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十六話 とある町に出張する男性の話

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 これは、いつの話か分からない。ここではない、何処かの話。
 ここは、私の職場である自警団の詰め所。今は朝と昼の間。
 この世界は、人々が頑張って、各々の仕事をしている世界。
 魔法?ええ、存じ上げてます。大っぴらには話せませんがね。

 ふう。ここまで事態が上手く運ぶとは思わなかった。
 これも彼女達のおかげだ。いや、彼女達を利用した・・・と、言うべきだ。私が、我々自警団が、いったい何をしたというのだろうか。
 大怪我を負いながらも多くの敵と戦い、奴隷達を解放した少女。
 被害者を保護すると言いながら、敵を誘うための餌にした女性。
 そして、たった1人で敵のアジトに乗り込み、多くの敵をブチのめした彼女。でも、そこまでは頼んでなかったのだが・・・いや、言い訳をしてはいけない。私は彼女の底知れぬ憎悪を知っていたはずだ。あんなことになるのは、十分に予想できたはずだ。
 その一方で、私は何をしたというのだ。彼女達が戦った後に、その場を訪れただけ。私は何もしていない。彼女達の働きを、彼女達の手柄を奪っただけだ。
 それだけではない。牢屋の中で見知らぬ男に抱かれるように頼み、情報を聞き出した後は口封じのために暗殺を行わせるだなんて。なんという卑劣な行い。なんという外道の所業。こんな汚い仕事を女性にやらせるだなんて、男の風上にも置けない。
 しょせん私も、奴らと変わらない。裏社会の者達と、私に、いったい何の違いがあるというのだ。
 ・・・だが、私は迷わない。迷ってはいけない。私はこの町の自警団の団長なのだから。私にはこの町を、部下達を、町のみんなを守る義務がある。
 私には責任がある。すべての責任は私が取る。それこそが、彼女達の働きに報いることになると、私は信じている。

 さて、と。それでは仕事をするか。
 あのクソ野郎共の警戒は、部下達に任せたのでも十分だろう。なので私は、どうしても気になっていた案件を片付けることにする。
 ここは、私の職場である自警団詰め所の、私の部屋。机の上には、資料がいっぱい。資料と言っても、そこまで詳細なものでも無いが。
 この町には、多くの旅人が訪れる。そして多くの仕事が、依頼がある。これらは冒険者達が行うものなので、我々には無縁、というより我々はそこまでやる義務はない。
 町中の警備と治安維持が我々の仕事、そして我々では行き届かない仕事は冒険者達がやってくれる。主に、町の外に出向く類の仕事を。
 荷物運びとか、交易路に潜む盗賊共の確保とか。あるいは、こういうのも冒険者達のポピュラーな仕事だ。おっと、部下がまた色々と持ってきてくれたようだ。
「団長。お指図通りのものは、できる限り集めてみました。冒険者ギルドから取り寄せた過去の依頼書です。なにぶん過去のものですから、保存状態も悪くて・・・」
 ああ、それは気にしなくても良い。どうもありがとう。
 ふむ・・・なるほど。では、ここから更に必要な情報を・・・って、どうした?まだ何か用があるのか?
「あ、あの、団長。肩の上に、猛毒の蛇が・・・」
 ああ、これは気にしないでくれ。趣味なんだ。
 では、私は出張してくる。後は任せたぞ。

 今朝がた、彼らと・・・とても不思議な魔法使い達と、別れる際に。あるお願いをして、聞き入れてもらった。
 どうしても、彼女が必要だったからな。では、そろそろ行きましょうか。
 まずは、自宅に戻ります。ええ、誰も見ていませんから、どうぞ遠慮なく。・・・ははっ、もう鼻血は出しませんって。それでは、これを着てくださいね?
「えぇ・・・ヤダ。服なんて着たくない。それだったら、蛇の姿がいいんだけど。どうしても、着なきゃダメ?」
 桃色髪のナイスバディな女性は、裸のまま不機嫌な顔をしてらっしゃる。ええ、着てください。ていうか着てくれないと私が困ります。お願いですから着てください。
「はぁい。・・・ねぇ、下着も付けなきゃダメ?それと、できれば布地の少ない服が良いんだけど。この前ヨヅキが着てたような服とかは無いの?」
 駄目です。あなたの体であんな恰好をしてはいけません。下手すればワイセツの罪になります。それに長袖の旅人服、とても似合ってますよ?可愛いです。美しいです。
「ふっふっふ。なら仕方ないか、着てあげる」
 ええ、ありがとうございます。それでは行きましょうか。
 ではゲンブさん、馬に乗って行きます。私の後ろに乗って、そのまま私に掴まってください。あぁあゲンブさんのおっぱいが背中に当たっ・・・いえいえ違います、そんなつもりであなたを人間の姿にしたのではないのです。嘘じゃありません。信じてください。

