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十四話 とある悩みを抱える男性の話

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 これは、いつの話か分からない。ここではない、何処かの話。
 ここは、俺の家。ベッドの上。裸の男と女が、2人きりで。
 この世界は、人間が武器を持って、日々戦いをする世界。
 魔法?ほほう先輩殿、俺達が魔法使いだと?・・・なるほど。

 ベッドの上で。白髪の小柄な女を、仰向けに、押し倒して。
 言わずもがな、お互い裸。人間共でいう、正常位の体勢だ。
 ただし、お互いの両手を握り締めて。指を絡ませるように。
 知っているか?これって恋人握りって言うんだぜ。嬉しいだろ?
「ヨヅキ、お待ちかねの時間だ。愛し合おうぜ?」
 ヨヅキの顔をじっと見る。ヨヅキも俺を見つめている。
「・・・リオンなんて、嫌い」
 フフ、そんな怯えた顔して、無理しやがって。
 でも、俺からは眼を離さない。ずっと見続ける。だから俺も、ヨヅキをずっと見ている。この眼は離さない。ずっと見ていられるから。
「ヨヅキ。愛しているよ」
「・・・リオンなんて、大っ嫌い」
 ああ、別にいいさ。お前が俺を見てくれるのなら、それでいい。
「――ぎゃあああああああああああっ!」
 思いっきり、力いっぱい。打ち付ける。遠慮はしない。体を押さえつける力も、もっと強くして。優しくしない。もっと乱暴にする。
「ああああっ!?あううううん!?ひ、ひいいいいいいっ!?い、いいいっ、もっとぉっ、もっとしてえええええええええええっ!」
 フッ、まさかお前が、そんな事を言うようになるとはな。
「もっと私を怖がらせてぇ!全てを忘れさせてぇ!お願いだからぁ!もっと、もっとしてえええっ!うわあああああああああああっ!」
 ああ。今日は朝まで、ずっと付き合ってやるから。

 気持ちは分かる。お前の気持ちが、良く分かる。
 俺とお前は同胞だ。お前のことは、何でも分かる。
 まさかお前が、そこまで思い詰めていたとは知らなかったが。今なら分かる。お前の恐怖が。お前が今、何を思っているのか。
 そうか。お前も、人間の文字が読めるようになったのか。
 実は俺もだ。人里に降りて、ある日突然、読めるようになったんだ。
 他の同胞達には、頑張って覚えたということにして。急に文字が分かるようになるなんて、不思議な事があるんだなぁと、思い込むようにしたんだ。
 俺がいつも武器を持たず、素手で戦うのもそうなんだ。
 ちょいと諸事情があると、言い訳して。武器を持たないようにしたんだ。
 いやぁ、お前のせいで思い出しちまったぜ。せっかく忘れてたのに。俺も人里で、初めて剣を握ったはずなのに。まるでずっと昔から愛用してたかのように、振り回すことができたんだ。
 だから、それを忘れようとした。俺には武器なんか必要ないね、と言い訳して。でもそうか、お前もか。そうかそうか。
 思えば、素手での戦い・・・体術も、そうだよな。俺とお前だけ、やたら強いよな?お前は俺よりは劣るが、それでも普通の人間に比べると、遥かに強い。
 俺もお前も、体術を使えるから。素手での戦いにおける技術を持っているから。だからお前より体格のいい芦毛や毒蛇よりも、お前の方が強いんだよな。

