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悪い子 ※
しおりを挟む――脱ぎなさい。
薄暗い部屋の中に響いた冷たい声。
リザは耳を疑った。
「ぬ……脱ぐ、って……何を」
聞き返したリザの声が掠れる。
闇のなかから小さな笑い声が聞こえた。
「服に決まっているだろう。そのメイド服をすべて脱げと言っているんだ」
「……それは、あの……こ、困ります!」
何を言っているんだ、この人は!?
もしかして、からかわれてる?
ヨハネスの考えがわからなくて、リザは困惑する。
ただ、リザの知るかぎり、ヨハネスはこういう冗談を言うタイプの人ではなかったはずだ。
――ということは、本気で言っているということ……?
「君は自分の立場がわかっていないようだな」
戸惑いを隠せないリザに、ヨハネスが淡々と言い放った。
「私はこの家の主人、そして君はこの家の使用人だ。主人の命に背くというのか?」
ヨハネスの琥珀色の瞳が光った気がした。
狼みたいなその瞳を、リザは初めて「怖い」と思った。
「君を屋敷から放り出してもいいんだぞ? 行く当てはあるのか。世間知らずで何もできない元貴族のお嬢様を雇ってくれるところなんて、娼館ぐらいしかないだろうな」
ヨハネスが鼻で嗤う。
「……っ!」
リザは俯いて唇を噛みしめた。
彼の言うとおり、ほかに行く当てなんてない。
父親が投資に失敗して多額の借金を背負い、領地を没収され、貴族の称号も剥奪された。そのうえ、親よりも年嵩の商人のもとへ数いる妻の一人として嫁がされそうになったリザを救い出してくれたのがヨハネスなのだ。
感謝している……とても。言葉では言い表せないぐらいの恩があった。
彼に命じられれば何でもする。何だって、したい。
――三年前、リザはそう覚悟して、この屋敷に来たのだ。
「……わかりました」
リザは意を決して襟元のボタンに手をかけた。
緊張で指が震える。
すぐ近くでヨハネスの息づかいを感じた。
彼に見られていると思うと、身体が火照ってしょうがない。
ただボタンを外すだけなのに、いつもの何倍もの時間がかかってしまう。
ようやく全てのボタンを外し終えると、袖から腕を抜いて、ワンピース型の黒い制服を床に落とした。バサッという衣擦れの音が静かな室内にやたら大きく響く。
「…………脱ぎました」
リザは制服の下に身につけていた薄地の白いシミーズ一枚になった。春の夜はまだ少し肌寒くて、剥き出しの腕と太ももに鳥肌が立つ。
「ダメだ。全部脱ぎなさい」
「全部……!?」
「そうだ」
容赦のない命令に、リザは唇を噛んだ。
ヨハネス様……いったい、何を考えているの?
今夜のヨハネスはリザが子供の頃から慕っていた彼とは全然違う。……まったく別の男の人だった。
「早くしなさい」
ヨハネスの冷酷な指示に、リザが肩を震わせた。
断るなんてできない。
リザは黄金色の長い髪を胸の前に下ろし、できるだけ身体を隠しながら、シミーズを脱ぎ、そして最後に残っていた下着も足から抜いた。
冷たい空気が裸の胸を撫でる。
身を隠すものが一切ないというのは、こんなにも心細いものなのか。
リザは自分の身を庇うように、両腕で自分の身体を抱きこんだ。
「……脱ぎました」
身体が燃えるように熱い。
ヨハネスのせいだ。ヨハネスの射抜くような視線がリザの裸身に注がれているせいで、リザの身体はどうしようもなく熱くなってしまうのだ。
リザはぎゅっと目を瞑って、この羞恥と屈辱の時間に耐えようとした。
ゴクリ、と息を呑むような音がして、ヨハネスが立ち上がる気配を感じる。
ヨハネスの手が伸びてきてリザの髪に触れた。そのまま胸を隠していた髪を持ち上げると、肩をまたいで背中のほうに下ろしてしまう。わずかな抵抗が取り払われて、リザの乳房がヨハネスの眼前に晒された。そこに注がれているであろう視線を感じて、リザの身体はますます熱を帯びる。
「ぁ……」
ヨハネスの人差し指がリザの胸に触れた。
いや、触れるか触れないか、ぐらいの微妙な距離で、乳輪をなぞるように、人差し指の先をクルクルと動かしている。
その焦れったい指の動きに、なぜか脚の奥がムズムズして、リザは自分でも無意識のうちに太ももを擦り合わせていた。
「どうした? 固くなってきたぞ」
「あ……っ」
いつのまにかぷっくりと膨れあがっていた乳首を指の先で弾かれて、リザは思わず腰を引いた。胸の先端からピリピリとむず痒い感覚が広がっていく。
なに、いまの……!?
生まれて初めての感覚に狼狽えたリザが反射的に後ずさると、ヨハネスがすかさず彼女の腰に手をまわし、ぐいっと自分の元へと引き寄せた。ヨハネスの凍り付いたような琥珀色の瞳がリザの顔をまじまじと覗きこむ。
「や、やだ……っ」
リザが思わず目をそらしてヨハネスから距離を取ろうとしたが、あっという間に両腕を拘束されてしまう。身をよじって逃れようとしても、強く掴まれているせいで、身動きがとれない。
「……いつのまに、こんなイヤらしい身体になったんだ?」
忌々しげに呟くと、ヨハネスはリザの胸を強く掴んだ。肌理の細かな白い柔肉にヨハネスの指が食い込む。まるでパンの種でも捏ねるみたいにむにゅむにゅと揉みしだかれて、リザの息も荒くなってくる。
「んっ……ヨ、ヨハネスさま……どうして、」
どうして、こんなことを……。
これが……お仕置き?
