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CASE 中島加世子
第二十四話 動揺
しおりを挟む僕は彼女が寝ている病室の近くの長椅子で寝ていた。
看護婦さんの話だと、簡単な問診をしたら、もう帰っていいとのことだった。
朝、この病院を一緒に発とう。
その後は……。
どう進めたらいいか、分からない。
何しろ前回は、パートナーとともに、任務をしていたので、パートナーが色々、導いてくれていた。
だが、何故か、何も言ってこないし、目の前にも現れることもない。
理由が全く分からない。独り立ちしてもらわなければ、困ると言っていたが。
僕はアメジストの宝石や、ルビーの宝石を見つめた。
もうルービーの宝石の使い方も聞いている。しかし、これを使って、どうすれば良いのか?
組み合わせるということだろうが。もし、卓の、ルビーの宝石を使う時は……。
やはり彼女を殺る時だろう……。
目頭が熱くなってくる。僕一人で乗り越えられる気がしない。
だから、もう一度、あの眠たそうな眼を見せて欲しい……。
そんなことを考えていると、僕はなかなか寝られなかった。
しかし、寝ないといけないだろう。任務は押しつぶされそうな程、背負い込む物が大きい。
それは、常に精神をすり減らされる感覚に似ている。
僕はすすんで、この道を選んだ。だから、覚悟はできている。だが、どうしようもなく辛くなるのである。
自分に課せられた運命を僕は望み、そしてとても、恨んでしまう。
次の日の早朝、彼女、中島加世子の顔を見に行った。
何故か、昨日は眠る時間が短かった分、深く寝られたような気がする。
きっと、疲労も相当あったのだろう。
僕はベッドに側に行き、彼女を確認する。
しかし、まだ寝ているようだ。
――か、可愛い。
僕は何度この子に、この言葉に酔ってしまうのだろうか?
長い睫毛に縁取られた瞼は閉じられ、ぷっくと頬を膨らませて寝ている姿は赤ん坊のように見る者を幸せにする気持ちにさせられる。
ウーンといいながら、手足を動かして、寝返りを打つ。
その動きは思わず、守ってあげたい衝動に駆られる。
しかし、突然、ハッと彼女は目を見開いた。
そして、ずれた掛け布団をたぐり寄せて、警戒する仕草を見せた。
「な、何?」
「いや、おはよう」
「何した? なんかしたでしょ?」
何故、こんなにも男に対して不信感ばかり持つのだろう。
確かに男は性欲が強くて、女の人に酷いことをする人もいる。
だが、僕のように、いやそれは自意識過剰か、あのお医者さんのように誠実な人もいるのである。
あまりに偏った見方である。
「してないよ」
「してない……まあいいわ。なんで、まだいるの?」
「なんでって一緒に病院出るんじゃないの?」
「それは、あんたが、あたしの彼氏だったらって話でしょ?……まさか?!」
その続きは聞かなくて分かる。酷いことを言われる。
「まさか、あんた彼氏面?! 気持ち悪い、こっちに来ないで!」
「……問診が終わるまで、安心できないよ」
それを聞くと彼女は小賢しくも意地悪な笑みを向ける。
「ふふーん。あたしは何ともないよ。残念でした。大丈夫だから、帰れ! 童貞!」
彼女が早朝から、わめき散らすので、これは帰ってもいいのでは? と思うようになった。
これからは、パートナーに相談して決めようか? そう思って、僕は部屋を後にした。
後ろから、「帰れ! 帰れ!」と怒鳴り声が聞こえる。
とても、居心地が悪く、そして僕の心も深く傷ついた。
僕が一人で、病院を出ようと玄関の自動ドアの前に行こうとした時、ちょうど、誰かが入ってきて、受付に早足で向かって行った。
一見、顔立ちそのものは、壮年ではあるが、好感をもてそうな男前だった。
だが、すれ違う時に、一瞬見せた表情に僕の肌は粟立った。
――なんだ?
ただの勘違いならよかった。
だが、確実に見た。醜い笑みを……。
目尻と目頭がいやらしいほど、垂れ下がり、鼻の穴が大きく広がり、口の端が下品につり上がる。
おそらく、ここまで分かりやすく普段はしていないのだろう。だから一瞬だった。
しかし、それは男が絶対に抵抗できない人をいたぶる表情に近しいものがあるとが思った。
だが、イジメと決定的に違うのは、対象にするのは、暴力ではなく、性暴力であることだと、なんとなく気づく。
けれども、僕の想像が正しいとは限らない。自信が完全ではなく、まだまだ確信が持てなかった。
僕は自動ドアから出ず、近くのソファーに座る。
「中島加世子さんはどの部屋にいらしゃいますか?」
腰が低く、慇懃な態度と言葉。だが、このわざとらしさが、僕のアンテナに強烈に引っかかた。
――何かあるに違いない……。
彼女は焦燥を押し殺せず、大量の汗を流し、震えていた。
先生は結局、父に、父親に連絡したのだ。
何をしてくれたんだっ!! と僕は思わず立ち上がった。
いや先生に恨み言を言っても仕方が無い。
僕は彼女の父親らしき人が受付に何やら、面会の手続きをしている間に、足音を立てずに、スーと階段の近くに行き、全力で走った。
彼女が一体、何を怖れているか、聞いていないから正確には分からないが、虐待、性的暴行であることに、確信があったかもしれない。
とにかく、彼女に、中島加世子に伝えなければ……。
ハァハァハァと走ってきた息を整える。
さすがに彼女も再び戻ってきた僕に、罵詈雑言の続きはしなかった。
その代わり、目を見開き、驚いていた。
何かあったんだと、彼女の防衛本能が働いていたのかもしれない。
「どうしたの? 何かあった?」
「き、キミの父親が受付に来たんだ!」
彼女は大きく震え出した。その怖れ方は尋常ではない。
ただ、自分の体を何度も、何度も抱き。息は正常さなど、とうに忘れているようで、意識すらとうに、彼女になくなっているように思える。
まるで、彼女を構成する全てが恐怖によって、失わされてしまっている気がするのだ。
「大丈夫!!??」
僕は彼女の肩を大きく揺れ動かす。
しかし、彼女の焦点は判然としない。虚空の中で泳いでいるように思える。
そして、震えが一瞬一瞬でより大きくなっていく。
――仕方ない……。
僕は頬を手の平でぶった。
「ハッッ!!」
彼女はどうやら意識が戻った。
そして、気づいた。この子のお腹の子が一体であるかを。
「性的暴行を父親から受けていたんだね……」
彼女は岩石になった唾をゴクリと喉をならして飲む。
そして、追い打ちをかけるように、足音が聞こえてくる。
逃げなければ!!
「立てる?」
僕は、彼女に急いで立ち上がるように、促す。
だが、彼女は、首を横に振った。
「立てない……。足に力が入らない……」
彼女は蒼白の表情で、答える。
クソっ! もうどうにもならないのかっ!!
僕の頭の中で、思考が全速力で駆けずり回っているところに、彼女は小さく、僕に伝えた。
「……頼みがあるの……」
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