 お前は・・・白狐は、ずっと森の奥で、生きていたからな。
 俺はただ、お前に。少しは人間の世界について知って欲しくて。
 お前があまりにも人間嫌いを拗らせて、それで恐ろしい顔をするもんだから。そんな顔を見たくないから、少しは人間の世界について、知って欲しかったんだ。
 確かに人間の中には悪い奴もいる。だが、良い奴もいる。
 それはお前もよく分かっただろう?自警団の団長に、娼館の先輩殿。悪い奴ばかりじゃないんだ。俺はそれを、知って欲しかっただけなんだ。
 だが・・・ここまで、するつもりはなかった。
 まさか、お前も俺と同じ悩みを、抱えるようになるとはな。
 実はこれ、毒蛇には一度話したことがあるんだ。あいつも人里にはよく行くから。毒蛇はそこまでの違和感というか、俺やお前が抱える悩みは持っていなかった。剣や体術は使えないし、文字も読めないからな。
 だが、それとは別の辛さを抱えているから。明るく振る舞って、毎日を楽しそうに過ごしている。そう、思い込むようにしている。何かを思い出したくないために。それを忘れるために、楽しさを求めているんだ。
 傍から見れば、毒蛇が遊んでいるように見えるだろ?そうでもないのさ。あいつも俺の同胞だから分かる。その奥深くにある、辛さってものを。
 それが何なのかは、俺も毒蛇自身も分からない。でも、俺やお前と同じく、悩んでいる。辛い何かを、抱えているんだ。
 だから毒蛇は、自分の辛さを埋めてくれる何かを求めて、人里を彷徨っているだけなんだ。だから分かってやってくれ。俺達は、同胞なのだから。

 ベッドの上で、激しく、腰を打ち付ける。
「ヨヅキ、そろそろイくぞ?どうせ妊娠しないから、中に思いっきり出してやる。嬉しいだろ?楽しいだろ?俺の事が好きなんだろ?」
 外になんか出さない。すべて、中にブチ込んでやる。
「ひ、い、あああああっ!熱いいいいいっ!・・・う、うう、ああっ」
 ヨヅキは泣き叫び、体を震わせ。それでも、俺を見ている。
「怖い、怖いよぉ・・・、う、うう、いや、私は、違う、のに」
 アソコ同士は挿れたまま。繋いでいた手を離し、代わりにヨヅキの背に回し、抱き抱える。知ってるかこれ、対面座位って言うんだぜ?
「ひ、ひぃっ、いや、背中を撫でないでぇ、頭も撫でるのも止めてぇ、う、うう、あ、あうう、いや、リオン怖いからやめ、いや、もっとして、もっと抱いて、私を」
 分かった分かった。こうすればいいんだろ?
 口を開けて。ヨヅキの首元を、ガブッと。
「ひいいいいいいいいっ!?い、いや、食べない、で。殺さな、いで。そこは、噛んだら、死んじゃう、か、らぁ・・・う、うわ、うわああああん・・・」
 安心しろ、甘噛みだ。傷は残さない。ただし舌で舐めてやる。
「あ、あう、いや、気持ち良く、なんか、違う、これは、あ、ああっ」
 ふっふっふ、そこまで震えて喜ぶことは無いだろ?
「う、うう、怖いの、だからもっとしてよ、忘れたいの、忘れさせてよ、もう何も考えたくないの、もう私が何かなんて考えたくないの、うう、あむっ・・・ふあぅ」
 オイオイ、キスでそこまで泣くことは無いだろ?

 俺達って、結局何なんだろうな。
 2つの姿を持ち。動物でも、人間でもない、不思議な生き物。
 俺達は、いつ生まれたのか。俺とお前の両親って、誰だろうか。俺達はどうやって、この世界に生まれたのか。俺達は、何者なのだろうか。
 何度か思いを巡らせてみたけど、次第に考えるのが面倒になって、よく分からなくなって。そういう時、俺はヨヅキの顔を思い浮かべるんだ。
 なあヨヅキ。俺とお前が、初めて交尾をした日って、覚えているか?
「・・・分から、ない。でも、ずっと。一緒、だった」
 そうだよな。ずっと、一緒だったな。
 ヨヅキ、口を開けてくれよ。・・・今日は、噛むなよ?
「あうぅ、リオンの舌、美味、しい。もっと、してぇ・・・」
 フッ、こうやってお前と、舌を絡め合わせたキスができるようになるとはな。俺はこれで十分なんだ。お前と一緒にいられるのが。
 自分の正体について。俺達の事について。考えても、分からなくて。・・・いや、そういう風に、なっているのかな。
 無意識に、思い出さないようにするために。俺達がいったい何者なのかを、分からないようにするために。なるほど、これが先輩殿が言っていた魔法か。
 この前、先輩殿にお礼の品を持っていった時に、少し話をしたんだ。先輩殿は、俺達の事を不思議な魔法使い達と呼んでいたな。
 俺からすれば、はたしてこれは魔法なのだろうかとも思えるが・・・。まぁでも、この言葉以上に、2つの姿を持っている理由を説明する術もないか。

 もしこれが魔法の力だというのなら。俺は全てを、受け入れる。
 お前と何度抱き合ったか、分からないほどに。俺達は一緒に生きている。俺もお前も、この力が無かったら、とっくの昔に死んでいたはずだから。
 この力があるから、あの森で生きてこれた。同胞達と共に生きていられた。侵略者共が来ても追い払えた。そして今日も、お前は戦いを無事に終えることができた。
 だから今、俺達は抱き合っている。生きているから。
 それでいい。それがいい。ずっと一緒にいられるのなら。
 だから俺は、お前の顔を思い浮かべる。俺達が何者なのか、どこから生まれたのかなどを考えるたびに。お前の顔を思い浮かべる。
 もう何も考えたくない。悩みたくない。お前の傍にいたい。
 難しい事なんてどうでもいい。お前さえ傍にいてくれるのなら。
「ヨヅキ。俺はお前の事を、愛している」
「・・・リオンなんて、大嫌い」
 ああ、それでいいんだ。
 俺を見て、怯えて、恐怖して、逃げようとして、抵抗して。
「分かった。じゃあ今日はもうこれで終わりに」
「やめないで。まだ続けて。・・・1人に、しないで」
 それでも、俺の傍にいてくれる。
 それでいいんだ、お前は。そんなお前が、俺は大好きだから。
 お前の顔を見るのが、俺は大好きなんだ。

 でも。だから、今日こそは。
「なぁヨヅキ。お前がどうやって、槍や剣を使っていたのか。教えてくれよ」
 ヨヅキの顔が曇る。
「・・・その話は、しないでって、言ったの、あううん!?」
 向かい合って、抱き合い、座ったまま。腰を動かす。
 体位の関係上、そこまで激しくは動かせないがな。
「あううん!?ああぅ、ひ、あああぅ・・・あっ・・・」
 そして、ある程度ヤったところで。止める。
「もう一度聞くぞ。さっきの槍や剣を使う話とか、人間の文字が読めるようになった話とか。そういうのを、聞かせてくれよ」
「・・・嫌、だ。思い出したく、な、あああああっ!?」
 はいもう一度。フッ、相変わらず感じやすい女だ。
「いじ、わる・・・。リオンなんて、やっぱり、好きに、なれない。もう、やめ、て。こんなこと、ひゃうううううううん!?」
 はい隙アリ。耳の穴に息をふぅっとな。
「ヨヅキが話をしてくれないのなら、ずっとこうしてやるぞ?もちろん朝・・・いや、どうせだから昼までやるか。寝させん。ずっとヤってやる」
「う、ぐ、う、う、ひゃああああああっ!?」
 オイオイ、だから背中を撫でただけで悶えるなって。

