I SAVE ME (アイ セイブ ミー)

夏風涼

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CASE 中島加世子

第二十八話 告白

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 遊園地を出て、また電車で都心に向かう。
 僕の胸騒ぎが気のせいなのか? 加世子はいたって普通だった。
 僕からかい、笑い、笑顔を見せ、普段よりも楽しそうなくらいだ。
 考えすぎなのか? だが、この嫌な感覚はなんだ?
 僕はこの感覚は、前ほど鮮明ではないが、卓と一緒にいた時も感じていた。
 全く光がない、暗黒。そこに僕はずるずると、落ちていく。辛い、苦しい、生きたくない、そういった負の感情だけが渦巻く世界。……そこに僕はいた気がする。

「どうしたの? 流?」
 
 僕はハッとして、彼女の顔を確認する。
 普通だ。やはり僕の思い過ごしなのか……。

 
 電車を降りて、歩いて、目的地に向かう。
 都心は全然、分からないので、僕は彼女の後ろについて行った。
 辿り着いたのは、もの凄い高さのビルだった。
 
 地上五十階ぐらいだろうか?
 剝きだしの窓から、煌々と、眩しいぐらいの明るい光が僕の網膜に差し込む。 
 それが、大体、下の方から、途中まで、だいたい三十階ぐらいまで眩い輝きで辺りを照らし、このビルの輪郭を浮かび上がらせている。
 だが、はるか上空まで積み重なった光は途中で終わり、そこから上は闇が支配していた。
 どんよりと、なんとなくしか分からないが、下界の光におぼろげに照らされた、闇の中のさらに濃い闇が錐体状の何かとなって、天に向かってそびえ立っている。
  
 こんな高さのビルの屋上に行けば、どれだけ、東京の街を一望できるのだろうか?
 だが、加世子と美しい夜景を一緒に見れるというのに、僕の心は不安が生まれている。
 何か、得体の知れない恐怖が脳裏によぎって離れない。
 だが、僕は知っている、既に知っていたのかもしれない。
 しかし、何を……。僕は……。
 僕は彼女の顔を確認した。
 可愛かった。とても魅力的だ。
 けれども不思議と褒める気がしない。
 言い知れない、恐怖が、僕を襲い続けている。

「どうしたの?」
 
 彼女の不思議そうな面持ち。普通だ。何もおかしいことなんか、ある訳ない。ある訳ないのだ!!

「いくよ!」
 
 彼女は僕の手を握った。
 胸のドキドキが蘇る。
 胸のときめきを感じることで、自分が普通であることを再確認する。
 彼女の手の感覚は、柔らくて、優しくて、とても刺激的に感じた。
 だが、同時にそれは、自分のメンタルを保つための防衛反応であると、頭のどこかでは理解していた。
 
 エレベータに乗り、屋上を目指す。だが、ある程度の階まできたら、それ以上、上階にはいけないようだ。
 加世子は僕を引き連れて、階段まで連れていく。
 けれども、階段の入り口には〈立ち入り禁止〉の看板があった。

「いいの?……」
 
 僕は彼女の顔を確認する。
 しかし、彼女は笑顔で、

「あたし、しょっちゅうここに来ているの。バレてるけど、注意されたことない。行こ!」
「何しに?」
 
 僕は何故そんな言葉が出たのだろう? と自分でも不思議だった。

「夜景見るために決まってるじゃん! 今日は流にも、あたしだけの秘密の場所を教えたかったんだ」
「そっか……」
 
 それを聞いて、僕の気持ちは再び舞い上がる。
 彼女の秘密を知れたこと。嬉しい以外に何ものでもない。

「ありがとう」
 
 感謝の気持ちを、前面に表わした。

「うんん、どういたしまして」
 
 そう言って、僕たちは黙々と階段を上っていく。
 立ち入り禁止だけあって、ここから先は電気が部屋にも階段にも灯されてない。
 だから、加世子がスマホのライトを照らして、僕たちは進んだ。
 とうとう最上階に来た。
 僕はヘトヘトだ。しかし、加世子は、さすがにしょっちゅう来ているだけあって、息すら上がっていなかった。

「だらしないねぇー」
 
 息が上がってる僕に、間延びしたような声で言って、彼女は屋上に繋がるドアを開けた。
 ギーっと嫌な金属音が辺りに響き渡る。
 僕はゆっくりと屋上に足を踏み入れる。
 
 屋上は広かった。だいたい、学校の体育館、全面ぐらいある。大きな貯水槽が印象的で、どんより、闇に覆われたこの地に、異様なほど、黒い建造物が存在感を出している。
 しかし、周りは闇ではなかった。下界の東京の光に照らされて、輝きがビルの壁面を立ち昇ってきている。
 落下防止のフェンスが屋上の外側を一周している。だが、フェンスはあまり高くないようだ、近づいてみないとハッキリ分からないが、腰の高さまでしかない。
 僕は空を見上げる。
 空には、星が瞬いていた。夜空の中に、ビーズを散りばめたように、多種多様の輝きが僕の目に映る。しかし、二人きりで、しかもこんな綺麗なのに、素直に喜べない。
 
 すると、加世子はゆっくりと、歩みを進めて、フェンスの近くに行く。
 しかし、僕はその動きを不吉に感じてしまった。
 まるで、何か、魔物にとりつかれかのように、彼女の動きは自然でもあり、不自然だった。
 
 怖い……。
 僕は動きたくなかった。いや動くべきなのか?
 暑くもないのに、やけに冷えた汗が僕の顔をびしょびしょにする。

「どうしたの? 来なよ」
 
 その能面のような無表情に、僕は肝が冷やされる感覚に襲われる。

「うん」
 
 僕は足を無理矢理動かした。

「わあ」
 
 僕は思わず、驚嘆の声をあげた。
 ビルの明かり、信号機、車のライト、人の営みの生み出す光は、多種多様の色の輝きになって、眼下を埋め尽くしている。
 まるで、光に埋め尽くされた絨毯が、東京に敷き詰められているようだ。
 遠くを見ると、その輝きはどこまでも広がっていて、この世界の果てまでも、輝きは続いているように僕には見えた。

「綺麗だね……」
 
 あまりの美しさに僕は見とれてしまった。
 そして、加世子の顔を見る。
 彼女の顔は夜の光に照らされて、婉然としていた。
 美しいというだけでは言葉足らずだ。彼女の艶やかな瞳に様々な色彩の光が宿り、一層煌めきを放っている。
 そして、鼻や口のシルエットがよく映え、寒気がするほど、美しい。
 好きだ。僕は加世子が大好きだ。一生、キミに囚われて生きていってもいい。
 加世子は前髪を払って、僕に言った。

「あたしのこと好き?」
「うん」
 
 僕は照れずに答えた。答えられた。
 もう、気持ちを抑えられ無い。ここで告白する。

「加世子……。僕はキミのことが好きだ。恋人になってください」
「……」
 
 しかし、彼女は無表情になった。そして、微笑した。

「あたしも流のことが好きだよ」
 
 僕は思わず、目を見開いた。
 こんな幸せなことが、僕の人生にあっていいのか?
 相思相愛なんて、ドラマや小説だけの話だと思ってた。でも、僕はその幸せを手にしたのだ。
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