死体令嬢は死霊魔術師をひざまずかせたい ~Living Dead Lady~

貴様二太郎

文字の大きさ
3 / 42

 3.死体令嬢は決意する

しおりを挟む
 
 ※ ※ ※ ※


 きらきらしたシャンデリアに照らされたダンスホール。大勢のドレスやタキシードみたいな服を着た人たちが私を囲んで見てる。

「お姉さま……そこまで私たちが、家族が憎かったのですか?」
「そのようなこと!! 違います、誤解です!」

 金髪碧眼のきらっきらな美少女が、今にも泣きだしそうな顔でこっちを見てた。その隣に立ってるのは、金髪ちゃんに比べてえらく地味な茶髪の男の人。

「見損なったよ、エルバ嬢。クレシェンツィの暁紅ぎょうこうとまで呼ばれていた貴女が、まさかあのようなおぞましい罪に手を染めていただなんて……」

 茶髪も悲しそうな顔で私を見る。
 え? エルバって、もしかして私のこと?

「ですから誤解です! 神に誓って、わたくしはそのようなこと致しておりません」

 私の口が勝手に喋る。でも、その場の誰も聞いてくれない。
 みんな悲しそうな残念そうな顔をしてるのに、私の言葉は完全スルー。

「違う! わたくしは致しておりません!! お願い、信じて……わたくしの言葉を、聞いて」

 心が痛い。苦しい。私の中にエルバの悲しみが入ってくる。
 やってない。信じて。聞いて。悲しい。裏切られた――

 そしていきなり場面は切り替わり、きらきらした場所から一転、暗くて冷たい牢屋になってた。

「アリーチェ……助けて、アリーチェ」

 アリーチェ? アリーチェって誰だろう?

「違うの、わたくしはやってない。なのに……助けて……でも、もう……」

 伝わってくるのは、痛くて痛くて悲しい気持ち。死にたい、助けて、消えてしまいたい、そんなエルバの切望と絶望。
 かわいそうなエルバ。やってないことでみんなから責められて、やってないって言ってるのに誰も信じてくれなくて。悲しくて悔しくて、これから来る救いのない未来に怯えることしかできなくて。

 そんなエルバの前に、ガラスの小瓶が転がってきた。鉄格子の向こうから、誰かがエルバのもとへと転がした。エルバはそれを手に取ると蓋を開け、一瞬もためらうことなく中身を飲み干した。


 ※ ※ ※ ※


 起きたら全部夢だった。
 なんて夢見て。けど、現実はやっぱり無情で。
 最初に寝かされてた棺桶の中で目が覚めて、変わらない非現実的な現実にため息をつく。

「ないわー。ほんとないわー」

 知らない場所で目が覚めて、おまえは死体だとかわけのわからないこと言われて、逃げたら骸骨に捕まって、無理やりキスされて、ぶっ倒れて変な夢見て……
 唯一の救いは言葉が通じたことくらい。私は日本語をしゃべってるつもりなんだけど、実際はどうなんだろう? 自動翻訳? なんとなくなんだけど、セクハラ野郎とか吹き替えっぽく感じるんだよね。ま、いっか。
 それにしても私、いったいどこへ来ちゃったんだろう。今、違う世界にいて、違う人の体に入ってる。不本意だけど、そこは認めよう。結局あの鏡は本物らしくて、何度見ても別人の顔だった。声だって、私の声こんなにかわいい感じじゃないし。

 でもさ、そうすると私の本当の体、そっちは今どうなってんだろ?
 ここで目が覚める直前の記憶が全然なくて、すっごいもやもやする。もしかして私、死んじゃってたりする?
 いやいや、悪い方へ考えるのはやめよう。目が覚めないだけで、今頃病院のベッドの上とかかもしれないし。……って、それもあんまりよくはないなぁ。お母さんたち、どうしてるんだろう。
 あー、もう! 今は違うこと考えよう。えーと、あ、さっき見た変な夢。なんか自分が体験したみたいな、やけにリアルだった夢。その夢の中で、私はエルバって女の子になってたんだっけ。

「で、エルバって誰?」
「その体の元所有者だな」

 独り言に返事がきて思わず跳ね起きた。窓のそばの机、こちらに背を向けたままのセクハラ野郎がいた。

「知ってんの?」
「隣の領の領主の娘だ」

 ほうほう。この子はエルバっていうのか。てことはさっきの夢って、この体に残ってた記憶ってやつ?

