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6.死体令嬢は回想する
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じりじりとした西日が、目にも肌にも痛いファーストフード店の窓際の席。目の前には、泣いてる友達と他二人。
「***……なんにも知らないで、ひとりでバカみたいに浮かれてた私見てるの……楽しかった?」
「違う!! そんなことしてない!」
気が強そうな猫みたいな目が、許さないって私を見てた。そんな彼女を慰めるように両脇に座ってるのは、同じクラスの女の子たち。世間話くらいはするけど、そこまで仲いいわけじゃない子たち。
「サイテー」
「友達ヅラして相談のって、結局自分が取るとかビッチかよ」
かわいそうな友達を守るっていう正義の理由で、ここぞとばかりに私を責める二人。なんの証拠もないのに、勝手な想像で私を悪者にする外野。
「だからやってないって言ってるじゃん!」
やってないことはやってない。勝手な想像で悪く言われても、「ごめん」なんて言えるわけない。でも私の言葉は、その場の誰にも届かない。
ゴミを見るような顔の二人も、泣いてる友達も、私の言葉を完全スルー。
「私はやってない!! お願いだから信じてよ……私の言葉も、聞いてよ」
心が痛い。苦しい。私の中にあのときの悲しみが入ってくる。
やってない。信じて。聞いて。友達なのに。悲しい。裏切られた――
そしていきなり場面は切り替わり、あの最悪なシチュから一転……はしてなくて、場所は変わったけどばっちり続いてた。今度は店の外、雑踏の中。逃げる友達を私が必死に追いかける。
「だからちゃんと聞いてってば! 私はそんなことしてない!! なんであの二人の言うことは聞くのに、私のは聞いてくれないの!?」
甦るのは、痛くて苦くて悲しい気持ち。ムカつく、助けて、みんな消えちゃえ。いつかの私のぐちゃぐちゃな気持ち。
「友達だと思ってた……でも、もう……」
みじめだった私。やってないことであんなやつらから責められて、やってないって言ってるのに友達は信じてくれなくて。悲しくて悔しくて、これから来る暗い未来に怯えることしかできなくて。
「もう、いい!」
友達だと思ってたあの子の顔をもう見たくなくて。悔しくて、悲しくて、追うのをやめて逃げ出した。
「あ、***――」
目の前の信号が点滅してるのはわかってたけど、後ろから聞こえたあの子の声を聞きたくなくて。それにここで止まっちゃったらかっこ悪いし。
今なら、点滅なら、赤になる前に渡り切っちゃえばあの子も追いかけてこられない。
「待って! 待って――***!!」
道のむこうからあの子が叫んでる。私はそれを聞きながら、一瞬だけあの子の方へ振り返った。けど、そんな私の目に飛び込んできたのはあの子の顔じゃなくて、突っ込んでくる猛スピードの車で……
※ ※ ※ ※
「……ろ」
うるさい! あと少し、もう少しで全部思い出せそうなの。
「おい!」
邪魔しないでよ! あの子の名前も、自分の名前も、もう少しで……
「起きろ、ラーラ!」
「うっさい!!」
叫んで目を開けたら、レナートがすっごい不機嫌そうな顔でこっちを睨んでた。
「死体のくせに居眠りたぁ、いい身分だな」
「うるさいなー。死体なんだから寝てて当たり前じゃん。もー、なんで邪魔すんの」
「邪魔って何を……って、そんなこたどうでもいいんだよ! それよりおまえ、なんなんだその格好!」
「そんなことって、私にはすっごい大事なことなの! で、この格好? いつまでもパジャマだと落ち着かないから借りた」
レナートはがっくり肩を落としてでっかいため息をつくと、「信じらんねぇ……」って手のひらで顔をおおった。
「えー別にいいじゃん。どうせ家の中だし、レナートしかいないんだし」
「いいわけないだろ! おまえには恥じらいっつーもんがないのか!!」
「恥じらい? 男物着るのってダメだった?」
「……足! 素足をさらすな!!」
素足をさらすなっていったって、ひざから下しか出してないのに。めんどくさいな~。よれよれローブに言われたくないんですけど。
ふてくされた私にレナートは「待ってろ」って怒鳴ると、怒りながら部屋を出てっちゃった。そんで、ちょっとしたら息を切らしながら戻ってきた。靴下握りしめて。
「穿け! 今すぐ!!」
「もー。そんな怒んなくてもいいのにー」
「うるせぇ! いいから早く穿け!!」
いきなりキスしてきたセクハラ野郎のくせに、素足を見せるのはダメとか。わかんないなー。
でも特に抵抗する理由もなかったから、レナートから受け取った靴下を素直に穿いた。
うんうん、やっぱり素足より靴下あった方がかわいいな。これでソックスガーターがあったら絶対もっとかわいいのに。なんて、コーディネートをのほほんと考えてたら――
「ちょっ!?」
窓のとこのくりぬかれた石の壁に腰かけてた私の足を、レナートがいきなり掴んだ!
またセクハラかこの野郎!! って思ったら、すぐに手を離して部屋を出てっちゃった。なんなんだ、アイツは?
しばらくすると、さっきより息を切らしたレナートが現れた。今度は革靴を持って。
「こっちを……履け。大きさは……そっちよりは、マシだろ」
七階から二階まで、二往復ご苦労様です。なんか私の履いてたサイズの合ってないブカブカの靴が気になったみたい。
やっぱり根はいいヤツ、なのかな? あと口は悪いけど、育ちはいい感じ? わざと悪ぶってる感じがしないでもないなー、なんて。それに服もいっぱい持ってるし、その服もお金持ちっぽい感じだし。
「ありがと。それにしてもレナートって、服いっぱい持ってるんだね。もしかして、いいとこの子だったり?」
「あ? まー、実家はそれなりに金持ってたな。俺はもう家とは関係ねーけど」
「あ、やっぱいいとこのお坊ちゃんだったんだ。なんでそんなに口悪くなっちゃったの?」
「うるせぇ、余計なお世話だ」
かわいくなーい。でもこういうの、嫌いじゃないかも。弟とじゃれあってたみたいな、そんな感じ。
ちなみにレナートの持ってきてくれた靴、サイズぴったりだった。一瞬で靴のサイズを見抜く男レナート、恐るべし。もしかして足フェチ?
「ラーラ。おまえ服、本当にそんなんでいいのか?」
「いいよー。かわいいじゃん、動きやすいし。それにこんな格好、ほんとの自分じゃできなかったし。美少女の体のおかげでこういうの着れて、めっちゃ楽しい!」
「いいならいいが……変なヤツ」
レナートの中の常識ではナシなのか~。でも一度やってみたかったんだよね、男装! ほんとの自分じゃ似合わないだろうからやんないけど、美少女ならやる! こんな状況、せめて楽しめるとこは楽しまないとやってらんないし!!
「本当に変なヤツ。こんなうるせー生ける死体、初めて見たわ」
「他のリビングデッドってしゃべらないの?」
「血の契約交わしたやつはしゃべらなくもないが……おまえみたいな騒がしいのは見たことねぇ」
あきれたような、でもちょっと楽しそうな? やれやれって顔でレナートが笑った。
「でも、悪くねーな。異世界の話は面白れぇし、なによりおまえがいると退屈しねぇや」
デレた! なんかデレた!! チョロいぞ、こいつ!!!
でもそんなこと言われたら、私も悪い気はしなくて。嬉しかった……のかな? 動かないはずの心臓が、ちょっとだけ動いた気がした。
いや、死んでるし! うん、たぶん気のせい!
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