 さて、昼過ぎには辿り着くことができた。それではゲンブさん、今からあなたは、私の助手です。私について来てください。
 えっ、手を繋ぎたい?駄目です、今は仕事中ですからね。もう、そんなに拗ねないでくださいよ、後でまぁ・・・その、はい、そういう事で、今は我慢してください。
 どうです?この町は。あなた達の森には劣るかもしれませんが、それなりには自然豊かで、綺麗な場所でしょう?ふふ、興味津々ですね。
 そして、ここは農園といって、植物を育てる場所なんです。ええ、そうですね。ゲンブさんが人里に来る場合、基本的には私の町ばかりを探検するのですよね?だから、こういう所に来るのは初めてですか、なるほどそうですか。
 では、ここから真面目に仕事をします。・・・何があっても、落ち着いてください。もし不安になった場合は、私の手を握ってください。どうも、お邪魔します。
「ああ・・・いらっしゃい、話は聞いてます」
 40歳前後の男性に連れられて、彼の家に入る。案内された部屋には、ベッド。そしてその上に、年は15か16ほどの女性・・・いや、女の子と言うべきか。体を起こして、窓の外を見ていて。
「・・・、・・・う、あぁ・・・」
 眼の焦点が合っていない。涙を浮かべて、外を見ているだけ。我々には気付いていないようだ。口元を震わせて、うわごとのように、何かを呟いているだけ。
 ゲンブさんは眼を逸らしている。女の子から眼を背けたい気持ちは分かります。私も仕事じゃなければ、こんな事をしたくはありませんよ。

 重い空気。口を開いたのは、我々を案内した男性。
「娘はずっと、あんな調子で。あの大猿に、攫われてから」
 女の子の表情が歪む。体を震わせている。
「ひ、大猿、いや、う、いや、あんなの、う、うう、う」
 これは、少し前にあった依頼。大猿に娘を誘拐されたから退治して欲しい、という依頼があったそうだ。だが、あまりにも現実離れした依頼だったため、誰も引き受ける者がいなくて、依頼書もしばらくの間は放置されていたらしい。
「嘘よ、あんなの嘘よ、あんなの、う、う、うわああああああっ!」
 錯乱する女の子。すぐさま父親が駆け寄る。ええゲンブさん、いいですよ、私の手を握っててください。
 依頼が放置されていた間。この子に、何があったのか。何があったかは知らないが、それだけのことをされた。女の子の表情が、それを物語っている。
「あんなの嘘よ、あんなのあり得ないわよ、人間が大猿になるなんて、あんなの、う、うあ、ああっ、あんなの、う、ううう、ううう・・・」
 ゲンブさんは私の手を握ったまま。だけど、首を傾げている。
「すみません。娘は、悪い夢を見てるんですよ。私も、大猿を倒してくれた冒険者達も、大猿の姿は見ましたが、そんな人間は見ていませんし。大猿が人間になるだなんて、そんな魔法みたいな話が・・・」
 ええ、そうですね。まるで魔法みたいですね。
 ありがとうございます。辛い話をさせてしまい、申し訳ありません。では私達は失礼します。・・・大丈夫ですよゲンブさん、あの子にはお父さんがついていますから。

 少し人気の無い所に行って。ゲンブさん、どう思います?
「うーん・・・大猿の仲間なんて、いない。それは確か」
 なるほど、分かりました。では、次に行きましょう。
 どうも、お疲れ様です。ええ、地下に置いているのですね。
 うぐっ、さすがに臭いがキツイ・・・ゲンブさんは余裕なのですか。えっ、むしろこういう臭いが・・・いえ、詳しい事は聞かないでおきましょう。
 この町を統治する衛兵に連れられたのは、いわゆる遺体安置所。地下室だから、ある程度は気温が低いので遺体の腐敗が抑えられるが、さすがに日数が経過すると・・・うぐっ、鼻がおかしくなりそうだ。でも我慢する。
 そして、見せられたのが。ゲンブさんは眼を見開いている。
「ほう、これが町を騒がせた大猿ですか」
 傷だらけ。あちこちを斬り裂かれた、惨たらしい大猿の死体。そして、首を斬り落とされている。頭部は遺体のすぐ横に。
「うぐっ、酷い。ここまでしなくても・・・だけど、悪さをしたのなら、仕方ないのか。さっきの女の子の事もあるし」
 ゲンブさんは、拳を握り締めている。おそらくは怒っているのだろう。理由があったとはいえ、食べるため以外の為に命を奪うのは、彼女達の流儀に反する事だからな。
「すみません。後は2人きりにしてください」
 案内してくれた衛兵を、地上に帰して。よし、他には誰もいないな。

