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秘事
秘事①
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「あの時……初めて力が発現したの」
静かに告げた楠ノ瀬の顔を、俺はあの時と同じようにまじまじと見つめた。
「でも俺……なんであんなすごい体験を忘れてたんだろう……?」
首をひねって呟いた俺に、
「おじいさんが操作したんじゃない? 高遠くんの」
楠ノ瀬がこともなげに言った。
「祖父さんが!? そんなことできるのか?」
「私も高遠家の力にはそんなに詳しくないけど……高遠の当主なら、それくらい簡単なんじゃないかな」
俺は祖父さんの厳しい顔を思い浮かべた。
楠ノ瀬と遊んでいたことが発覚した後、俺は三日ほど家の端っこにある蔵に閉じ込められ……ご飯もろくに食べさせてもらえず……泣いて過ごしたのだ。
俺の弁明など、まったく聞いてもらえなかった。
「あの後、俺にも送迎がついて。一緒に遊ぶこともなくなったもんな」
「うん……」
俺たちは遠い日を偲ぶようにしばらく黙り込んだ。
足元に散らかっていた落ち葉が風に吹かれてカサカサと小さな音を立てる。
「……そういえば、その力って、ケガ以外にも効くのか? たとえば、癌とか……」
ふと思いついた俺が楠ノ瀬に尋ねると、
「うーん、私はまだまだだけど。修練すれば、そういう治療も可能だって言われてる」
楠ノ瀬が苦笑いを浮かべながら、控えめに答えた。
「すげぇな」
楠ノ瀬の力の可能性に感嘆の声を上げると、
「……そんなにいいものじゃないよ」
下を向いた彼女が低い声で言った。
「清乃!」
「あ……」
名前を呼ばれた楠ノ瀬がバツの悪そうな顔をして、声のした方を振り返る。
俺も視線を上げて確認すると……怖い顔をしたあやちゃんが腕を組んで立っていた。
俺たちを……主に俺を……睨んでいる。
「どこ行ったのかと思ったら……行くわよ。もう迎えも来るから」
「ちょっと話してただけだよ」
あやちゃんの威圧的な言葉にむっとした俺が抗議すると、彼女は俺を無視して顔を背けた。
「ごめんね、高遠くん。……ばいばい」
楠ノ瀬が小さく手を振って、あやちゃんの元へと駆け寄る。
俺は彼女の動きに合わせて揺れる長い髪を見つめていた。
「……今日は直之くんのお客様がいらっしゃるんだから、遅れるわけにはいかないでしょ」
自分の隣へとやって来た楠ノ瀬に向かって、あやちゃんが責めるように言った。
その言葉に、楠ノ瀬が暗い顔で目を伏せる。
――直之の客?
漏れ聞こえた二人の会話に俺の胸がざわつく。
直之というのは、あの楠ノ瀬の婚約者のことだよな?
徳堂直之の嫌味な顔がちらつく。
あいつの客が来るということは、もちろん徳堂本人も来るんだよな……。
今夜、楠ノ瀬はあの男と過ごすのだろうか……。
それともあいつは、あやちゃんを犯すのだろうか……。
俺はあの男に蹂躙される楠ノ瀬とあやちゃんの姿を想像した。
「だあぁぁぁぁっっ……くそぉっ…………!」
やりきれなさに腹が立って、思わず自分の髪の毛を掻き毟った。
静かに告げた楠ノ瀬の顔を、俺はあの時と同じようにまじまじと見つめた。
「でも俺……なんであんなすごい体験を忘れてたんだろう……?」
首をひねって呟いた俺に、
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楠ノ瀬がこともなげに言った。
「祖父さんが!? そんなことできるのか?」
「私も高遠家の力にはそんなに詳しくないけど……高遠の当主なら、それくらい簡単なんじゃないかな」
俺は祖父さんの厳しい顔を思い浮かべた。
楠ノ瀬と遊んでいたことが発覚した後、俺は三日ほど家の端っこにある蔵に閉じ込められ……ご飯もろくに食べさせてもらえず……泣いて過ごしたのだ。
俺の弁明など、まったく聞いてもらえなかった。
「あの後、俺にも送迎がついて。一緒に遊ぶこともなくなったもんな」
「うん……」
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「……そういえば、その力って、ケガ以外にも効くのか? たとえば、癌とか……」
ふと思いついた俺が楠ノ瀬に尋ねると、
「うーん、私はまだまだだけど。修練すれば、そういう治療も可能だって言われてる」
楠ノ瀬が苦笑いを浮かべながら、控えめに答えた。
「すげぇな」
楠ノ瀬の力の可能性に感嘆の声を上げると、
「……そんなにいいものじゃないよ」
下を向いた彼女が低い声で言った。
「清乃!」
「あ……」
名前を呼ばれた楠ノ瀬がバツの悪そうな顔をして、声のした方を振り返る。
俺も視線を上げて確認すると……怖い顔をしたあやちゃんが腕を組んで立っていた。
俺たちを……主に俺を……睨んでいる。
「どこ行ったのかと思ったら……行くわよ。もう迎えも来るから」
「ちょっと話してただけだよ」
あやちゃんの威圧的な言葉にむっとした俺が抗議すると、彼女は俺を無視して顔を背けた。
「ごめんね、高遠くん。……ばいばい」
楠ノ瀬が小さく手を振って、あやちゃんの元へと駆け寄る。
俺は彼女の動きに合わせて揺れる長い髪を見つめていた。
「……今日は直之くんのお客様がいらっしゃるんだから、遅れるわけにはいかないでしょ」
自分の隣へとやって来た楠ノ瀬に向かって、あやちゃんが責めるように言った。
その言葉に、楠ノ瀬が暗い顔で目を伏せる。
――直之の客?
漏れ聞こえた二人の会話に俺の胸がざわつく。
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今夜、楠ノ瀬はあの男と過ごすのだろうか……。
それともあいつは、あやちゃんを犯すのだろうか……。
俺はあの男に蹂躙される楠ノ瀬とあやちゃんの姿を想像した。
「だあぁぁぁぁっっ……くそぉっ…………!」
やりきれなさに腹が立って、思わず自分の髪の毛を掻き毟った。
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