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ピカピカに磨かれた手摺を前に、リザは満足そうに頷いた。
今日はヒューバッハ家の玄関を入ってすぐ目に入る大階段の掃除を任されていた。細かな装飾が施された手摺と天鵞絨の紅い絨毯が敷かれたこの階段は屋敷の「顔」である。リザは磨き残しのないように気合いを入れて隅から隅まで雑巾をかけてまわったのだった。
「あとはこれを片付ければ終わり、と……」
額に滲んだ汗を手の甲で拭うと、水の入った桶を抱えて立ち上がった。階段を降りかけたところで、
「おつかれ、リザ。持ってってやるよ。裏の水場でいいんだよな?」
通りがかったミゲルに声を掛けられた。リザが重たそうに運んでいた桶をミゲルがヒョイと持ち上げる。
「ありがとう。でも大丈夫」
「ついでだから気にするな」
「あ、ちょっと……!」
ミゲルは優しいけれど、少し強引だ。今までのリザなら、その強引な優しさに甘えていたところだけれど……。
リザはキョロキョロと周りを見渡した。
ミゲルが手伝ってくれるのはもちろん助かる。だけど、ミゲルと話しているところをあの人に見られでもしたら――。
「あの、本当に大丈夫だから。それに、これは私の仕事だし」
リザが慌てて桶を取り返そうとすると、ミゲルが目尻を下げてリザを見つめた。
「偉いな、リザは。ちゃんと自分の仕事をやり遂げようとするもんな」
穏やかな笑みを浮かべながら、よしよし、とリザの頭を撫でてくる。
「な……!」
もちろん褒められて悪い気はしない。リザは自分の頬が熱を持つのを感じた。少し赤くなっているかもしれない。
リザにとって、その「働きぶり」を認められることは、たとえば容姿を褒められるよりも、よっぽど嬉しくて誇らしいことだった。
思い返せば、この屋敷に来たばかりの頃は誰も認めてくれないどころか、まるで「腫れ物」扱いで、使用人の皆がひどくよそよそしかったものだ。「元貴族のお嬢様」なんて気位ばかりが高くて扱いにくいに違いない……と、敬遠されていたのだと思う。
たしかに最初は何もできなかった。
何度も呆れられながら、それでもめげずに教えを乞い、健気に働くリザのことを同僚たちが認めてくれはじめたのは割と最近のことである。
「お帰りなさいませ! 旦那様」
階下で他の使用人たちの声がした。
「あ」
リザがヒューバッハ家に入ってからの苦難の歳月を思い返している間に、あの人が帰ってきてしまったらしい。
リザが玄関を目をやると、そこにはこの家の主人、ヨハネスの姿があった。軽く睨みつけるように目をすがめて階上のリザたちを見上げている。その視線の冷ややかさに、リザは小さく戦慄した。
「お帰りなさいませ、旦那様」
階下の使用人たちから少し遅れて、ミゲルもヨハネスに向かって深々と一礼してみせた。彼の動作に合わせて、リザもあわてて頭を下げる。
出迎えた使用人たちを軽く見渡してから、ヨハネスはまっすぐに階段へと足を向けた。
彼の私室は二階にあるため、帰宅してすぐに階段へと向かうのは不自然ではない。
決してリザの元へ来ようとしているわけではない……はずだが、リザは俄かに緊張して身体をこわばらせた。
リザが掃除したばかりの階段をゆっくりと上がってくるヨハネスの顔にはどんな感情も読み取れない。
「リザ、端へ避けて。旦那様がお通りになるから」
ミゲルに小声で促されて、リザは急いで階段の端へと移動した。ミゲルも反対側に身を寄せている。
二人の間をヨハネスが通過していく。
リザは礼をしながら、主人が去るのを待った。
見られてしまった。ミゲルと一緒にいるところを……!
リザがミゲルと話していると、旦那様はなぜか機嫌が悪くなるのだ。ミゲルと一緒にいるところを見られた日には、必ず部屋に呼ばれる。
そして――…………。
その先を思い出そうとして、リザは思考を停止した。これ以上は心臓に悪い。
あぁ、はやく通り過ぎてほしい……!