 ゲンブさんは、大猿の遺体に近づく。そしてしゃがみ込んで、斬り落とされた大猿の頭を撫でる。彼女なりの、弔いの儀なのだろう。とても悲しそうな顔をして、
「・・・ん?あれ?えっ?ええっ!?」
 突然、眼を見開く。驚いている。そして頭を両手で抱えている。
「えっ、これってどういう事!?ううう・・・、でも、どうして・・・?うーん、えーっと?うん、間違いないけど、やっぱり違うし、うーん・・・」
 彼女がここまで不思議そうな顔をするのは初めてだ。
「ゲンブさん、どうしましたか?」
「・・・この人の事を、知っている。少し前に来た侵略者。触ったから分かるの。この大猿さんの、人間の時の姿を」
 ゲンブさんは、考え込んでいる。
「いつだったかは、覚えてない。私が見たのは、1回警告を受けたのに、奥まで入り込んでいた時。後で聞いたんだけど、2回目の警告も無視したから、ヨヅキが始末したって」
 なるほど、それなら始末されても仕方の無い話だ。
 あの禁足地の山に入ったのなら、何があっても自己責任というのが我々のルール。そしてあの山の森の中では、彼女達の掟こそがルール。
 彼女達は、無駄な命は奪わないというのが流儀。よほどのことが無い限りは。そんな彼女達が、始末などという言葉を使うのは・・・私も身を以て経験したからなぁ。警告を受け、命の保証はしないと言われ、それでも進んだ結果がアレだったし。
 よくよく考えれば、よくぞ私は生きて帰れたなぁと、我ながら思う。アレは今思い出しても吐き気がするオエッ。あの時のヨヅキさんはマジで怖かった・・・。

 遺体安置所を後にして。そろそろ夕方なので、今日の仕事はここまでにする。ちなみにゲンブさん、晩ご飯はどうします?えっ、水だけでいいんですか?
 ええっ!?最後にご飯を食べたのって3日前!?そんな過激なダイエットをしてるのですか!?・・・えっ、蛇は毎日ご飯を食べなくても良いって?そ、そうなのですか・・・やはりあなた達の食生活って不思議ですね。
 この前ヨヅキさんが食事をしている所を見てしまったのですが・・・オエッ。う、すみません。えっ、虎の少女の食事はもっと凄い?うわぁ想像したくない。もうこの話は止めますハイ。
 では、私だけ失礼して。あのうだからそんな不思議そうな眼で私を見ないでもらえます?チキンソテーってそれほど珍しい物なのだろうか。 
 ああなるほど。ゲンブさんは生きたままの・・・ごめんなさいもういいです聞きたくないです小鳥が好きなのは分かりましたから許してください想像したくないですハイ。
 ふう、美味しかった。さすがは自然豊かな町、家畜も美味しいなぁ。
 ああ、家畜と言うのはですね・・・すみませんでした。ゲンブさんにとっては、あまり気分のいい話ではなかったですね。でもこれが、人間の食生活なのです。
 先程は無礼な事を言って申し訳ありませんでした。あなた達の食生活を不思議などと言ってしまって。あなた達からすれば、我々の食生活もまた奇妙に思えてしまうのでしょう。お互いに、普段生活している場所が、違うのですから。
 でも、いつかは。お互いの事を、理解し合える時が来ると信じています。私達は、共に戦った仲間なのですからね。

