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父子
父子②
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楠ノ瀬たちと別れて家に帰ってからも、あやちゃんの言っていたことが気になっていた。
――藍原朔夜の協力者?
そんなの……あの人しか思い浮かばない。
――父さん。
俺の父親であり、あいつの父親でもある……らしい。
今回の一件が藍原の独断なのか、それとも……。
父さんも知っているのだろうか?
もしかして、父さんがやらせたのか?
俺じゃなくて……あいつに跡を継がせようとしているのか?
「なんで……」
生まれてから今まで――十七年間ずっと、自分は一人っ子だと思って生きてきた。
当然のように高遠家を継ぐものだと思っていたし、跡継ぎとしての期待も愛情も全て自分ひとりに注がれていると思っていた。
だけど――
父さんにとっては、そうじゃなかったんだな。
自分よりもあの人から期待をかけられ、愛情を注がれている人間がいるということに……俺は、小さな子供みたいにショックを受けていた。
*****
「シゲさん」
翌日。
朝から庭の掃除をしているシゲさんのぴしっと伸びた背中に呼びかけた。
足下には赤や黄色に染まった落ち葉がこんもりと山を作っている。
「おはようございます、理森さん。今日は早いですね」
眩しいものを見るように目を細めながら応えたシゲさんは今日も元気そうだ。
「あいつのこと、聞いた」
「あいつ?」
「藍原朔夜のことだよ」
「あぁ」と合点したように小さく呻いたシゲさんが顔を曇らせた。
「……そうですか。旦那さまからお聞きに?」
シゲさんは周囲に人目がないことを確認しながら声を潜めた。
「違う、あいつが自分で名乗った」
「そうですか……」
竹箒を胸に抱えたまま、シゲさんは遠くを見やった。
「父さんと顔を合わせて話がしたいんだ。父さんが次いつ帰って来るか……教えてほしい」
自分で思っていたよりも固い声になってしまった。
切羽詰まったような俺の様子に、シゲさんがわずかに目を見開いた。
かすかに吹いた風が、シゲさんの足下に溜まった落ち葉の山を少しだけ崩した。
「来週の土曜日なら、」
「え?」
「お忘れですか? その日は『観月祭』です。旦那様もさすがにお戻りになるでしょう」
「あ……」
『観月祭』とは十一月の満月の夜に行われる町の神事だ。
神様に「秋の豊穣の御礼をする祭」だと子供の頃に教わった。
満月を拝みながら、神を饗する歌舞を捧げるのだ。
祭を取り仕切るのは楠ノ瀬家だが、高遠家も重要な役割を担っている。
神に捧げる演舞だ。
昔から家に受け継がれてきた仮面と衣装を付けて、高遠の当主が舞を披露する。
ここ数十年は、毎年うちの祖父さんがその役を務めてきた。
ただし、祖父さんの舞姿を俺は直接見たことがない。
それは一般の町民は立ち入れない「聖域」で行われるからだ。
聖域の場所は一部の限られた人間にしか教えてはいけない、と聞いていたが……。
今ならわかる。
――楠神社の奥に鎮座する、あの碧い鳥居。
――甘い香気を放ちながら、夜空に浮かぶ月と星の光を反射して煌々と輝く……あの泉。
俺は……極楽のように美しい……あの日の光景を思い出した。
――藍原朔夜の協力者?
そんなの……あの人しか思い浮かばない。
――父さん。
俺の父親であり、あいつの父親でもある……らしい。
今回の一件が藍原の独断なのか、それとも……。
父さんも知っているのだろうか?
もしかして、父さんがやらせたのか?
俺じゃなくて……あいつに跡を継がせようとしているのか?
「なんで……」
生まれてから今まで――十七年間ずっと、自分は一人っ子だと思って生きてきた。
当然のように高遠家を継ぐものだと思っていたし、跡継ぎとしての期待も愛情も全て自分ひとりに注がれていると思っていた。
だけど――
父さんにとっては、そうじゃなかったんだな。
自分よりもあの人から期待をかけられ、愛情を注がれている人間がいるということに……俺は、小さな子供みたいにショックを受けていた。
*****
「シゲさん」
翌日。
朝から庭の掃除をしているシゲさんのぴしっと伸びた背中に呼びかけた。
足下には赤や黄色に染まった落ち葉がこんもりと山を作っている。
「おはようございます、理森さん。今日は早いですね」
眩しいものを見るように目を細めながら応えたシゲさんは今日も元気そうだ。
「あいつのこと、聞いた」
「あいつ?」
「藍原朔夜のことだよ」
「あぁ」と合点したように小さく呻いたシゲさんが顔を曇らせた。
「……そうですか。旦那さまからお聞きに?」
シゲさんは周囲に人目がないことを確認しながら声を潜めた。
「違う、あいつが自分で名乗った」
「そうですか……」
竹箒を胸に抱えたまま、シゲさんは遠くを見やった。
「父さんと顔を合わせて話がしたいんだ。父さんが次いつ帰って来るか……教えてほしい」
自分で思っていたよりも固い声になってしまった。
切羽詰まったような俺の様子に、シゲさんがわずかに目を見開いた。
かすかに吹いた風が、シゲさんの足下に溜まった落ち葉の山を少しだけ崩した。
「来週の土曜日なら、」
「え?」
「お忘れですか? その日は『観月祭』です。旦那様もさすがにお戻りになるでしょう」
「あ……」
『観月祭』とは十一月の満月の夜に行われる町の神事だ。
神様に「秋の豊穣の御礼をする祭」だと子供の頃に教わった。
満月を拝みながら、神を饗する歌舞を捧げるのだ。
祭を取り仕切るのは楠ノ瀬家だが、高遠家も重要な役割を担っている。
神に捧げる演舞だ。
昔から家に受け継がれてきた仮面と衣装を付けて、高遠の当主が舞を披露する。
ここ数十年は、毎年うちの祖父さんがその役を務めてきた。
ただし、祖父さんの舞姿を俺は直接見たことがない。
それは一般の町民は立ち入れない「聖域」で行われるからだ。
聖域の場所は一部の限られた人間にしか教えてはいけない、と聞いていたが……。
今ならわかる。
――楠神社の奥に鎮座する、あの碧い鳥居。
――甘い香気を放ちながら、夜空に浮かぶ月と星の光を反射して煌々と輝く……あの泉。
俺は……極楽のように美しい……あの日の光景を思い出した。
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