禁じられた逢瀬

スケキヨ

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 あやちゃんの必死の形相に気圧けおされて、俺は彼女の言う通り、応答ボタンを押した。

「……もしもし、」

 知らない相手からの電話は緊張する。案の定、俺の声はみっともなく掠れてしまった。

『あ……理森よしもりくん? よかったぁ。ちゃんと出てくれて』

 返ってきたのは、やけに明るく、馴れ馴れしい男の声だった。

 ――馴れ馴れしい?

 この声と喋り方、そして……そこから受ける印象……。

 俺はゴクリと唾を飲み込んで、電話越しの相手に問いかけた。

「……あんたは、誰なんだ?」

 俺がずっと気になっていたあの男。

 人懐っこい小動物みたいに笑うくせに、どこか胡散臭い……あの男に違いなかった。

『誰って……名前を言えばいいのかな? 藍原あいはら朔夜さくや、といいます』

 ――アイハラ、サクヤ。

 男がいま口にした名前を頭の中で反芻してみた……が、思い当たるふしはまるでなかった。

「なぁ、藍原朔夜、って男……知ってる?」

 俺は小声であやちゃんに確認した。
 彼女は少し考えてから、静かに首を横に振った。

 あやちゃんに心当たりがないということは、楠ノ瀬くすのせの件とは無関係なのか?

「あの……藍原さんはなんで俺の番号を知ってるんですか?」

 藍原の立場がわからない俺は、慎重に話を続ける。

『ん? 大したことじゃないよ。君に近い人……まぁ僕にとっても近いんだけどね……その人から教えてもらったんだ』

 俺に近い人で、こいつにとっても近い……?
 
 ――誰だ?

 もったいぶった藍原の喋り方に苛立ちが募っていく。

「……最近、たまに俺ん家に出没してますよね? なんで勝手にうちに出入りしてるんですか?」

 俺が内心の苛立ちを抑えながら尋ねると、藍原は電話口で、ぶはっ、と盛大に噴き出した。

『アハハ……「出没」って、熊じゃないんだから……!』

 何がそんなに可笑おかしいのか、藍原はひとしきりヒーヒーと笑ってから、

『……あと、高遠たかとおさん家にはちゃんと許可取ってお邪魔してるから。「勝手に」侵入してるわけじゃないんだよぉ~』

 俺の質問に答えているようで答えていない……人を食ったような台詞が返ってきた。

 ――何なんだよ、一体……!

 スマホを握りながら思わず顔をしかめる俺に、

「なんか知らないけど、関係ないヤツなら、さっさと切っちゃえば?」

 隣で聞き耳を立てていたあやちゃんが囁いた。

「そうだな……。すいません、今ちょっと忙しいので、特に用がないんだったら、これで失礼します」

 一応、丁寧に言い逃げして通話を切ろうとすると――

『あぁ~、待って待って! 最後に一つ教えてほしいことがあるんだけど、』

 藍原が慌てたように言葉を続けた。

「……何ですか?」

 早く電話を切り上げたい俺が不機嫌丸出しの声で聞き返すと、

『理森くんって、誕生日いつ?』

 なんの脈絡もない、暢気のんきな質問が返ってきた。


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