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碧い目
碧い目②
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「お前、楠ノ瀬の娘を抱いただろう?」
思ってもみなかった祖父さんからの率直な質問に、
「えっ……な、なん……え……!?」
俺はわかりやすく狼狽えた。
しどろもどろになる俺を無表情に一瞥して、祖父さんが続ける。
「正確には、お前が『抱かれた』といったほうが合ってるだろうけどな……楠ノ瀬の娘に」
――どうしてそんなことまで知ってるんだ?
俺は楠ノ瀬と過ごした「あの夜」を……祖父さんが全て知っているらしいことを察した。
「あれは、儂が楠ノ瀬に頼んだんだ。……お前を助けてやってほしい、と」
「は?」
――頼む? 助ける?
「どういうことだ? あの夜、楠ノ瀬が俺のところに来たのは……祖父さんが頼んだってこと……なのか?」
祖父さんが俺の顔をしばらくじっと見つめた後で、小さく頷いた。
「そうだ」
――意味がわからなかった。
あれほど『楠ノ瀬の娘には近づくな』と、散々言ってきたのは他ならぬ祖父さんだろう!?
「あの日……お前は生まれて初めて『神様』に魅入られた。当然制御できるわけもなく、そのまま喰われそうになった」
「喰われる……!?」
神様ってハイエナか何かなのか……!?
「まあ喰われるといっても、別に肉体をバリバリ噛み砕かれるわけではない」
なかなか物騒なことを、祖父さんは顔色一つ変えずに淡々と語る。
「じゃ、じゃあ……どうなるんだ?」
「思考を奪われる。理性が働かなくなる。今ここにいる『高遠理森』というお前の自我が消える」
――それって、とんでもないことじゃないのか!?
「ただし神様を味方に付けることができれば、これ以上ない後ろ盾となる。現に高遠家はその御加護を受けて代々栄えてきたのだから」
そう言うと祖父さんは神様に感謝の意を伝えるように目を瞑って手を合わせた。
「味方にする……って、どうすればいいんだ?」
瞑目する祖父さんがゆっくりと目を開いて俺を見つめた。
「お前……やる気があるのか?」
「やる気も何も……やるしかないんだろ?」
「神様を味方にするということは、そのまま『高遠の家を継ぐ』ということだ」
祖父さんの厳しい視線が俺の目をまっすぐに捉える。
「大丈夫、それはずっと考えてた。俺、長男だし」
俺が頷きながら言うと、それを聞いた祖父さんの顔がわずかに綻ぶ。
「……そうか、それは心強いな。どのみち、もう逃げられないしな」
「えっ!?」
今さらっと祖父さんが恐ろしいことを言った気がする。
「名前を知られてしまっただろう?」
「名前?」
「そうだ。昨日、神様に聞かれただろう?」
「神様って……あれ、祖父さんが惚けてたんじゃないのか?」
「そんなわけないだろう。さすがに自分が名付けた孫の名前を忘れるほど耄碌はしとらんぞ」
祖父さんが機嫌を損ねたように眉間に皺を寄せた。
「お前はそのうち神様に『呼ばれる』だろう。そうなれば、もう逃れる手段はない。喰われる前に神を制御下に置けなければ……お前の自我は損なわれる」
「じゃあ、どうすればいいんだよ……。高遠家を継いで、それから?」
祖父さんは浮かない顔でちらっと俺に目線をくれる。
「まぁ平たく言えば……免疫療法みたいなもんだ」
「免疫療法……?」
「ああ。少しずつ慣らしていって……神様に『憑かれる』時間を延ばしていく方法だ」
「少しずつ、って言っても……慣れる前に喰われるんじゃ……?」
俺の質問には答えずに、祖父さんが踵を返し、て来た道を戻り始める。
「ちょっ……祖父さん、まだ話が」
俺があわてて呼び止めようとすると、
「楠ノ瀬家へ行く。お前を救けるためには、あの家の力が必要だからな」
振り向いた祖父さんはそれだけ言うと、俺の反応も確認しないで飄々と歩き始めた。
思ってもみなかった祖父さんからの率直な質問に、
「えっ……な、なん……え……!?」
俺はわかりやすく狼狽えた。
しどろもどろになる俺を無表情に一瞥して、祖父さんが続ける。
「正確には、お前が『抱かれた』といったほうが合ってるだろうけどな……楠ノ瀬の娘に」
――どうしてそんなことまで知ってるんだ?