心の中で必死に祈ったにも関わらず、なぜかリザの前でヨハネスが足を止めた。その瞬間、リザの頭に何かが触れる。
なに?
頭の表面に感じた温かな感触。
リザが顔を上げられないでいると、その感触はすぐに離れていった。
二階の奥へと消えていくヨハネスの後ろ姿を見送って、リザはほっと胸をなでおろす。
「リザ、いま……」
ミゲルが駆け寄ってきて何かを言いかけたが、
「そうだ! 早くこれを片付けないと」
リザは必要以上に声を張り上げて、ミゲルの言葉を遮った。
不審そうに首を捻るミゲルに背を向けると、リザは水の入った桶を抱えて階段に足をかけた。
*****
「……や、ぁ……はぁ、んぅ」
「ミゲルと何を話していた?」
「んっ……なにも、大したことは……話してませ、ん……。あ、ぁ……ん、っ」
ヨハネスが耳元で囁いた。彼の吐息が直接耳の穴に吹き込まれて、リザは思わず身をよじる。
リザの予想どおり、案の定、今夜もヨハネスから呼び出しを受けた。
主人の寝室を訪れてからもう小一時間も愛撫されつづけている。
寝台の上でヨハネスの脚の間に後ろ向きに座らされたリザはされるがままだ。もちろん、何も身につけていない。
背を向けた体勢のため、真正面から顔を合わせなくて済むのはありがたいが、背後から伸ばされた手が好き勝手にリザの身体を撫でまわすものだから、彼女の股間はすっかり濡れそぼっていた。
「本当か? 嬉しそうに笑いかけていたじゃないか」
リザの首筋に顔を埋めたまま、ヨハネスは怒ったようにリザの乳首をきゅっと摘んだ。
「あぁ……っ」
さんざん焦らされて、ようやく与えられた強い刺激にリザが喉を反らすと、ヨハネスはすかさずその白い顎を捉えた。薄く開かれた唇を目がけて、彼の顔が近づいてくる。
「ん……っ!」
半開きの唇をバクリと咥え込まれて、リザは呻いた。強引にねじ込まれた舌が、奥に引っ込んでいたリザの舌を引きずりだす。激しく口づけられながら胸の先も弄られて、リザの頭に靄がかかる。
「あれほど注意しろと言っているのに。また簡単に触らせて……」
ヨハネスがリザの頭をワシワシと乱暴にかき混ぜた。
「あ……」
せっかく梳いた髪が、ぐちゃぐちゃになっちゃう……。
朦朧とする頭の片隅で、リザはそんなことを思う。
いまの触り方はヨハネスらしくなかった。
リザの性感を身体の奥底から有無を言わさず呼び起こそうとするような官能的な触り方ではなく、癇癪を起こした子供がするような荒っぽい触り方だった。
あの夜――初めて主人の前で裸身を曝け出して以来、リザは何度かヨハネスの寝室へと呼び出されていた。しかもそれは決まってミゲルと親しくしている場面を見られた日なのである。
リザの気のせいかとも思ったが、ヨハネス自身の口からミゲルの名が出るのだから間違いない。
「ぁ……」
胸を覆っていた手がゆっくりと下がっていき、臍のくぼみをひと撫でしてから薄い茂みの奥へと伸びてくる。
「どうしてこんなに濡れているんだ?」
ぬぷり、とヨハネスの長い指がリザの胎内に侵入した。すでに湿っていたそこは、なんの抵抗もなく、むしろ進んで招き入れるかのように、主人の骨張った指を呑み込んだ。
「ミゲルのことでも考えていたのか?」
「っん、そんなこと……!」
そんなこと、あるわけないのに。
どうしてこんなに……って、そんなの、ヨハネス様のせいに決まってるのに。
リザが恨めしげにヨハネスを睨めると、またも強引に唇を奪われた。
クチュクチュクチュ……。
淫靡な水音が上からも下からも止めどなく漏れ聞こえてきて、リザの目に羞恥の涙が滲む。
「ぁ……」
ふいにヨハネスの唇が離れた。同時に指も抜かれる。
「……え」
責苦から解放されたはずなのに、なぜか無性に切なくて、リザは思わず縋りつくような目でヨハネスを見上げてしまった。その目を見たヨハネスがニタリと嬉しそうに笑う。
リザが「しまった……!」と思ったときには遅くて。
「あ、あ、ぁ……や、そこ、だめ……っ」
ぷっくりと膨らんだ肉芽にリザ自身から溢れ出た蜜を塗りこめてグリグリと押しつぶしてくる。ヨハネスの触れた一点からムズムズとした快感が全身へ広がっていく。
自分の身体の一部にこれほど敏感な部位があったことを、リザはヨハネスの指によって初めて暴かれたのだった。
どうして、ヨハネス様はこんなことを……?
