I SAVE ME (アイ セイブ ミー)

夏風涼

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CASE I SAVE ME.

第三十一話 接触

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 ずっと、ずっと、無音の中で生きていると思う。
 僕はビルの屋上で警備員に起こされ、色々質問されたと思う。
 だが、僕には何も聞こえていなかった。だから何も話さなかった。
 意識が判然としない状態で、僕はハンバーグレストランに行き、何も注文せずに、ただ、卓と加世子を見つめていた。
 だが、彼らは、何も僕に話しかけてくれない。僕に笑いかけてくれない。何ももたらしてくれない。
 彼らの身体はとても冷たく、そして一切動かない。
 ただ、美しい輝きだけ、僕にふりかける。僕が笑っても、僕が泣いても、僕が求めても。
 二人ともいない……。

                *

 やることはなかった。やれることもなかった。だが、僕はパートナーとの約束の場所に行こうと思った。
 逃げる、逃げないの問題ではない。
 でも、足は向かっている。
 使命なんて、かっこいい言葉でもないし。僕はむしろ惨めだ。
 だが、無になることが、悲しみよりも決して楽ではなかった。
 無であることで、この世界が黒に塗りつぶされ、じわじわと僕の存在が消えていく感覚。
 それは、暗闇の中を光を持たず、ずっと一人きりになることと同じだ。
 
 『死』だ。
 
 死を僕は嫌がる。とても怖い。
 だがら、生きることを、消極的な理由でいつも選択する。
 生きなければ、ということではない。死にたくないだけだ。死ねないのだ。
 だから、生きることが辛くても、なるべく向き合わないで生きる、なるべく辛くないようにただ生きる。
 無意味な生に執着する。
 辛い、苦しい、はずなのに……。
 だから、僕はただ、空っぽに生きているだけ。
 それでいいんだと思う。僕はそれだけの価値しかないんだから……。

 
 長いこと、公園のベンチに腰をかけていたと思うが、もう何時間経ったか、覚えていない。
 やがて、公園の電灯に明かりがつき、公園で遊んでいた幼児たちはパパやママに引き連れて帰っていく。
 ある家族のパパが僕を心配してくれた。

「キミ、高校生かい?」
「……」
 
 僕は話しかけられても、死んだように、ずっと虚空を見ている。

「何があった?」
 
 何があったか……。
 身体中に蝕む、苦痛と恐怖、そして喪失。
 しかし、何も言いたくはない、何も……。

「すいませーん」
 
 パートナーがやってきたようだ。

「キミ、時間通りに来てえらいねぇー」
 
 ……多分、眠たそうな顔をして来ているのかな?……。

「あなた、この子の保護者? それともお姉さん?」
「はい。すいません、そんなところです」
 
 しかし、横にいたママは溜息をついた。

「この子、昼間からずっとこんな調子なんです。心配で。心療内科とか行った方がいいかもしれませんね」
「はいはい。分かってますよ。PTSDって奴かもです」
 
 なんだ? PTSDって、要するに精神病ってことか?

「そうですか。後、頼みますよ、私達心配で」
「ありがとうございまーす」
 
 子供を連れて二人は去って言った。去り際に小さい女の子が、「お兄さん、どうしちゃったの? 大丈夫?」と女の子なりに心配してくれた。
 ちょっとだけ嬉しかった。

「はい、キミ、来たね。来たと言うことは任務をしてもらうよ」
 
 僕の目は焦点があっていない。
 リクルート姿で、なんとなく美人であることしか認識できない。

「しょうがいないなぁ~。大サービス。お姉さんが手を繋いであげる」
 
 なんだが手を繋いでいるというより、手錠をかけらえたみたいだ。
 何もかも能動的ではなく、受動的に僕は動いている。
 足を進めることも、道を曲がることも、息をすることも、生きることも。
 僕はもう、自分の意志で決められることなんて、無いのかもしれない。
 ただ、この暗闇の中でも、街灯の明かりが明るすぎると感じてしまう感覚はあったみたいだ。

