鳴き始めた帰り道を歩く。途中、ついつい顔がにやけてしまって。
だって、友達との旅行なんて中学の修学旅行以来だもん。メンバーは一部アレだけど、それでもやっぱり楽しみだな。
※ ※ ※ ※
ハイビスカス先輩の別荘までは、武田先輩のおうちの人が車で送ってくれた。しかし運転手つきリムジンって……先輩の家って、本当にお金持ちなんだなぁ。
「やっだぁ、素敵ぃ~!」
砂浜から程近い丘の上に建っていたのは、ヨーロッパのお屋敷みたいな白亜の大豪邸。麗ちゃん先輩は趣味どストライクだったみたいで、めっちゃはしゃいでる。
「いらっしゃい。ひとまずお部屋に荷物置いてきたら、一通り案内するわね」
大きな玄関ホールで私たちを迎えてくれたのは、真っ白なシフォンのサマードレスを着たハイビスカス先輩とたくさんのメイドさんたち。
すごいなぁ、こんな世界もあるんだ。武田学園に……というか、特殊奉仕活動同好会に入ってなかったら、こんなの絶対に経験しなかっただろうなぁ。
メイドさんに案内してもらった部屋は、これまたなんとも贅沢な部屋で。うちのマンションの全部屋が、この部屋ひとつにおさまりそう。バス、トイレ完備、バルコニーに出る両開きの大きな窓は海に面したオーシャンビュー。備え付けの家具は猫足のロココスタイルで、ベッドは天蓋付き!
天蓋付きベッドとか生まれて初めてリアルで見た。お姫様の部屋って、こんなんなのかな?
とりあえず荷物を置いたら、今度はめちゃくちゃ広いリビングルームへ案内された。しかしここ、広すぎてうっかりしたら迷子になりそう。
「改めて。こんな素敵なおうちにご招待いただき、ありがとうございます、扶桑花先輩」
「こちらこそ、あのときは本当にお世話になったから。おかげであれから変質者は現れてないし、こんなことでお礼できるならいくらでも」
和やかに交流をかわす部長たち。二人とも礼儀正しく、おかしなところなんてひとつもない。
「風峯……アレ、どっかに捨ててきた方がいいんじゃないかな」
「放っておけ。どうせ捨てても戻ってくるし、労力使うだけ無駄だ」
武田先輩の足下、そこにはこちらもいつも通り、赤い麻縄で縛られた林くんが至福の表情で転がされていた。
ねえ、なんで誰もつっこまないの?
「それと、海なんだけど」
「すっごくきれいですよね~、ここの海」
「ええ、ここの海はきれいなので有名なの。けど……」
「けど?」
顔を曇らせたハイビスカス先輩に、麗ちゃんが首をかしげた。
「何か問題あるんですか?」
「ええ。去年までは何もなかったんだけど……今年からね、出るのよ」
憂い顔のハイビスカス先輩が言う「出る」って……え、まさか? それって夏に定番の、あれ?
「出るって、変質者ですか? 盗撮とか?」
「いえ。まあ、そういうのもいるにはいるんだけど。……二人以上で泳いでるとね、片方がもう片方を海の中へ引きずり込んでしまうの。で、引きずり込んだ方はその記憶がなくてね。幸い、死者はまだ出ていないんだけど……そういうわけだから、海にはいかない方がいいわ」
うわぁ、やっぱそっち系だったー! 私、幽霊とかめちゃくちゃ苦手なのに!!
「なるほど。……わかりました! ここはこの特殊奉仕活動同好会、学園戦隊風林火山にお任せを」
「ちょっ、武田先輩! 今の話、聞いたでしょう!? 相手は幽霊ですよ!」
「山田さん、目の前に悪がいるのよ。たとえそれが幽霊であろうとも、見逃すなんて正義を愛する者としていかがなものかと思うの」
いや、武田先輩。あなた、正義とか愛してないですよね。コネとか権力とかお金とか、そういうの全力で愛してますよね。今回のも、絶対に面白そうだから首つっこみたいだけですよね。
「燃えてきたわ! 出張風林火山ゴーストハントバージョン、いくわよ!!」
終わった。楽しい普通のバカンス、終わった。
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