単なる気まぐれ? ただの暇つぶし?
二十五歳。独身。人並み以上の容姿に、「侯爵」という身分。
わざわざ没落貴族の使用人になんて手を付けなくても、女なんて掃いて捨てるほど寄ってくるに違いないのに。
それなのに、なぜ使用人の自分になんて手を出すのか。
貴族だった頃ならいざ知らず……今のリザには何もないというのに。
「なにを考えている?」
ヨハネスがまた耳元で囁いた。
秘所に添えられた指が動きつづけているせいで、主人の質問に答えるリザの声が震えてしまう。
「あっ、ん、あ……貴方の……ヨハネス様の、こと、を……」
媚びたわけでも何でもなくて、リザは素直に頭の中に浮かんだひとの名を口にした。
背後でヨハネスが息を呑む気配がする。
ヨハネスがリザの身体の向きを変えた。向かい合わせになって彼の太ももに跨がされる。
すぐ側にヨハネスの顔があった。彼の目を直視するのが怖くて、リザは下を向いた。すると、ヨハネスが前をはだけて自身の昂ぶりを取り出す様子が目に入ってしまい、あわてて目を閉じた。
それを目にするのは初めてではないが、やっぱりまだ慣れない。
「あぁ……っ」
ヨハネスがそり立った肉棒をリザの股間に擦りつけるように突き上げた。突き上げられるたびに、彼の剛直が敏感な芽を掠めていく。リザ自身の愛液が潤滑油となってヌルヌルと擦られる感触がたまらない。より深い快感を求めてリザの腰も勝手に揺れてしまう。
「気持ちいいか?」
「あ、っん……ぁ、あ、気持ち、いい……です……ん、っ」
そう、ヨハネスとの行為は気持ちいいのだ。
これのどこがお仕置き?
たしかに目の前で服を脱ぐことを強要されたときは屈辱だった。だけど、いまは……。
「あ、あ、ぁ、んっ……もっと、もっと…………奥まで……っ」
「それはダメだ」
熱に浮かされたようなリザの戯言に、ヨハネスが腰の動きを止めた。
火の付いた身体が、不完全燃焼のまま、取り残される。それはヨハネスだって同じだろうに、彼は決してリザの中に入ってこようとはしない。
「これが欲しいか?」
そう問いかけられても、リザは黙り込むしかなかった。
まだ男を知らないリザには、実のところ、よくわからない。ただ、お腹の奥がヒクヒクと疼いて、どうしようもなく切ないのだ。
「そんな顔をするな。……まったく、いつのまにこんな……」
ヨハネスが眉を下げて苦笑する。呆れたようなその物言いに、リザは泣きそうになった。
そんな顔?
一体どんな顔をしているというのだろう。
「……ヨハネス様こそ……どうして、こんな…………んっ」
頭の中にあった疑問をぶつけてしまおうと口を開いたものの、最後まで言い切る前に口を塞がれる。子供をあやすみたいな軽い口づけを何度か繰り返してから、ヨハネスはリザの唇を解放した。
「もう少し待ってくれ」
「……え? 待つ、って……?」
首を傾げるリザにそれ以上口を開かせまいとするように、ヨハネスは彼女の頭を抱え込んで自分の胸元へと押し付けた。汗で湿った髪を持ち上げて項を露わにすると、リザの白い肌に吸いつく。
「ん……っ」
刻み込むように与えられた微かな痛み。これ以上の質問は許さない、という意志を感じとったリザはその夜も主人にされるがまま口を噤むしかなかった。
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