主人が使用人に手を付けるなんてよくあることかもしれないけれど、まさか、ヨハネス様まで……?
「……リザが悪い」
「え?」
「ほかの男に触らせるから」
そう言うと、ヨハネスは床に膝をついて身をかがめた。長身の彼がそうすると、ちょうどリザの胸の位置に彼の顔がくる。
「あっ……!」
ヨハネスの長い舌がベロリ、と胸の谷間を舐めあげた。リザのすべすべとした胸元を唾液で汚しながら、ヨハネスが上目遣いにリザの目を見つめる。
「……っ」
主人の視線に耐えられなくて、リザはまた目を閉じた。
ヨハネスの蹂躙は止まらない。
彼の唇がパクパクとリザの柔肉を食むように動くたびに、リザの身体がビクビクと跳ねる。
「はぁ、は、あぁ……っ、ん」
悶えるように首を振ると、リザの長い髪がバサリと空中に広がった。
「あ、んっ……!」
ヨハネスの舌が充血しきったリザの乳首をグリグリと刺激した。尖りきった蕾を舌先で転がされるたびに、リザの口からあられもない声が漏れる。
「……敏感だな」
口元を拭いながらヨハネスが呟く。
リザは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆った。
「だって、身体が勝手に……」
リザが泣きそうになりながら反論すると、
「……心配だ。こんなに無防備だと」
ヨハネスが独りごちて眉間に皺を寄せる。
「あっ……」
リザの腰を支えていたはずのヨハネスの手が移動して、今度はリザのお尻を撫でまわしていた。表面をなぞるように優しく触れられたり、指が食い込むくらい強く揉み込まれたり……。強弱をつけたその触り方は絶妙で、昼間、ミゲルに触れられたときよりもっと、もっと――リザの身体の奥のほうが疼きだした。
「もう一度聞く。昼間、ミゲルと何をしていた?」
「……何も、してません」
リザは蚊の鳴くような声で答えて、目を伏せた。
「本当か? こうやって今と同じことをされていたように見えたけどな」
「……ん、ふぅ」
「どうだ? 気持ちいいか?」
「……あ、んぅ……っ」
答える代わりに熱い吐息が溢れた。
同じじゃない。
ミゲルよりもずっと丁寧に……執拗に……揉み込まれて、気持ち良くないわけがなかった。
それでも素直に頷くのははしたない気がしてリザが黙っていると、
「ミゲルのほうがいいのか?」
ヨハネスが暗い声で問いかけてくる。
胸元で囁かれて、リザの心がザラザラとざわつく。
「いえ、あの……。ヨハネス様のほうが……気持ち、いい……です」
恥ずかしい……!
思い切って口にしてしまってから自分の発言の大胆さに気づいて、リザは愕然とした。
いやらしい女だと思われたかもしれない。
ヨハネスが今どんな顔をしているのか……確認するのが怖かった。
「リザ。君は本当に……悪い子だ」
悪い子……。
ヨハネスの一言に、リザの心が沈む。
「きゃ……!」
ヨハネスが立ち上がって、リザを抱きかかえた。軽々と横抱きしたまま、迷うことなく部屋の奥へと進んでいく。寝台のうえに横たえられて、リザは自分がこの人を怒らせてしまったことを悟った。
リザももう十八歳だ。
この状況が何を意味しているかはわかっている。
仰向けに寝かされたリザのうえに、ヨハネスの大きな身体がのしかかってきた。首筋に噛みつくようなキスをされて首筋がチクリと痛む。
「あ、ん……ぁ、はァ……あ、ん、ぅあ」
横たわっても量感を保ったままの胸にしゃぶりつかれて、声が出ずにはいられなかった。その媚びるような甘い声が自分のものとはとても思えなくて、リザは一瞬、誰か別の人の夢に迷い込んでしまったのではないかと思った。
だけど、この甘い痛みと快感は現実だった。
ついさっきまでヨハネスに弄られてすっかり敏感になった先端をこりこりと扱かれて、痺れるような快感がリザの体内を駆け抜けていく。
止めてほしいのに……もっとしてほしい。
相反する感情に苛まれて、自分でもどうしたらいいのか、リザにはもうわからなかった。
さんざん胸に赤い痕を散らしてから、ヨハネスはリザの身体をひっくり返した。うつ伏せにされたリザの背中に、ヨハネスがゆっくりと唇を這わせる。さっきまで胸に与えられていた刺激に比べると、優しすぎるくらい優しい愛撫。
――もっと強く触れてほしい。
自分でも制御できない願望のせいで、リザの腰がもの欲しげに揺れてしまう。
「リザ……いつのまに、こんなに悪い女になったんだ? 男の前でこんな風に尻を振るなんて。……絶対に私以外の前でするなよ」
「あっ……!?」
リザの太ももの間に何かが差し挟まれた。
熱くて固い何か。
「んっ、ア……ぁあ、ン、は、ぁ…………んぁ」
ヨハネスの動きに合わせて、リザの身体が揺れた。
主人の息が乱れていた。
リザは何が何やらわからないまま、ただただ腰を振り続けた。
やがてお尻に生温かい感触を放たれて、ヨハネスの動きが止まる。
「…………リザ」
ヨハネスがリザの髪の毛を一房掬い上げて口づけた。髪の毛には神経が通っていないはずなのに、ヨハネスに触れられた髪の一本一本が、ふつふつと泡立つように感じていた。
寒かったはずなのに、いつのまにか全身の肌がしっとりと汗ばんでいる。
リザはしばらくシーツに顔を伏せたまま、動けなかった。
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