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噂
噂④
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午後の授業は全く耳に入らなかった。
周りの目が気になって仕方ない。
仁科のように直接確かめてくる人間はいなかったが、それでも何人かからの好奇な視線を感じた。
俺でさえそんな感じなんだから、楠ノ瀬はどんな目で見られているのか……。
あの画像では顔が半分しか映っていなかったとはいえ、彼女の白くて柔らかな胸の谷間がはっきり確認できるのだから。
――くそっ……!
俺は授業が終わると一目散に家へと向かった。
電車に乗っている間も気が急いて急いて、貧乏ゆすりが止まらなかったぐらいだ。
やっと自宅へ辿り着くと、庭の植栽を手入れする白髪頭が見えた。
「シゲさん!」
俺は間髪入れず、その人物に声を掛けた。
「やぁ、おかえりなさい。今日は早いですねぇ」
シゲさんこと繁松さんはうちで一番古くからいる使用人だ。
オールバックに撫でつけた髪は真っ白だが、小柄で筋肉質そうな体躯はきびきびと若々しい。ここ十年ほど見た目が全く変わっていないので実年齢はよくわからないが、うちの祖父さんとそう変わらないはずである。
俺も子供の頃は、厳めしく近寄りにくい実の祖父よりも、このシゲさんのことを「じぃじぃ」と呼んで懐いていた。信頼できる使用人の長である。
「シゲさん、最近うちに入った若い使用人がいるだろう?」
俺は挨拶もそこそこに本題に入った。
「若い使用人……はて?」
シゲさんが首をかしげた。
「たぶん俺とそう変わらないぐらいの歳で、人当たりの良さそうな、でも笑顔の胡散臭いヤツだよ……!」
「人当たりが良いのに、胡散臭い……?」
俺の矛盾した説明に困惑したらしいシゲさんが口の中でぶつぶつと俺の言葉を繰り返した。
しばらく眉間に皺を寄せながらぶつぶつと考え込んでいたシゲさんが、
「あぁ……もしかして、あの方のことか……」
思いついたように呟いた。
「あの方、って……?」
シゲさんの呟きを聞き逃さなかった俺が尋ねると、
「理森さん、あの方は使用人ではないですよ。あの方は……」
説明しかけたシゲさんが、途中で言葉を止めて黙り込んだ。
「どうしたんだ、シゲさん? あいつは何なんだよ……!?」
業を煮やした俺の声が、無意識のうちに荒くなってしまう。
「大旦那様や旦那様は、あの方について、なんと仰っていましたか?」
シゲさんが真面目な顔で言った。
シゲさんの言う「大旦那様」とは俺の祖父さんのことで、「旦那様」は父さんのことを指す。
――なんで、祖父さんと父さんが出てくるんだ……?
「別に、祖父さんと父さんは何も言ってないけど……。っていうか、あいつのことについて話したこともないし」
「では、私の口から申し上げるわけにはいきません」
シゲさんは重々しい声でそう告げると、固く口を閉じた。
「はぁ!? なんでだよ……何なんだよ、あいつは……」
その後、俺がいくら聞いてもシゲさんが教えてくれることはなかった。
こういった場合、高遠家……特に祖父さんに対して忠誠心の強いシゲさんは、もう俺がいくら頼んだところで、口を割ることは絶対にない。
――訳がわからなかった。
どうして一使用人の情報を知るのに、祖父さんと父さんの許可がいるのか?
あの男はただの使用人じゃないということなのか……!?
俺はあの男の小動物のような人懐っこい笑顔と、その裏に感じ取った得体の知れない薄気味悪さを思い出して……大きく体を震わせた。
周りの目が気になって仕方ない。
仁科のように直接確かめてくる人間はいなかったが、それでも何人かからの好奇な視線を感じた。
俺でさえそんな感じなんだから、楠ノ瀬はどんな目で見られているのか……。
あの画像では顔が半分しか映っていなかったとはいえ、彼女の白くて柔らかな胸の谷間がはっきり確認できるのだから。
――くそっ……!
俺は授業が終わると一目散に家へと向かった。
電車に乗っている間も気が急いて急いて、貧乏ゆすりが止まらなかったぐらいだ。
やっと自宅へ辿り着くと、庭の植栽を手入れする白髪頭が見えた。
「シゲさん!」
俺は間髪入れず、その人物に声を掛けた。
「やぁ、おかえりなさい。今日は早いですねぇ」
シゲさんこと繁松さんはうちで一番古くからいる使用人だ。
オールバックに撫でつけた髪は真っ白だが、小柄で筋肉質そうな体躯はきびきびと若々しい。ここ十年ほど見た目が全く変わっていないので実年齢はよくわからないが、うちの祖父さんとそう変わらないはずである。
俺も子供の頃は、厳めしく近寄りにくい実の祖父よりも、このシゲさんのことを「じぃじぃ」と呼んで懐いていた。信頼できる使用人の長である。
「シゲさん、最近うちに入った若い使用人がいるだろう?」
俺は挨拶もそこそこに本題に入った。
「若い使用人……はて?」
シゲさんが首をかしげた。
「たぶん俺とそう変わらないぐらいの歳で、人当たりの良さそうな、でも笑顔の胡散臭いヤツだよ……!」
「人当たりが良いのに、胡散臭い……?」
俺の矛盾した説明に困惑したらしいシゲさんが口の中でぶつぶつと俺の言葉を繰り返した。
しばらく眉間に皺を寄せながらぶつぶつと考え込んでいたシゲさんが、
「あぁ……もしかして、あの方のことか……」
思いついたように呟いた。
「あの方、って……?」
シゲさんの呟きを聞き逃さなかった俺が尋ねると、
「理森さん、あの方は使用人ではないですよ。あの方は……」
説明しかけたシゲさんが、途中で言葉を止めて黙り込んだ。
「どうしたんだ、シゲさん? あいつは何なんだよ……!?」
業を煮やした俺の声が、無意識のうちに荒くなってしまう。
「大旦那様や旦那様は、あの方について、なんと仰っていましたか?」
シゲさんが真面目な顔で言った。
シゲさんの言う「大旦那様」とは俺の祖父さんのことで、「旦那様」は父さんのことを指す。
――なんで、祖父さんと父さんが出てくるんだ……?
「別に、祖父さんと父さんは何も言ってないけど……。っていうか、あいつのことについて話したこともないし」
「では、私の口から申し上げるわけにはいきません」
シゲさんは重々しい声でそう告げると、固く口を閉じた。
「はぁ!? なんでだよ……何なんだよ、あいつは……」
その後、俺がいくら聞いてもシゲさんが教えてくれることはなかった。
こういった場合、高遠家……特に祖父さんに対して忠誠心の強いシゲさんは、もう俺がいくら頼んだところで、口を割ることは絶対にない。
――訳がわからなかった。
どうして一使用人の情報を知るのに、祖父さんと父さんの許可がいるのか?
あの男はただの使用人じゃないということなのか……!?
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