 それでは、2人きりになれるところに行きましょうか。・・・いえ、確かにそういう意味もありますが。他にも色々、事情がありますからね。
 ふむ、ここの宿にするか。ええと代金は、ってゲンブさん?
「えーっと、釣りは要らん受け取れオラァッ!こちとらいくらでも金を用意してやるぞアアッ!?」
 待て待て待て待てちょっと待て。何をやってるんですかゲンブさん、そんな失礼な事を言っては・・・えっ、リオン君はこうやって代金を払ってたって?なるほど、では今度会った時にでも説教してやります。
 というよりゲンブさん、そんな大金をどうやって・・・えっ、リオン君の家に置いてあったお金?リオン君が好きに使っていいと言ってたから持って来たって?
 うわわ、それで釣りを要らないと言ってしまうのはさすがに、ってオイオイオイ、宿屋のオーナーさんが直々に案内してくださった。しかも一番高い部屋だ。
 おおう机も椅子もゴージャスで、ベッドがとてつもなく大きい・・・あぁ、食事の用意は結構です。ええ、それではゆっくりさせて頂きますね。
 うわぁ、良いのかなコレ、後でリオン君になんと言えばいいんだ、そもそもこんな高い部屋の代金を女性に出させるとか、男の風上にも置けない。
 まあ、過ぎたことは仕方が無いか。それではゲンブさん・・・あれ、いない。いや居た。さっきまで彼女が着ていた服が床に置かれていて、その中から1匹の蛇が出てくる。
 そして蛇がベッドに飛び乗ると、蛇の体が瞬く間に大きくなり、
「さて、ヤろうか。・・・ヤってくれる、よね?そういう約束でしょ?」
 真っ裸のゲンブさんが現れる。何という早脱ぎの技。何という魔法の無駄遣い。あの、まずは話を・・・ハイハイ分かりましたから、服は自分で脱ぎますから。

 彼女と出会ったのは、約2週間ほど前か。
 あの時はまさか、このような事をする関係になるとは、思わなかったなぁ。なにせあの時の彼女達は、仲間が大怪我を負って帰って来て、だけど詳しい事情を知らなかったのだから。
 仲間を傷つけられ、気が立っている中で、突然部外者がやってきた。しかもその部外者は、傷つけられた仲間の事を知っている。この時点で、私があの子に危害を加えたと思われても、仕方の無い事だ。
 だから、殺意を向けられたのも、危うく殺されかけたのも、仕方の無い事。それにちゃんと話をすれば、分かってくれた。
 今では、彼女達の事は気心の知れた友人だと思っている。彼女の仲間達を全員知っている訳ではない。今朝、彼女の仲間達を見送った時に、茶髪の青年を初めて見た。なるほど、彼はビッグス君という名前なのか。名前からして大型動物にでもなるのかな。
 そして、白狐のヨヅキさんに、虎の少女に、リオン君・・・そういえばリオン君も何の動物か聞いてないな。だけど今さら聞くのも野暮か。
 そして、もう1人。彼女は・・・もはや、友人という間柄ではないな。
「はぁっ、ああっ、もっと、してぇ・・・」
 毒蛇のゲンブさん。改めてだが、中々物騒な名前だなぁ・・・。
 そんな彼女と。ベッドの上で、向かい合って座って、抱き合いながら。私と彼女のアソコ同士は、深く繋がっている。
 だが、腰は動かさない。動かない。繋がっているだけ。抱き合っているだけ。彼女は、こういうセックスが好きなんだ。
 時間を掛けて、ゆっくりヤるのが好きというのが、彼女の言い分。実際、彼女と夜を共にする時は、こうしてヤってる事がほとんどだ。

 でも、今日は少し違う。分かる、私には分かる。
「ゲンブさん。何か、辛い事でもあるのですか?」
「・・・何も、無い。どうして、そんなことを聞くの?」
「あなたらしくないです。こんなことは」
「・・・いつも、ヤってるでしょ?コレ」
「いいえ。いつもなら、コレをヤる前に、色々しますからね。むしろゲンブさんから仕掛けてくるでしょう?キスをしてきたり、自分のおっぱいを使ったりして」
「・・・そういう気分じゃ、無いの」
「ええ。だから、何か辛い事があるから、そういう気分じゃないのでしょう?あなたらしくない、いったい何が」
「――私らしい、って何?」
 じ、っと睨んできた。
「団長さんは、私の何を知っているの?私達の何を知っているの?団長さんは人間なのに。私の、何が分かるの?」
 何も言わない。何も答えない。
「私達って、ついこの前出会ったばかりだよね?そりゃあ何度かヤってる仲だけどさ、私の何を、団長さんは知っているの?」
 何も言うつもりもない。答えるつもりもない。
「・・・言えない、よね。分からないよね。私の事なんか。人間なんかに、私の事なん、きゃああああっ!?」
 なので、こうする。

