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CASE 山岡卓
第八話 飛行
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こんな、死ぬ思いを何度もして、バイクは急に停止する。
気づけば、最初の空き地だった。
「お疲れさん」
山岡卓は眉尻を下げて、微笑んだ。
元々、彼はイケメンだと思う。ベリーショートの金髪は良く似合っており、女の人のような切れ長の綺麗な目、高く通った鼻梁。
そして、この屈託のない笑顔である。
夕日が僕たちを、この場所を照らす。
草々がオレンジ色の光を帯び、葉の一つ一つが美しく輝いている。
そして、僕と山岡卓に長く伸びる影法師を作り出す。
何のこともない、見慣れた風景だが、僕はこの目に焼き付いた景色をずっと胸に留めておこうって思うようになった。
「やべ時間だ」
突如、山岡卓は焦り出す。スマホを見てから、僕にこう言った。
「また、明日な。野原。楽しかったぜ」
そう言って、制服姿のまま、夕日に向かって走っていった。
僕はその様子をずっと見ていた。
『あんた、どうしたの?』
今まで黙っていた頭の中の声が話しかけてくる。
「どうしたのって何さ?」
『あんた、山岡卓のこと好きになったんじゃない?』
「誰が!!」
僕はすぐ様、否定した。
「殺してやるよ!! 今すぐにでも」
『ふーん素直じゃないのね』
「何言ってるの?! まあ、思ったより、極悪人じゃないみたいだけどさ」
『じゃあ行こうか?』
突然の頭の声の呼びかけによく話が分からなかった。
「どこに?」
『山岡卓のバイト先』
「……そんなことして、邪魔にならない」
『飛ぼうか?』
「はい?」
そう言った瞬間に、足下の空気が急に押し上げられる感じがする。
そして、まるで下から突風が吹きつけられたみたいに、体が上昇していく。
「え、なに?! なにこれっ!?」
状況が理解できず、錯乱しそうだ。
前から思っていたんだが、この世界は本当になんでもありだ。
何が前の世界と変わらないだ。大違いだ。
しかし、不思議と僕が何でもできるようになった気がしない。
おそらく、この頭の声の主、謎の女の子が何でもできるのだろう。
『体の力抜いて』
浮いたと思っても、まだ地面と足の裏との距離は五センチほどしかなかった。
――言われた通り、体の力を抜けば、どうなるんだろう?
別に飛びたいと思わなかった。単なる好奇心だ。
「……」
不思議だ。体の重さ、重力がまるでなくなったみたいだ。
そう思った刹那、下から吹く突風が、僕の重さが零になった体を上空に吹き飛ばした。
「あああああああ」
家が、学校が、街が!!
僕の体は、もうこの街を一望できるぐらい、高いところに来てしまう。
空を飛んでいる鳥ですら、もうこんな位置にいない。
しかし、眼下は絶景だった。
オレンジ色に染まった街はとても美しかった。
山坂高校の白い校舎は橙に染まり、ひしめき合う民家は皆、優しい色に包まれている。
あれは、東京タワーだ。そして、あれはスカイツリー。
都内のビル群がそびえ立っている姿も、雄々しくもあり、そして凜々しい。
東京湾、海までも見えてきた。
――凄い……。
僕は正直にそう思った。世界はこんなに綺麗なんだ……。
『キミ、何見とれてんのよ』
「……別にいいじゃないか。空を飛ぶ経験なんてできないよ」
『今から、山岡卓のバイト先まで先回りするよ』
「それってどこ? どこに行け……」
「「「「「うわぁぁあああああああああああ」」」」」
隼が急降下するがごとく、どこかにもの凄いスピードで飛んで行く。
僕は体をどうにか動かそうとするが、身じろぎすらできない。
まただ、また勝手に頭の中の声が僕を乗っ取った。
周りの景色が放射状に流れていく。
しかし、何も見えない。見えないし、僕が進めば進む程、空気が僕の体に強く打ち付ける。
――死ぬよ。やめて!
『何言ってるの、時速八十キロよ。バイク乗れたんだから余裕じゃない』
確かに恐怖が速さを増長させているかもしれない。
だからと言って、生身の体で、空を高速移動したら、誰がやったって怖いに決まってる。
すると止まった。
僕は瞑っていた目をゆっくりと開く。
――山?
そこは山だった。
確か、僕の街から少し離れたところにある、山。
杉などの高木が山肌を覆い尽くし、近くに渓流が流れていてマス釣りができる、自然豊かな場所だ。
そして、ここから少し離れたところには駅があり、また集落もある。
集落は木造で瓦葺きの民家が一軒一軒離れて立っている。その間を埋めるように決まって棚田があり、ここらでは自然と古き良き昭和の姿を楽しめる、ある種のリゾート地だ。
また、山の頂上近くには稲荷神社があり、観光目的で海外の人も訪れることもある、隠れた名スポットでもある。
確か、旅館が一軒あったはず……。まさかっっ!!
