71 / 100
開眼
開眼①
しおりを挟む
「朔夜……!? どうした? 大丈夫か!?」
藍原の異変に気付いた父さんが顔色を変えて彼のそばへと駆け寄った。
苦しそうに呻く藍原の背中に手を添える。
「まさか……、どうしてこの少年が……!?」
尋常じゃない藍原の様子を見た楠ノ瀬の婆さんが、困惑したように声を揺らす。
「……高遠くんのときと……同じ……」
楠ノ瀬も呆然としたように小さく声を漏らした。
「俺のときと……同じ、って……?」
――どういうことだ?
楠ノ瀬の呟きを耳にした俺が聞き返すと、
「高遠くんが、初めて『開眼』したときと、同じような苦しみかた……してる」
「え……?」
どういうことだ……!?
混乱した俺は、祖父さんの姿を探した。
祖父さんは少し離れたところで、肩をぶるぶると震わせて藍原のことを食い入るように見つめていた。重い瞼に覆われた目を驚愕したように見開いている。
「高遠、どうするのだ? この少年が誰かは知らないが……このままにはしておけないだろう」
楠ノ瀬の婆さんが、言葉を忘れたように立ち尽くす祖父さんのことを上目遣いに見据えた。
婆さんに詰め寄られた祖父さんは続けざまに数度瞬きをすると、もの言いたげに父さんの顔を見つめた。
祖父さんの視線に気付いた父さんが祖父さんを見つめ返した。
普段はあまり感情を表に出さない父さんが、縋りつくような目で祖父さんを見つめていた。
父さんの表情を確認した後、祖父さんはちらり、と俺に目をくれた。
どんな顔をしていいかわからない俺は、やるせなく目を泳がせることしかできない。
祖父さんは……俺や父さんの視線を振り払うかのように……頭を軽く振ると、婆さんに向き直った。
「……すまんが、助けてやってくれないか?」
再び頭を下げた祖父さんを、楠ノ瀬の婆さんが鋭い眼差しで凝視している。
「…………わかった」
束の間の沈思の後、婆さんがしっかりとした声で告げた。
婆さんの応答を聞いた祖父さんが、無言でもう一度頭を垂れた。
「まず私の力でできる限り鎮めてみよう。その後で、楠ノ瀬の家まで運ぶ」
一座を見渡した婆さんはそう言って藍原朔夜の元へと近づいた。
「ぅわあぁぁあ……っ、あああぁぁ……」
藍原は尚も声にならない呻き声を上げ続けている。
婆さんは足下の草地に膝をつくと、藍原の傍らで何事かを唱え始めた。それは楠ノ瀬が「治療」の前に唱えるものとよく似ている気がしたが、それよりずっと長かった。婆さんは藍原の耳元で一心に唱い続けた。
きつく閉じられた藍原の両目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。
この涙はきっと……自分を繋ぎとめるための精一杯の「抵抗」なのだと思う。自分の意思とは関係なく流れ続けるのだ。
藍原の目からとめどなく流れる涙を見ながら俺がそんなことを考えていると……。
ふいに藍原が目を開いた。
相変わらず、涙は止んでいない。
涙を零しながら開かれたその瞳は――
青かった。
藍原の異変に気付いた父さんが顔色を変えて彼のそばへと駆け寄った。
苦しそうに呻く藍原の背中に手を添える。
「まさか……、どうしてこの少年が……!?」
尋常じゃない藍原の様子を見た楠ノ瀬の婆さんが、困惑したように声を揺らす。
「……高遠くんのときと……同じ……」
楠ノ瀬も呆然としたように小さく声を漏らした。
「俺のときと……同じ、って……?」
――どういうことだ?
楠ノ瀬の呟きを耳にした俺が聞き返すと、
「高遠くんが、初めて『開眼』したときと、同じような苦しみかた……してる」
「え……?」
どういうことだ……!?
混乱した俺は、祖父さんの姿を探した。
祖父さんは少し離れたところで、肩をぶるぶると震わせて藍原のことを食い入るように見つめていた。重い瞼に覆われた目を驚愕したように見開いている。
「高遠、どうするのだ? この少年が誰かは知らないが……このままにはしておけないだろう」
楠ノ瀬の婆さんが、言葉を忘れたように立ち尽くす祖父さんのことを上目遣いに見据えた。
婆さんに詰め寄られた祖父さんは続けざまに数度瞬きをすると、もの言いたげに父さんの顔を見つめた。
祖父さんの視線に気付いた父さんが祖父さんを見つめ返した。
普段はあまり感情を表に出さない父さんが、縋りつくような目で祖父さんを見つめていた。
父さんの表情を確認した後、祖父さんはちらり、と俺に目をくれた。
どんな顔をしていいかわからない俺は、やるせなく目を泳がせることしかできない。
祖父さんは……俺や父さんの視線を振り払うかのように……頭を軽く振ると、婆さんに向き直った。
「……すまんが、助けてやってくれないか?」
再び頭を下げた祖父さんを、楠ノ瀬の婆さんが鋭い眼差しで凝視している。
「…………わかった」
束の間の沈思の後、婆さんがしっかりとした声で告げた。
婆さんの応答を聞いた祖父さんが、無言でもう一度頭を垂れた。
「まず私の力でできる限り鎮めてみよう。その後で、楠ノ瀬の家まで運ぶ」
一座を見渡した婆さんはそう言って藍原朔夜の元へと近づいた。
「ぅわあぁぁあ……っ、あああぁぁ……」
藍原は尚も声にならない呻き声を上げ続けている。
婆さんは足下の草地に膝をつくと、藍原の傍らで何事かを唱え始めた。それは楠ノ瀬が「治療」の前に唱えるものとよく似ている気がしたが、それよりずっと長かった。婆さんは藍原の耳元で一心に唱い続けた。
きつく閉じられた藍原の両目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。
この涙はきっと……自分を繋ぎとめるための精一杯の「抵抗」なのだと思う。自分の意思とは関係なく流れ続けるのだ。
藍原の目からとめどなく流れる涙を見ながら俺がそんなことを考えていると……。
ふいに藍原が目を開いた。
相変わらず、涙は止んでいない。
涙を零しながら開かれたその瞳は――
青かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる