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父子
父子①
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「どんな奴だった!?」
運転手さんが車を回してくるのを待つ間、あやちゃんが楠ノ瀬に犯人のことを問いただした。
「どんなって……普通の男の人だよ。私たちと同じくらいの年頃の」
楠ノ瀬は記憶を辿るように上を見やりながら、ぽつぽつと語った。
「ちょっとタレ目で小動物っぽい感じじゃなかったか?」
「小動物……?」
俺の藍原評に、楠ノ瀬は首を大きく傾げて考え込んだ。
「言われてみれば、そんな感じ……かも?」
楠ノ瀬は答えてから、ふっ、と緊張が解けたように薄く笑った。
「あいつの顔、見たんだよな?」
俺が聞くと、
「うん。最初は縛られてただけで、目隠しとガムテープはされてなかったから」
楠ノ瀬は囚われていた時の状況について説明した。
「あのガシャーンって音は? 清乃がやったの?」
あやちゃんの質問に、楠ノ瀬がこくり、と頷く。
「あれは私がなんとか暴れて、近くの棚から落としたんだけど……ちゃんと二人に届いてよかった。場所も気付いてくれて」
楠ノ瀬が俺を見つめて、ほっとしたような笑みを浮かべた。
「……っていうか、気付いたの、私だから。高遠くんじゃなくて」
あやちゃんが不服そうに唇を尖らせてぼそっと呟く。
「そうだった! あやちゃんのおかげで助かったよ」
俺が大袈裟に礼を言うと、
「はいはい。わざとらしいフォローはいいから」
軽くいなして、再び楠ノ瀬へと向き直った。
「それで? 私たちが準備室に着いた時にはもう犯人いなかったけど……」
「あの人もシンバルの音に驚いて……高遠くんたちに場所がバレた、って慌て出したの。それで私に『余計なことするな』って言って、目隠しとガムテープを貼り付けて、そのまま出て行ったみたい」
その時のことを思い出したのか、楠ノ瀬は自分で自分を抱きしめて、ぶるっと体を震わせた。
「その後すぐに、ガチャガチャって音がして、誰かが入ってきた気配がしたんだけど……たぶん、それが梢江先生だったみたいで、ガムテープと目隠しを外してくれたんだ」
「先生がタイミングよく来てくれて、よかったよな。まぁそれが逆に面倒でもあったけど……。ありがとな、大事にしないでくれて」
俺は機転を利かせて事態を収めてくれた楠ノ瀬に感謝した。
「え、ううん」
少し照れたように、楠ノ瀬が髪を揺らして首を振った。
――また、助けてもらったな。
楠ノ瀬にも、あやちゃんにも。
俺はいつも助けてもらってばかりだ。
「あの男……あんたのお兄さんなの?」
俺に鋭い視線を向けながら、あやちゃんが率直に尋ねてくる。
「……わからない。少なくとも俺は今まで一度も聞いたことがなかったから。ただ、俺の父親に愛人がいるのは確かで……だから、あいつの言うことは本当かも、しれない」
俺はあやちゃんの視線を避けるように下を向いて、力なく口にした。
彼女たちの目にはきっと、頼りないヤツだと思われているんだろうな……。
「気になったんだけど、」
控えめに発した楠瀬の言葉を聞き漏らさないように、俺もあやちゃんも彼女の方を向いた。あやちゃんの刺すような視線が自分から外れたことに安堵する。
「あの藍原って人、うちの生徒じゃないよね? 同じ学年だって言ってたけど、見たことないし。どうやって音楽準備室の鍵を手に入れたんだろう……?」
「鍵?」
「うん……あの人が出て行く時、鍵をかける音がしたような気がして。目隠しされてたから、私の気のせいかもしれないけど」
たしかに校内に忍び込むだけなら、うちの生徒のフリでもすれば何とかなりそうだけど。
各教室の鍵は職員室に保管されていて、先生の許可がないと勝手に持ち出すなんて出来なかったはずだ。
そもそも音楽準備室は四階の端っこにある。
この学校の生徒であっても、俺みたいに音楽の授業を取っていなければ、ほとんど立ち入ることもない。どこにあるかも忘れていたぐらいだ。
「この学校内で、誰かあいつに協力している人がいる……ってこと?」
あやちゃんが眉をひそめて呟いた。
運転手さんが車を回してくるのを待つ間、あやちゃんが楠ノ瀬に犯人のことを問いただした。
「どんなって……普通の男の人だよ。私たちと同じくらいの年頃の」
楠ノ瀬は記憶を辿るように上を見やりながら、ぽつぽつと語った。
「ちょっとタレ目で小動物っぽい感じじゃなかったか?」
「小動物……?」
俺の藍原評に、楠ノ瀬は首を大きく傾げて考え込んだ。
「言われてみれば、そんな感じ……かも?」
楠ノ瀬は答えてから、ふっ、と緊張が解けたように薄く笑った。
「あいつの顔、見たんだよな?」
俺が聞くと、
「うん。最初は縛られてただけで、目隠しとガムテープはされてなかったから」
楠ノ瀬は囚われていた時の状況について説明した。
「あのガシャーンって音は? 清乃がやったの?」
あやちゃんの質問に、楠ノ瀬がこくり、と頷く。
「あれは私がなんとか暴れて、近くの棚から落としたんだけど……ちゃんと二人に届いてよかった。場所も気付いてくれて」
楠ノ瀬が俺を見つめて、ほっとしたような笑みを浮かべた。
「……っていうか、気付いたの、私だから。高遠くんじゃなくて」
あやちゃんが不服そうに唇を尖らせてぼそっと呟く。
「そうだった! あやちゃんのおかげで助かったよ」
俺が大袈裟に礼を言うと、
「はいはい。わざとらしいフォローはいいから」
軽くいなして、再び楠ノ瀬へと向き直った。
「それで? 私たちが準備室に着いた時にはもう犯人いなかったけど……」
「あの人もシンバルの音に驚いて……高遠くんたちに場所がバレた、って慌て出したの。それで私に『余計なことするな』って言って、目隠しとガムテープを貼り付けて、そのまま出て行ったみたい」
その時のことを思い出したのか、楠ノ瀬は自分で自分を抱きしめて、ぶるっと体を震わせた。
「その後すぐに、ガチャガチャって音がして、誰かが入ってきた気配がしたんだけど……たぶん、それが梢江先生だったみたいで、ガムテープと目隠しを外してくれたんだ」
「先生がタイミングよく来てくれて、よかったよな。まぁそれが逆に面倒でもあったけど……。ありがとな、大事にしないでくれて」
俺は機転を利かせて事態を収めてくれた楠ノ瀬に感謝した。
「え、ううん」
少し照れたように、楠ノ瀬が髪を揺らして首を振った。
――また、助けてもらったな。
楠ノ瀬にも、あやちゃんにも。
俺はいつも助けてもらってばかりだ。
「あの男……あんたのお兄さんなの?」
俺に鋭い視線を向けながら、あやちゃんが率直に尋ねてくる。
「……わからない。少なくとも俺は今まで一度も聞いたことがなかったから。ただ、俺の父親に愛人がいるのは確かで……だから、あいつの言うことは本当かも、しれない」
俺はあやちゃんの視線を避けるように下を向いて、力なく口にした。
彼女たちの目にはきっと、頼りないヤツだと思われているんだろうな……。
「気になったんだけど、」
控えめに発した楠瀬の言葉を聞き漏らさないように、俺もあやちゃんも彼女の方を向いた。あやちゃんの刺すような視線が自分から外れたことに安堵する。
「あの藍原って人、うちの生徒じゃないよね? 同じ学年だって言ってたけど、見たことないし。どうやって音楽準備室の鍵を手に入れたんだろう……?」
「鍵?」
「うん……あの人が出て行く時、鍵をかける音がしたような気がして。目隠しされてたから、私の気のせいかもしれないけど」
たしかに校内に忍び込むだけなら、うちの生徒のフリでもすれば何とかなりそうだけど。
各教室の鍵は職員室に保管されていて、先生の許可がないと勝手に持ち出すなんて出来なかったはずだ。
そもそも音楽準備室は四階の端っこにある。
この学校の生徒であっても、俺みたいに音楽の授業を取っていなければ、ほとんど立ち入ることもない。どこにあるかも忘れていたぐらいだ。
「この学校内で、誰かあいつに協力している人がいる……ってこと?」
あやちゃんが眉をひそめて呟いた。
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