I SAVE ME (アイ セイブ ミー)

夏風涼

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CASE 山岡卓

第十五話 親友 suguru’s last episode

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 もうここには、僕と鬼となった山岡卓しかいない。

『流!! アメジストの宝石を握りしめながら、銃だと思って構えて!!』
 
 僕はすぐに言われた通りにする。
 紫色の宝石は僕が構えると、どんどん形を変えていく。
 リボルバーだ。
 紫色のリボルバーが僕の掌に収まった。

『撃って! 早く!!』
「馬鹿、そんなことしたら、山岡卓はどうなるの?」
『……』
「無言だということは、死ぬんだね?! 出来るわけないじゃないかッッ?!」
『馬鹿! やらなきゃ、あんたが死ぬのよ!!』
「……嫌だ! 初めてできた友達なんだ!! 殺せない、殺させない」
『後ろに飛べ!!』
 
 僕は声に反応して咄嗟に後ろに飛んだ。
 内臓が破裂しそうな激痛。
 なんだ?
 僕は屋上のフェンスに体を叩きつけられて、再び、口から血が噴き出した。
 しかし、人間だった頃の山岡卓と比べものにならないことが分かる。
 人外だ……。鬼だ……。
 ゲホゲホと、血を吐きながら、落ち着かせ、どうにか自分の状態を確かめる。 
 おそらく、内臓が破裂していない。後ろに飛んだのが功を奏した。
 だが……。

『撃って! 撃って! 早く! 来るよ!!』
 ――殺すしかないのかよっ!! クソクソクソォォ!!
 
 僕は諦念の気持ちを持って、涙を流しながら、トリガーに指をかける。
 そして、泣きながら、鬼に向けて……。

 ……。
『松尾……松尾……』
 
 そこは真っ白な世界、視界に映る物全てが真っ白だった。
 だが、誰かが僕を呼んでいるはずだ。
 僕は、声がする方に振り向いた。

『やっぱりお前だったんだな……』
 
 そこには山岡卓がいる。彼は柔らかい笑みを僕に向けている。
 切れ長な目は本当に女の子みたいで、美しく、とても優しい。
 そして頼もしさと逞しさも兼ね備えている。僕はずっと、一緒にいたいって思わされる。
 危なかしいけど……。それでもついて行きたいんと思ったんだ、キミに……。

『今まで、ごめんな。お前の気持ちが分らなくて滅茶苦茶して……』
「い、いいよ、確かに殺したくなるほど憎かったこともあるけど。こうやって友達になれたじゃないか?」
 
 しかし、それを聞くと、消え入りそうな儚い表情を山岡卓は僕に向けた。

『あんまり時間がないんだ。だがこれだけは言わせてくれ……』
「何言ってるんの?! これからもっと仲良くなるんでしょ?! またバイク乗せてよ!」

 僕はどんどん離れていく彼を掴もうと必死に手を伸ばした。
 だが、この手は何も掴んではくれなかった。

『俺も最後にお前と友達になれてよかったぜ……』

 
 
 屋上に銃声が鳴り響く。

「あ、ああああああああ……」
 
 僕は目から滝のような涙が流れ出る。今のは走馬灯というやつだろう。きっとそうだ。
 やっと友達になれたのに……。やっと分かり合えたのに……。

「ああああああああああ」
 
 僕は山岡卓だと思われる、鬼に駆け寄る。
 鬼は、弾が胸を貫通し、目を見開いたまま、口を大きく開け、動けなくなっている。
 
 ――息も心臓も動いてないっっ!!
 
 僕は必死だった。

「AED! AEDを持ってきて!!」
『馬鹿、そんなの無駄よ! 心臓が撃たれて、いや、違うスピリチャルモンスターなのよっっ』
「元人間だろうが!!」
 
 僕は無我夢中だった。
 彼が彼が目を覚まし、また笑ってくれるように、あの優しい目元で屈託のない笑顔を向けてくれるように。
 力が入らない両腕で、必死に心臓マッサージをする。

『いいから、やめなさい!』
 
 やがて、山岡卓の赤い体は、どんどん輝きだした。
 それはとても幻想的だった。ルビーのような、その美しい輝きは、まるで天使がここに舞い降りてきて、彼を蘇らせてくれると期待させる。

『違うわよ……残念ながら……』
「何を!!」
 
 しかし、その言葉は本当だった。
 光はどんどん空の空気と溶けていき、気づかない間に、山岡卓の身体は光そのものになっていたのだ。
 僕の両腕はただ、床を押しているに過ぎなかった。

「なんで……なんで……」
 
 だが、僕は重ねている両手に何か掴んでいることに気がつく。
 僕はハッとなって、それを良く見る。

「ルビー」
 
 彼のように、情熱的で、燃え上がるような勇気を見せてくれる、鮮烈な赤。

『そうよ。スピリチャルモンスターは死体は残らない、その代わり、宝石が残るの……』
「これが、遺体だっていうのか?! ふざけるな!!」
『仕方ない、この宝石を集めて、武器にするのが、私達の使命!!』
「ふざけるなぁあ!!」
 
 僕はこの屋上から、この世界に向かって吠えた。
 こんな不条理許される訳がない。こんな運命は許される訳がないのだ。
 僕は大粒の涙を流し、その場にへたりこんだ。

 
 やがて、人は集まってきて、訳を聞かれたが、僕は何も心身虚脱状態の僕は何も話さない。話せない。
 だから、医務室に行き、そして勝手に「もう大丈夫です」と言って、学校を出た。
 辺りはもう奇しくもまた、夜だった。
 この夕暮れ時から夜にかけて、僕たちは触れあってきた、関わってきた。
 だが、もう彼はいない。いない。いないんだ。
 僕はどこかの公園のブランコに座り、座っていないブランコに彼の面影を見つけようとした。

『あんた……』
 
 心中を察しているのか……。言葉に詰まっている。
 だが、僕は答えることにした。

「何?」
『続けられそう? この任務?』
「……やるよ……」
『どうして?』
「僕には他にやることがないんだ。この世界が僕に何か役割をくれるなら、僕はそれをしようと思うよ」
『そう……』
『じゃあ、切り替えなさい! 明日、本部にいくよ』
「ほ、ほんぶ?」
『私に会うの』
「キミの実体?」
『し、失礼な!!』
「……ごめん」
『まあ、今日はゆっくり休みなさい、また学校に忍び込むよ』
 
 僕はそれを聞くと、ゆっくりと立ち上がり、再び自分の足で歩き始める。
 そして、手の中の宝石、ルビーを見つめる。
 
 ――このルビーを握りしめる度にキミのことを思い出すことにするよ。キミと出会ったこと、僕は絶対に忘れない……。
 
 そう、心の中で誓いながら、地面を強く踏みしめた。
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