 
 よく覚えていない。 
 ここはどこだ。僕の家の近所のコンビニか?……。
 電灯が、青い看板の白抜きの何かをなんとなく照らしている。
 おそらく、コンビニ名前を照らしていると思う。

「中に入るよ」
「ここは?……」
 
 僕はパートナーに手錠をつけられたまま、コンビニらしきところの中に入る。

「いらっしゃいませ」
 
 ちょっと聞き取れた、店員はどんな人だろう。
 若い女の子だ。二十歳前後だろう、美人だった気がする。
 だが、僕の目は対象を正確にとらえることは、もうできない。
 ただ、宝石だけ、僕は眺めることができる。それ以外は見なくてもいいのかもしれない。
 店内の明るすぎる光。
 頭の上の蛍光灯の光が僕の暗闇の中に、明るすぎるぐらい光を差し込ませる。

「ここで、キミは、万引きをしている人を追いかけて」
 
 万引き犯を捕まえるのか? それは警察の仕事ではないのか?
 まあ、加世子も犯罪、いや卓も犯罪を犯していた。
 また、誰かの正体を探って、殺すのか……。
 涙が出そうになる。
 
 加世子、卓……。加世子……。卓……。かよこ……すぐる……。
 
 目から溢れ出ていた。二人を思い出すだけで、涙が止まらない。 
 どうしようもなく辛い。辛い。
 なんで僕だけを残して……。なんで僕だけが辛い思いをしなければならないんだっっ!!

「キミ、先に行っとくけど、このターゲット、キミしかできないんだ」
 
 卓も加世子も僕しかできなかったんだろう?

「違うよ。それは最悪、私一人でも、どうにかなったかもしれない。でも今回はキミしかできない」
 ――……。
 
 何故? など考えることに意味などない。
 こんな状態で、まともに任務ができるならな……。

「……」
「さあ、来たよ」
 
 自動ドアの開く音がして、僕はおぼろげな眼でなんとなく、風貌をつかむ。
 細い。考えられない程、細い身体。
 季節外れの大きめの黒いパーカに、細すぎるスキニージーンズ……。
 おそらく男だ。身長は百七十センチ程度。
 彼は、しばらく、立ち読みで雑誌を読んでいるようだ。
 雑誌は、青年誌の漫画。
 だが、カラーのページを少し慎重に、めくっている。
 グラビア? 女の子の水着?……。
 何故?
 
 まあ、普通か、男だもんな。でも? ? ? ?
 なんで? なんで? どうして?
 
 まあ、でも今、普通に漫画を読み出した。普通か……。
 そして、彼は一度トイレに行き。小便をしているのが、水が弾かれる音で分かる。
 そして、トイレに出てきたばかりの彼は、レジの方を睨み、出て行こうとしてる。
 何かを取った。
 
 レジに行く? 訳ないよな? 何故か、これらの行動は全て読める。
 
 普通を装って、自動ドアの前に行き、店を出て行く。

「行くよ! 追いかけるよ!」
「ああ」
 
 僕はもう、それしか言う気力などない。
 また、厚かましくも卓や加世子のように注意するのか?
 僕もコンビニを出た。
 男は何故か走って逃げている。
 僕はコンビニの外の明かりに照らされて、ただ立っていた。
 走る? 追いかける? できっこないよ……。
 だが、パートナーがそれを許さない。
 リクルート姿の彼女は僕の腕を引っ張って、無理矢理走らせる。
 見えた。なんて、足の遅さだ。

「はいはい! ここから一人で!」
 
 パートナーは僕の背中を大きく押した。
 走らされたなら、走るしかない。止まることも難しい。
 だが、見失った。
 どこだ?
 ここは住宅街の十字路のようだ。
 どっちに……。
 だが突然、目が何も見なくなった。
 後頭部に強烈な痛みを覚え、僕は一瞬で、意識を失ってしまう。
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