「きゃ、きゃはは、いや、やめて、くすぐったいって、あは」
 ゲンブさんの脇腹に手を伸ばして。撫で回す。もとい、くすぐってやる。
「あ、あう、ひ、きゃはははははっ!あははははははっ!」
 そして止める。再び、深く抱き締める。
「う、うう、何するのよ、もう。私は、真剣に、ひゃうううううん!?う、それは、リオンの、得意、な、あううううん!?」
 ほほう、リオン君もコレをヤるのか。とっさの思い付きでヤってみたが、実際に行っている人がいるのなら安心だ。
 大したことはしていない。ゲンブさんの耳に、息をふぅっとな。
「うぐぐ、ヨヅキがコレでヒィヒィ言う理由が分かった、なるほど確かに、ひいいいっ!?あ、あう、やめ、耳に息を、やめ、ひゃあああああっ!?」
 ほほう、リオン君とヨヅキさんはそういう関係だったのか。これは思わぬ情報を手に入れてしまっ痛あああああああい!?
「ふ、ふふ、いいよ、ヤるなら、私もヤってあげるよ?コレ、先輩さんがヤってたから、ね・・・ふ、ふふふ」
 抱き合って密着している体の中に手を入れて、私の乳首を捻り上げてくるゲンブさん。いやその、娼婦ってこんなこともするのか・・・。
 ならばお返しに。ゲンブさんも、乳首を抓られるの好きですよね?
「ぎゃああああっ!いやだから乳首は繊細だって言ってるでしょ!?」
 なるほど、ならばもう一度脇腹を全力でくすぐります。
「ぎゃはははははははは!やめてええっ!降参!私の負けでいいかあははははははははは!ひゃははははははははは!・・・ぜぇ、はぁ、あぅ、息が・・・げほっ」
 ふふふ、私の勝ちですね。

 そして結局、こうなる。
「ふ、ふふ。真面目に考えてた私が馬鹿みたい、ふふ」
 私は下。ゲンブさんは上。アソコ同士は深く繋がっていて。
 ゲンブさんは私の体を強く抱き締め、胸を押し付け、唇を重ね、足も絡ませて。体中の至るところが、ゲンブさんと触れ合い、繋がっている。
「許さなぁい・・・今夜はずっと、こうしてやる。団長さんなんて知らない、絶対に腰を振らせてあげない、イかせてあげないから覚悟してねぇ・・・・ふっふっふ」
「ええ。私もコレ、嫌いじゃないですからね。どうぞこのまま、ゲンブさんの気が済むまで。・・・舌を入れても、いいですか?」
「ふ、ふふ。イイよ。だけどもう今日はお喋りはお終い。ずっと口を塞いであげるね?・・・ありがとう、団長さん」
「ええ。こちらこそ。では今日は、ずっとこうしましょう」
 あの日。貴女と初めて出会った日。貴女達と初めて出会い、最初は険悪だったけど、話をして、その日のうちに貴女と夜を共にして。
 それから、貴女達が私達の町にやって来て。お互いの利害が一致していたという事情もありましたが、共に協力して、色んなことをして。
 時おり貴女は、私の家に来て。その度に、夜を共にして。
 時には、貴女に酷い仕事をさせてしまって。あの時の貴女は、表面上は明るく振る舞っていたが、内心は酷く落ち込んでいた。
 でも、その度に。こうして、抱き合って、私と貴女が一つとなって。その度に、私は感謝するのです。貴女のおかげで、あの森から生きて帰れたから。この気持ち良さが、私が生きている証だと、心の底から思えるのです。
 だから、いつまでも一つになりましょう。
 貴女の気が済むまで。ええ、とても幸せですよ。

 朝。いつもの目覚め。といっても、彼女といる時の目覚め。
「ふふ。団長さん、おはよう」
 軽く抱き合って、一緒に横になって。いわゆる添い寝。
「団長さん。今日はどうするの?町に帰るの?それともまたどこかに行くの?どのみち私は付いて行くからね。でもできれば、蛇の姿が良いかな?もう服を着るのは嫌だし」
 ・・・さて、どうするか。
「ん?団長さん、どうしたの?ふふ、もしかしてまだヤり足りない?だったらこのまま一日中ヤってみる?せっかく綺麗な宿屋に泊まったんだし」
 本当なら、昨日のうちに話したかった。
 でも、良いか。彼女の辛さは、薄々理解していたんだ。そして昨日体を交えたことで、それは確信に変わった。
 彼女の・・・いや。彼女達の、本当の正体を。
「ゲンブさん。何があったとしても、私の事を信じてくれますか?」
「ふふ。責任取ってくれるのなら、イイよ?」
「・・・ええ。覚悟はできてます」
「――団長さん。なに、その、怖い顔」
 何も言わず、背を向けて。ベッドを降りる。
 服を着る。元々着ていた、自警団の服を。ここからは、仕事の時間だから。これを貴女に話すために、私はこの町まで来たのだから。

 彼女はベッドの上に、裸のまま座り込んでいる。
 そんな彼女の前に、とある紙を差し出す。
「ん?何それ。ゴメンね、私は人間の文字が読めないの。それにしても、ずいぶんとボロボロだね、コレ」
「ええ。なにせ何年も前の、未解決の依頼書ですからね」
「依頼書?・・・あぁ、リオンや小兎から聞いたことがある。これを見て、冒険者達は仕事をするんだって」
「ええ、そうです。ちなみにこれは、行方不明者の捜索依頼です。冒険者にとっては、比較的ポピュラーな仕事の一つですね」
「ほう。でも、それがどうしたの?」
「あなた達の住む森がある山は、我々は禁足地の山と呼んでいます。この山に無闇に入ろうものなら二度と帰れない、恐ろしい獣が住んでいるから生きては帰れない、という理由で」
「あはは。恐ろしい獣かぁ・・・。それって多分、私達の事かな?でも、よほどのことが無い限りは生きては帰しているつもりだけど・・・」
「ええ、それについてはとやかく言うつもりはありません。ただ、どのみちあの山は、行方不明になる人が多いのです。だから禁足地にしているわけです」
 改めて、彼女に差し出した紙を、指差す。
「そしてこの依頼書は。とある探検家が、この山で行方不明になったために出された依頼書です。桃色の髪をして、人よりも若干体つきの良い、女性の探検家の話です」
 彼女の表情が、凍り付く。
 ・・・ええ、覚悟はできてます。責任を取る覚悟を。

 再び彼女から、背を向ける。だけど、言葉は続ける。
「昨日の大猿は、元々は人間だったはずなのに、大猿になることができた。しかも、ヨヅキさんに始末されたはずなのに」
 彼女は、何も言わない。
「私も、ヨヅキさんの強さは知っていますからね。うっかり殺し損ねる、ということは無いでしょう。あの男は、あの森で死んだ。ヨヅキさんに殺された。これ自体はとやかく言うつもりはありません。それがあの森の掟なのですから」
 彼女は、何も言わない。
「なのに、あの男は大猿になった。しかもあの女の子が話す限りは、人間にもなれる大猿に。・・・大猿の所業についても、とやかく言うつもりはありません。肝心なのは」
「もういいよ。何も言わないで」
 ・・・彼女が、こんなに怯えた声をするとは。だけど、
「いいえ、言わせてもらいます。その依頼書の探検家が行方不明になったのは、何年も前の話。あの山で、あの森で。普通の人間が、何年も生きていられますかね?」
「やめてよ。もうやめてよ。お願いだから」
「ちなみにですが。他にも、茶髪の青年の捜索依頼と、金髪の少女の捜索依頼も見つけました。これらもまた未解決で、何年か前の、っと」
 おっと危ない。背を向けていたけど、気配で分かった。彼女の殺気で。だから、寸でのところで、彼女の拳を避けることができた。少し距離を取る。
「もうやめて、って言ってるでしょ!これ以上、続けるなら」
 彼女の顔を見る。殺意と、怒りと、悲しみと、恐怖。ありとあらゆる感情がごちゃ混ぜになっている。ええ、いいですよ、貴女がその気なら。
「これが、貴女の魔法。・・・貴女達の、真実」
 私はそのために。この自警団の服を、装備を整えたのですから。
 覚悟はできてます。今度こそ、貴女と戦う覚悟を。


 私は眼を背けない。貴女から眼を背けない。
 貴女の辛さを受け入れる。貴女の全てを受け入れる。
 あの日。私は貴女に生かしてもらったのだから。
 あの日。責任を取ってと、頼まれたのだから。
 これは、不思議な森に住まう者達の物語。
 あの森に住まう、悲しい魔法使い達の物語。
 貴女達は、確かに不思議な存在だ。何故なら、
「もう、何も言わないで。殺意が抑えられないの」
 いいえ、続けます。私は、貴女に助けられた。
 そしてこれが、貴女への恩に報いることだと信じている。
「ゲンブさん。貴女は、何年も前に、死んだのです」
 私は、貴女に向き合う。貴女達の真実に、向き合う。


 ――今回の主役:自警団の団長
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