 これもまた、魔法のせいなのだと思う。
「ひ、う、あああああああっ!?やだあああああっ!」
 ヨヅキがどうして、こんなに反応がいいのか。
「ひいいいいっ!?やだやだやだあああっ!うわああああっ!」
 しかも、俺とヤったときだけ。
 物は試しでヤらせてみた娼婦の仕事だけど、ヨヅキは他の男を相手にする場合は、ここまで悶えることは無いらしい。あくまでも、俺とヤっている時だけ、こうなる。
「馬鹿あぁっ!そんなとこ、舐める、あああうあうあああ」
 そして、俺はそんなヨヅキを見るのが、とても楽しい。俺にとって、これ以上の女はいない。断言できる。
「どうしたヨヅキ、話をしてくれる気になったか?」
「あ・・・、もう、やめ、キスは、いやだぁ・・・」
 そして、ヨヅキもまた。俺とヤるのは、まんざらでもない。だからずっとヤってきた。いくら乱暴にしても、無理矢理襲っても、イヤイヤ言っても、俺を受け入れる。
「どうだヨヅキ?楽しいだろ?俺の事が好きなんだろ?」
「ぎゃあああああっ!リオンなんて嫌いだあああああっ!」
 何を言ってやがる。もう狐に戻れるくせに。逃げないくせに。
 ずっとそうだ。嫌だ嫌だと言いながら、俺に身を委ねている。俺に身を委ねてくれる。時おり反撃はするが、それでも逃げない。さっきもそうだったからな。

 ヨヅキは頑なに、俺の事を嫌いと言っている。
 まぁ、その・・・確かに、若干少々乱暴にしている俺が悪いのだが。
 それでも、嫌ではないはず。俺の事が、好きなはず。
「もう、お願い・・・その話は、したくないの。怖いの。自分が怖いの。だから、もう・・・ひ、ひいっ、もう、許、して・・・うわあああん・・・」
 なのに。どうしてそんなに、俺を嫌おうとするのか。
 おそらくその理由は、ヨヅキが槍や剣を使える理由と、同じなのだろう。
「お願い、その話はもう止めて、他なら何でもヤるから・・・ううっ」
 そしてそれが。俺がヨヅキに執着する理由でもあるのだろう。
 だから、やめない。ずっとヤり続ける。
「なぁヨヅキ。まだまだ朝まで時間はあるぞ。そろそろ話してくれよ」
 いいかげんに、俺達が何者なのかを知りたいから。
「いやっ、怖い、いやっ、お願い、聞かないで、やめて」
 いいかげんに、俺の事を好きだと言って欲しいから。
「そうかそうか、話してくれないのなら、もう今日は終わりに・・・オイオイそんなに強く抱き締めるなよ、そんな眼で見てくんなよ」
 いいかげんに、俺の事を愛していると言って欲しいから。
「お願い、だからぁ・・・怖いの、自分が怖いの、だから、私を怖がらせてよ、お願いだから、う、うう、うわあああああっ!」
 あのなぁ・・・。おそらくだが、それって俺に対する恐怖じゃなくて、恋愛感情の類だと思うぞ?だからいいかげんに、素直になれよ。俺を愛してくれよ。

 でも結局、こうなっちまうんだよなぁ・・・。
「がはっ、がほっ、う、うう、まだ、ヤらなきゃ、ダメ・・・?」
 やっぱり、そんな事どうでも良くなって。俺達が何者なのか、どうして武器を使えたのか、人間の文字が読めるようになったのか、ヨヅキはどうして俺の事を好きだと言ってくれないとか、色々悩むことは多いのに。
「う、うう、うううっ、許さ、ないぃ・・・こんなの、酷い、よぉ・・・う、ううう、ひいっ、そんな眼で、見ない、でぇ・・・」
 結局のところ、何も考えるのが面倒になって。
「う、うう、いや、認めないぃ、こんなことされてるのに、リオンのアソコが美味しいだなんて、認めな、あう、美味し、う、うう、いや、こんな交尾なんて認めないぃ・・・」
 また後ろ手に手を縛り、今回はおまけに足も縛って、手首と足首を繋げてみました。確かこれって海老反り拘束と言うようだな。なるほど、確かに見た目は海老みたいだな。
 そんなヨヅキを横向きに寝かせて、その口に俺のアソコを突き付ける。
「いやぁ、やっぱりヨヅキの口はいいなぁ。いくらでも出せる」
 そして延々と、フェラをさせる。それだけでいい。とても楽しい。
「あ、うう、いや、もう顔に、掛けないでぇ・・・う、うう、臭いぃ、ベトベトして気持ち悪いぃ、う、うう、うわあああん・・・ひ、ひぃっ、まだ、ヤらなきゃ、ダメ・・・?」
 基本的には口に。ときどき顔に。いやぁ、相変わらずいい泣き顔だ。精液まみれのヨヅキってのも中々オツだな。いくらでもヤれる。
「止めたければいつでも止めていいぞ。そのかわり、話の続きを」
「・・・分かった、から。もうちょっと、近づけて、くれる?」
 まったく、だから止めたければ狐に戻ればいいだけなのに。
 まあいいか。本人が逃げないうちは、好きにヤらせてもらおうか。お前も楽しいんだろ?俺に乱暴にされるのが。俺に恐怖を与えられるのが。それがお前の幸せなんだろう?
 だから、まだまだヤってやるからな。泣くほど嬉しいだろう?