俺は楠ノ瀬と過ごした「あの夜」を……祖父さんが全て知っているらしいことを察した。
「あれは、儂が楠ノ瀬に頼んだんだ。……お前を助けてやってほしい、と」
「は?」
――頼む? 助ける?
「どういうことだ? あの夜、楠ノ瀬が俺のところに来たのは……祖父さんが頼んだってこと……なのか?」
祖父さんが俺の顔をしばらくじっと見つめた後で、小さく頷いた。
「そうだ」
――意味がわからなかった。
あれほど『楠ノ瀬の娘には近づくな』と、散々言ってきたのは他ならぬ祖父さんだろう!?
「あの日……お前は生まれて初めて『神様』に魅入られた。当然制御できるわけもなく、そのまま喰われそうになった」
「喰われる……!?」
神様ってハイエナか何かなのか……!?
「まあ喰われるといっても、別に肉体をバリバリ噛み砕かれるわけではない」
なかなか物騒なことを、祖父さんは顔色一つ変えずに淡々と語る。
「じゃ、じゃあ……どうなるんだ?」
「思考を奪われる。理性が働かなくなる。今ここにいる『高遠理森』というお前の自我が消える」
――それって、とんでもないことじゃないのか!?
「ただし神様を味方に付けることができれば、これ以上ない後ろ盾となる。現に高遠家はその御加護を受けて代々栄えてきたのだから」
そう言うと祖父さんは神様に感謝の意を伝えるように目を瞑って手を合わせた。
「味方にする……って、どうすればいいんだ?」
瞑目する祖父さんがゆっくりと目を開いて俺を見つめた。
「お前……やる気があるのか?」
「やる気も何も……やるしかないんだろ?」
「神様を味方にするということは、そのまま『高遠の家を継ぐ』ということだ」
祖父さんの厳しい視線が俺の目をまっすぐに捉える。
「大丈夫、それはずっと考えてた。俺、長男だし」
俺が頷きながら言うと、それを聞いた祖父さんの顔がわずかに綻ぶ。
「……そうか、それは心強いな。どのみち、もう逃げられないしな」
「えっ!?」
今さらっと祖父さんが恐ろしいことを言った気がする。
「名前を知られてしまっただろう?」
「名前?」
「そうだ。昨日、神様に聞かれただろう?」
「神様って……あれ、祖父さんが惚けてたんじゃないのか?」
「そんなわけないだろう。さすがに自分が名付けた孫の名前を忘れるほど耄碌はしとらんぞ」
祖父さんが機嫌を損ねたように眉間に皺を寄せた。
「お前はそのうち神様に『呼ばれる』だろう。そうなれば、もう逃れる手段はない。喰われる前に神を制御下に置けなければ……お前の自我は損なわれる」
「じゃあ、どうすればいいんだよ……。高遠家を継いで、それから?」
祖父さんは浮かない顔でちらっと俺に目線をくれる。
「まぁ平たく言えば……免疫療法みたいなもんだ」
「免疫療法……?」
「ああ。少しずつ慣らしていって……神様に『憑かれる』時間を延ばしていく方法だ」
「少しずつ、って言っても……慣れる前に喰われるんじゃ……?」
俺の質問には答えずに、祖父さんが踵を返し、て来た道を戻り始める。
「ちょっ……祖父さん、まだ話が」
俺があわてて呼び止めようとすると、
「楠ノ瀬家へ行く。お前を救けるためには、あの家の力が必要だからな」
振り向いた祖父さんはそれだけ言うと、俺の反応も確認しないで飄々と歩き始めた。
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