I SAVE ME (アイ セイブ ミー)

夏風涼

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CASE 山岡卓

第六話 救済

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 叫ばされていた。
 だが、焦り、焦慮、焦燥。
 身体は再び、恐怖を思い出す。手が震えて、腕が震えて、足もガクガクで、心臓が爆発して、顔面は真っ白にになっているだろう。
 かろうじて立っているのが不思議なくらいだ。
 僕は決して勇気を持って言った訳ではない。
 
 でも、もう、耐えられなかった。僕はイジメを受けている生徒とシンクロしてしまったようだ。
 彼が山岡卓に殴られた身体がまるで、幻肢痛のように、殴られていないのに僕の身体が傷ついてしまった。
 だから、僕は叫んだ。叫んでしまった。
 しかし、それは今度は誰かに確実に届く声だった。

「な、なに?」
 
 山岡卓の手が止まった。
 苦悶の表情を浮かべている、男子生徒の胸倉から手を離し、僕の方にゆっくりと近づいていく。
 他の不良達は驚いている様子だったが、やがて、面白そうに「ハハハ」と醜い笑みを浮かべる。

「なんて?」
 
 僕は震えていた。まだ震えていた。止めることなどできようもない。
 だが、言わなきゃ、何か言わなきゃやられる!
 
 「ごめんなさい」「すみません」「僕が悪かったんです」様々な謝罪の言葉が頭に浮かぶ。だがそれでいいのか? ともちろん、反対する意見も出る。「謝ってどうする?」「耐えられなかったんだろう? イジメに」「言ったんだろ? 反抗する意志を」「このままいけよ」「闘えよ」「でも、勝てる?」「キミはいじめられっ子だよ」「弱い対象なんだよ」「このまま学校から社会からいじめられ続けるのさ」「お前は弱者だ……」

『ふうー』
『ほんと、世話焼けるわね。私に任せなさい、あんた、黙っておきなさいよ』
 
 ――何を……。

「イジメをやめろと言っているんだ!!」
 ――やめてくれー!!
 
 勝手に口が動き出す。いや、口だけではない、身振り手振り、生体反応、雰囲気までも彼女が僕を操作する。
 
 ――僕がこれからどうなるか、責任とれるのっっ!! やめてくれー!!
『このままでも、十分危険よ、ここで相手に挑まないと、絶対にやられるよ!』
 ――だからと言って、こんな……。でも、こいつらの怒りに油を注いだら、どうする気?
『うるさいわね! 助けてやってんだから、従いなさい。そうなったらただ逃げるだけよ』
 ――そんな……。
 
 そんな彼女との頭の中の言い合っている間、不良達は全員立ち上がり、僕の周りを囲む。
 山岡卓は、眉がつり上がり、元々切れ長だった目も余計に細められ、眉間に大きな皺を寄せ、僕の目の前に来た。

「イジメをやめろ……だって……」
 
 そして、長身の不良も薄気味悪い笑みを浮かべながら、

「おいおい! 次はコイツにするか?! いや二人とも……」
 
 と言いながら、僕の二の腕を掴もうとする。
 
 ――ヒッ。
 
 と言葉になるはずだった僕の反応と声はかき消され、僕は長身の不良に睨みを利かせている。

「やめろ!!」
 
 しかし、今度は山岡卓が、長身の不良に言って、僕の腕から手を離させた。

「卓? どうしてだ? コイツ滅茶苦茶、身体細いぜ、まるで松尾みたいだ」
 
 それを聞いて、山岡卓は全員の顔を順繰りに見た。

「分かってるさ。でも、コイツ、こんなに細い身体で一丁前に俺たちに喧嘩売って、何一つビビってないんだぜ」
「……確かにな」
 
 僕は(彼女は)全員に刺すような視線を送り続けている。

「コイツは面白い。そう思わないか?! お前ら」
 
 長身の不良は、「ふーん」と言いながら、俺の頭頂部からつま先まで舐めるように見る。

「まあ、卓は確かにこういうタイプは好きか……。お前は弱くても立ち向かう奴が大好きだからな。まさか、俺たちの仲間に入れよってんじゃないよな?」
「……それは分からない。だが俺はコイツが少し気に入った。コイツの気迫は相当なもんだ。いくら喧嘩が弱くても、負けない強さを持っている」
 
 僕はドキドキしながら(操作されているため、一切ドキドキしていないが)聞いていた。
 どうやら、事なきを得たようだ。
 皆、しらけたようで、各々、屋上のドアを開けて出て行く。
 いじめられていた生徒は潤んだ目ではあるものの、強い感謝を瞳に宿らせて、僕を見つめている。

「お前、もう行けよ! 今日は金取らないでおいてやる」
 
 山岡卓がそう言うと、男子生徒は立ち上がり、足早に屋上を後にした。
 山岡卓はふぅーと息を吐き出し、僕の大きな瞳に自分を映し出す。

「俺たちも行くか?」
 ――えっ! 俺たち……。
 
 ビビっても仕方ない、今の僕は見た目に何も表われることはない……と思っていたが、もう頭の声はなーんにもしてくれていなかった。
 
 ――おい! ちゃんと操作してよ!
『何、馬鹿言ってんの、十分助けてあげたわよ。言っとくけど、今回は初任務で、幸先が滅茶苦茶わーるかったから、特別やってあげたのよ。もう自分でやりなさい』
 ――……。
 
 なんて薄情なんだと思ったが、仕方ない。
 今頃になって再びビビり始めたと思っている僕を山岡は「ハハハ」と口を大きく開けて笑った。

「おまえ、不思議な奴だな。一丁前に度胸見せたと思ったら、今怖がるのか?」
「し、しかたないじゃないか?!」
「まあ、いいよ。お前、今から付き合え、今日はバイトまで時間がある」
 ――……。
 
 なんと言えば正しいのか!? こんな奴と絶対に遊びたくなんてないんだが。

『おーい! 任務でしょ?! やりなさい!』
「嫌なのか?!」
 
 山岡卓も頭の中の声も迫ってくる。
 あーもうっ!!

「分かったよ。でもトイレ行かせて」
 
 それを聞くと山岡卓は再び、腹を抱えて笑い出した。

「好きにしな」
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