「ねえ、確か、山岡卓のバイト先があるって言ったよね?」
『ええ、そうよ』
「北斗で働いているのっっ!?」
『あったり!! キミ冴えてるね』
「馬鹿でも分かるさ。だってこの田舎、コンビニすらないんだもん」
『田舎に来なければあの子も働けなかったのさ。札付きの悪だから』
「……まあ近所ではまず働けないよね……。で何やってるの? 山岡卓」
『清掃だよ』
「清掃……」
想像もできなかった。あの力に物を言わせる山岡卓が人の下で働いて、それも汚れ仕事なんて。
『キミ、清掃は立派な仕事だよ。汚れなんて言ったら失礼。反省しなさい!』
「そんなこと口に出してないじゃないか?」
『まあまあ、北斗に行ってみましょう』
「制服で客として?」
『うんん。透明になって、勝手に侵入するの』
「本当になんでもありだな……」
『なんか言った?!』
「別に……」
気づけば、最初の空き地だった。
「お疲れさん」
山岡卓は眉尻を下げて、微笑んだ。
元々、彼はイケメンだと思う。ベリーショートの金髪は良く似合っており、女の人のような切れ長の綺麗な目、高く通った鼻梁。
そして、この屈託のない笑顔である。
夕日が僕たちを、この場所を照らす。
草々がオレンジ色の光を帯び、葉の一つ一つが美しく輝いている。
そして、僕と山岡卓に長く伸びる影法師を作り出す。
何のこともない、見慣れた風景だが、僕はこの目に焼き付いた景色をずっと胸に留めておこうって思うようになった。
「やべ時間だ」
突如、山岡卓は焦り出す。スマホを見てから、僕にこう言った。
「また、明日な。野原。楽しかったぜ」
そう言って、制服姿のまま、夕日に向かって走っていった。
僕はその様子をずっと見ていた。
『あんた、どうしたの?』
今まで黙っていた頭の中の声が話しかけてくる。
「どうしたのって何さ?」
『あんた、山岡卓のこと好きになったんじゃない?』
「誰が!!」
僕はすぐ様、否定した。
「殺してやるよ!! 今すぐにでも」
『ふーん素直じゃないのね』
「何言ってるの?! まあ、思ったより、極悪人じゃないみたいだけどさ」
『じゃあ行こうか?』
突然の頭の声の呼びかけによく話が分からなかった。
「どこに?」
『山岡卓のバイト先』
「……そんなことして、邪魔にならない」
『飛ぼうか?』
「はい?」
そう言った瞬間に、足下の空気が急に押し上げられる感じがする。
そして、まるで下から突風が吹きつけられたみたいに、体が上昇していく。
「え、なに?! なにこれっ!?」
状況が理解できず、錯乱しそうだ。
前から思っていたんだが、この世界は本当になんでもありだ。
何が前の世界と変わらないだ。大違いだ。
しかし、不思議と僕が何でもできるようになった気がしない。
おそらく、この頭の声の主、謎の女の子が何でもできるのだろう。
『体の力抜いて』
浮いたと思っても、まだ地面と足の裏との距離は五センチほどしかなかった。
――言われた通り、体の力を抜けば、どうなるんだろう?
別に飛びたいと思わなかった。単なる好奇心だ。
「……」
不思議だ。体の重さ、重力がまるでなくなったみたいだ。
そう思った刹那、下から吹く突風が、僕の重さが零になった体を上空に吹き飛ばした。
「あああああああ」
家が、学校が、街が!!
僕の体は、もうこの街を一望できるぐらい、高いところに来てしまう。
空を飛んでいる鳥ですら、もうこんな位置にいない。
しかし、眼下は絶景だった。
オレンジ色に染まった街はとても美しかった。
山坂高校の白い校舎は橙に染まり、ひしめき合う民家は皆、優しい色に包まれている。
あれは、東京タワーだ。そして、あれはスカイツリー。
都内のビル群がそびえ立っている姿も、雄々しくもあり、そして凜々しい。
東京湾、海までも見えてきた。
――凄い……。
僕は正直にそう思った。世界はこんなに綺麗なんだ……。
『キミ、何見とれてんのよ』
「……別にいいじゃないか。空を飛ぶ経験なんてできないよ」
『今から、山岡卓のバイト先まで先回りするよ』
「それってどこ? どこに行け……」
「「「「「うわぁぁあああああああああああ」」」」」
隼が急降下するがごとく、どこかにもの凄いスピードで飛んで行く。
僕は体をどうにか動かそうとするが、身じろぎすらできない。
まただ、また勝手に頭の中の声が僕を乗っ取った。
周りの景色が放射状に流れていく。
しかし、何も見えない。見えないし、僕が進めば進む程、空気が僕の体に強く打ち付ける。
――死ぬよ。やめて!
『何言ってるの、時速八十キロよ。バイク乗れたんだから余裕じゃない』
確かに恐怖が速さを増長させているかもしれない。
だからと言って、生身の体で、空を高速移動したら、誰がやったって怖いに決まってる。
すると止まった。
僕は瞑っていた目をゆっくりと開く。
――山?
そこは山だった。
確か、僕の街から少し離れたところにある、山。
杉などの高木が山肌を覆い尽くし、近くに渓流が流れていてマス釣りができる、自然豊かな場所だ。
そして、ここから少し離れたところには駅があり、また集落もある。
集落は木造で瓦葺きの民家が一軒一軒離れて立っている。その間を埋めるように決まって棚田があり、ここらでは自然と古き良き昭和の姿を楽しめる、ある種のリゾート地だ。
また、山の頂上近くには稲荷神社があり、観光目的で海外の人も訪れることもある、隠れた名スポットでもある。
確か、旅館が一軒あったはず……。まさかっっ!!
「ねえ、確か、山岡卓のバイト先があるって言ったよね?」
『ええ、そうよ』
「北斗で働いているのっっ!?」
『あったり!! キミ冴えてるね』
「馬鹿でも分かるさ。だってこの田舎、コンビニすらないんだもん」
『田舎に来なければあの子も働けなかったのさ。札付きの悪だから』
「……まあ近所ではまず働けないよね……。で何やってるの? 山岡卓」
『清掃だよ』
「清掃……」
想像もできなかった。あの力に物を言わせる山岡卓が人の下で働いて、それも汚れ仕事なんて。
『キミ、清掃は立派な仕事だよ。汚れなんて言ったら失礼。反省しなさい!』
「そんなこと口に出してないじゃないか?」
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