「エルバってどんな子?」
「知らん」
「うっわ、使えねー」

 なんて役に立たないやつだ。あ、そういえばこいつ、さっき勝手に私に名前つけてなかった? この体にはエルバって名前があるのに。

「ねえ。そういやさっき、なんでわざわざ私に新しい名前つけたの? エルバって名前があるならそれでいいじゃん」
「そりゃ前の魂の名前だろうが。それじゃ契約できねーんだよ。だから新しくつけた」
「なんて余計なお世話! 同意のない一方的な契約なんて犯罪だ!!」
「ほんっと、キーキーとうるせーガキだな。おまえなんざラーラでも贅沢だっつーの」

 うんざりって顔でこっちを見るセクハラ野郎。
 ムカつくわー。それに、うんざりなのはこっちだって同じだし!

「契約解消してよ! セクハラ野郎の言いなりとか冗談じゃないんですけど」
「せくは……? なんかよくわからんが、悪口なのはわかったぞ。それとおまえ、言いなりになんて全然なってねーじゃねぇか。あと、契約は解消しない」

 ああ言えばこう言う。なんて口の減らないやつ。

「なんでよ! こんな美少女がお願いしてるんだから、ちょっとくらい聞きなさいよ」
「断る。あとその美少女だけどな、俺と契約解消するとどんどん腐ってくぞ。それともお前、起き上がりグールに戻って、人襲ってその姿保つか?」

 ……は?
 契約解消すると腐ってくとか、人襲うとか、どういうこと?

「おまえの今の状態は生ける死体リビングデッド。俺たち死霊魔術師ネクロマンサーと契約を結ぶことによって魔力の供給を受けられるようになってる」

 ネクロマンサーとか! めっちゃファンタジー職業!!

「で、だ。その魔力は、おまえら死体の腐敗を止める効果がある。契約を解消して起き上がりに戻ると、俺からの魔力供給がなくなって、人を襲って血を摂取しないとその体腐っちまうが……どうする? 俺はどっちでもいいが、起き上がりに用はねぇ。そっちになるんだったら出てってもらうだけだ」

 まったく死んでる気がしなかったから忘れてたけど、たしかに死体って腐るよね! やだやだやだ、この上ゾンビとか絶対やだーーー! 人襲うのも無理ーーー!!

「…………契約続行でお願いします」

 悔しい。元の体に戻るまでの間とはいえ、こんなヤツに頭下げなきゃならないなんて。

「よろしい。せいぜい励めよ、ラーラ」
「元の体に戻るまでの間だけだけど。よろしくお願いします、セクハラ野郎」
「変な名前つけるんじゃねぇ。俺はレナートだ。レナート様って呼んでいいぞ」
「わかりました。セクハラ野郎」
「微塵もわかってねぇ」

 うるさい。おまえなんかセクハラ野郎で十分だ。そんな立派な名前、絶対呼んでやらない。

「契約のことはわかった。仕方ないから受け入れる。でも、これだけは言っとく」

 私はセクハラ野郎にびしっと指を突きつけると、高らかに宣言してやった。

「私は必ず自分の体に帰る! 日本に、家族のとこに絶対帰る!! ついでにセクハラ野郎をひざまずかせて、その極悪非道な行いの数々、絶対に懺悔ざんげさせてやる!!!」
「そのニホンとやらがどこにあるか知らねぇし、おまえの体が生きてるのかも知らねぇけど。ま、せいぜい頑張れよ。あと、懺悔もしねぇしひざまずきもしねぇし、俺はレナートでせくはら野郎とかじゃねぇし」
「うるさい黙れセクハラ野郎。絶対悔い改めさせてやる。あとアンタもいっぺん死んでみろ」

 セクハラ野郎はものすっごく嫌そうな顔をしたあと、「勝手にしろ」って言って私を無視すると、また机でなんかの作業をやり始めた。
 ええ、ええ、勝手にしますよ。言われなくたって好き放題してやりますから。こんなブラックな環境、絶対抜け出してやるんだから!
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...