「ぁ・・・、・・・、ぅ・・・、ぁ・・・」
 おやおや、もうお休みかな?
 ほれ、脇腹を撫でてやろう。
「ひゃうぅ・・・、ぅ・・・、・・・」
 ヨヅキの顔は精液まみれ。そしてアソコも濡れっぱなし。
 ふふふ、俺だけ気持ち良くなるのも悪いからな、手足を縛ったまま、全身を可愛がってやったのさ。ほれ、お前の好きなクリトリスだぞ?思いっきり抓んでやる。
「あぅ・・・、ぅ・・・、ぁ、ぁぅ・・・」
 反応は薄い。ヨヅキは虚ろな眼で、涙を流している。ついでに口から涎も垂れ流しっぱなし。そして全身が震えている。フッ、少しヤりすぎたか。
 気付けば外もだいぶ明るくなってやがる。マジで昼までヤっちまった。
 待ってろ、体を綺麗にしてやるから。それと手足も自由にしてやるよ。・・・ほら、綺麗になっただろう?体を起こしてやるよ、動けるか?
「・・・もう、終わ、り?」
 おうおう、まだそんな怖い眼で俺を睨めるのか。
「ん?どうした?そうかそうか、もっとヤって欲しいんだな。それなら、最初からヤるか。またじっくり胸を揉んでやって」
「もう、いい、から。・・・ありが、とう」
 そう言うと、ヨヅキは眼を瞑り。瞬く間に、ヨヅキの体が小さくなる。白い狐の姿になり、静かに寝息を立てている。これは意図的に狐に戻ったのではなく、完全に寝入っ・・・いや、気を失ったと言うべきか?すまんマジでヤり過ぎた。
 だけど。こちらこそ、ありがとう。限界まで付き合ってくれて。
 俺達が何者なのか、結局は分からなかったけど。楽しかっただろ?難しい事なんて、どうでも良くなっただろ?それでいいんだよ、俺達は。ずっと一緒なんだから。

 その後の話になるが。俺はお説教を食らいました。
 自警団団長と、アイツが働いている娼館の店長に。
 えっ、ヨヅキと話をする予定があったから、カチコミもとい取り締まりが終わった後に、自警団詰め所に行く事になっていたって?
 すみませんでした昼までヤるのは調子に乗り過ぎましたゴメンなさいアイツの仕事のスケジュールというか勤務シフトというものを把握してませんでした許して下さい。
 ひとまず、俺達を狙っていた奴等は、完全に潰すことはできなかったが。当分は、活動できないだろうとの事。後は自警団でどうにかできる・・・ではなく、どうにかする、と。今度は自分たちの力で、この町を守ると言っていた。
 さて、団長はまだ話が分かるからいい。問題は娼館の店長。
 いちおう、娼館でのアイツの給料は俺が預かることになっているため、身元保証人という扱いで俺の家を教えたもんだから。住み込みで働くヨヅキが夕方になっても帰ってこないからと、俺の家まで来てしまって。
 よよよヨヅキですか、ええとすみません分かりません、ああそのベッドで寝ているのは俺のペットの白狐ですハイ、それにしてもヨヅキはどこに行ったんでしょうねぇハイ、ごめんなさい無断欠勤はヨヅキのせいじゃないんです俺のせいです謝りますハイ。
 お詫びに今夜は先輩殿を指名して・・・えっ、ビッグスとかいう男が大量に貢いでいるから先輩殿は忙しいって?オイオイあいつどんだけ娼館にハマってやが・・・いえ何でもないですハイ。
 ふう、言い訳はこんなもので良いか。おい白狐、そろそろ起き・・・って、いない。いや居た。狐の姿のままで、窓の外を見ている。
 ・・・ああ、いい月だな。でもできれば、故郷で満月を見たかったよな。えっ、ああこれは満月って言うんだよ。何だお前、そんな事も知らなかったのか。いいか、月には色々な呼び方があってだな――。

