禁じられた逢瀬

スケキヨ

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開眼

開眼①

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朔夜さくや……!? どうした? 大丈夫か!?」

 藍原あいはらの異変に気付いた父さんが顔色を変えて彼のそばへと駆け寄った。
 苦しそうに呻く藍原の背中に手を添える。

「まさか……、どうしてこの少年が……!?」

 尋常じゃない藍原の様子を見た楠ノ瀬くすのせの婆さんが、困惑したように声を揺らす。

「……高遠たかとおくんのときと……同じ……」

 楠ノ瀬も呆然としたように小さく声を漏らした。

「俺のときと……同じ、って……?」

 ――どういうことだ? 

 楠ノ瀬の呟きを耳にした俺が聞き返すと、

「高遠くんが、初めて『開眼かいがん』したときと、同じような苦しみかた……してる」

「え……?」

 どういうことだ……!?

 混乱した俺は、祖父じいさんの姿を探した。

 祖父さんは少し離れたところで、肩をぶるぶると震わせて藍原のことを食い入るように見つめていた。重い瞼に覆われた目を驚愕したように見開いている。

「高遠、どうするのだ? この少年が誰かは知らないが……このままにはしておけないだろう」

 楠ノ瀬の婆さんが、言葉を忘れたように立ち尽くす祖父さんのことを上目遣いに見据えた。
 婆さんに詰め寄られた祖父さんは続けざまに数度まばたきをすると、もの言いたげに父さんの顔を見つめた。

 祖父さんの視線に気付いた父さんが祖父さんを見つめ返した。
 普段はあまり感情を表に出さない父さんが、縋りつくような目で祖父さんを見つめていた。

 父さんの表情を確認した後、祖父さんはちらり、と俺に目をくれた。
 どんな顔をしていいかわからない俺は、やるせなく目を泳がせることしかできない。

 祖父さんは……俺や父さんの視線を振り払うかのように……頭を軽く振ると、婆さんに向き直った。

「……すまんが、助けてやってくれないか?」

 再び頭を下げた祖父さんを、楠ノ瀬の婆さんが鋭い眼差しで凝視している。

「…………わかった」

 束の間の沈思ちんしの後、婆さんがしっかりとした声で告げた。
 婆さんの応答を聞いた祖父さんが、無言でもう一度頭を垂れた。

「まず私の力でできる限りしずめてみよう。その後で、楠ノ瀬の家まで運ぶ」

 一座を見渡した婆さんはそう言って藍原朔夜の元へと近づいた。

「ぅわあぁぁあ……っ、あああぁぁ……」

 藍原は尚も声にならない呻き声を上げ続けている。

 婆さんは足下の草地に膝をつくと、藍原のかたわらで何事かを唱え始めた。それは楠ノ瀬が「治療」の前に唱えるものとよく似ている気がしたが、それよりずっと長かった。婆さんは藍原の耳元で一心にうたい続けた。

 きつく閉じられた藍原の両目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。

 この涙はきっと……自分を繋ぎとめるための精一杯の「抵抗」なのだと思う。自分の意思とは関係なく流れ続けるのだ。

 藍原の目からとめどなく流れる涙を見ながら俺がそんなことを考えていると……。

 ふいに藍原が目を開いた。
 相変わらず、涙は止んでいない。

 涙を零しながら開かれたその瞳は――



 青かった。 


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