 また朝になって。団長と先輩殿に見送られ、俺達はこの町を後にする。
 と言っても、しばらくすれば帰ってくるけどな。なにせ俺はヨヅキと一緒に、これからもこの町で働くのだから。時おり小う・・・じゃなくって、ビッグスもな。何だかんだでお前、冒険者としての適性がありそうだな。
 じゃあ団長。先輩殿は自警団達に任せていいんだな?この人の事はしっかり頼むぞ。何があっても守ってくれよ?それでは、行こうかお前ら・・・って、アレ?
 毒へ・・・じゃなかった。ゲンブ、お前は残るのか?えっ、今日は団長にデートしようかと誘われてるって?おい団長、ウチの同胞をたぶらかせるとはいい度胸してんじゃねえかコラ。
 えっ、違う?少し調べたいことがあるからゲンブに協力してほしいって?それなら自警団所属のヨヅキのほうが・・・いや、何も言うまい。深い理由は聞かないでおこう。どうぞお幸せにグヘヘ。
 では今度こそ行こう・・・じゃなくて、帰ろうか。えっ、禁足地の山に入るための許可?知らんそんなの。山への入り口は他にもいっぱいあるからな。
 普通の人間なら歩けない道。越えられない溝。登れない崖。行く手を邪魔する木々。でも俺達なら余裕。ウチの同胞達は、虎を除けば人間の姿でもそれなりに身のこなしはいいからな。
 あぁあ、やはり故郷の空気はいい。久々に帰ってくるとスッキリす・・・ってヨヅキめ、いくら故郷が待ち遠しいからって、いきなり駆け出すこともな、
「虎ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「あ、皆さんお帰りなさグムッ。し、白狐さん、苦しいですぅ・・・」
 裸の金髪少女に、ガチ泣きしながら全力ダイブするヨヅキ。
 おい、気持ちは分かるがそろそろ離してやれ。それにしても虎のやつめ、すっかり元気になったようだなフフン。
「むう。お前ら、帰ってきたか」
 おう、芦毛のおっさん。俺らが町に出向いている間、変わりは無かったか?
「へっ、大丈夫さ。なにせ俺様がついてるからな」
 ・・・ええと。どちら様ですか?この真っ裸な黒髪の女性は。


 意味が分からない。まったくもって意味が分からない。
 俺とヨヅキとビッグスは首を傾げている。
「どうしたんです?3人とも不思議そうな顔をして」
 いや、虎よ。そりゃ意味が分からないに決まってるだろ?
「むう?儂らの何がおかしいと言うんだ?」
 しかし、虎と芦毛のおっさんも首を傾げている。
「オイオイ酷ぇなぁ。俺様の顔を忘れるとはなぁ」
 いやだって、誰だよコイツ。初めて見る顔だぞ。
 どういうことだよオイ。まるで意味が分かんねえぞ。
 いつの間にか俺達の同胞が増えちまっている。
「・・・リオン。私達って、いったい何なの?」
 ああ、ヨヅキがまた思いつめた顔をしてしまった・・・。


 ――今回の主役:リオン
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