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開眼
開眼④
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祖父さんは厳しい眼差しで俺を見つめたまま、硬い声で告げた。
「楠ノ瀬の娘のことも、諦めなさい」
「…………え」
俺はだらしなく口を半開きにして、間の抜けた声を漏らすことしかできなかった。
「前にも言ったはずだ。高遠と楠ノ瀬が結びつくことは禁じられておる……と」
「…………」
「ましてや、藍原聡子の息子が開眼の兆候を見せた今、何が原因で足元をすくわれるかしれん……。少しでも付け込まれる隙を作るな」
「藍原……サトコ?」
藍原朔夜の母親の名前だろうか。
「あぁ……照森の学生時代の同級生だった女だ」
祖父さんが昔の記憶を辿るように、遠い目をして呟いた。
そうか、父さんはずっとその女のことが好きだったんだな……。
「……付け込まれるって、どういうことだ?」
父さんへの思慕を打ち切るように、祖父さんへと向き直る。
「町の人間、高遠の人間、楠ノ瀬人間や他にも……力や利権を狙う人間はどこにでもいる。弱みを握られれば厄介だ」
祖父さんは奥歯に物が挟まったように、訥々と語った。
「まだ高校生のお前には、酷かもしれないが……腹を括ることだ。お前には覚えてもらわないといけないことも、たくさんあるしな」
祖父さんはそう言って俺に背中を向けた。
それでようやく俺は、祖父さんの刺すように鋭い視線から逃れることができた。
祖父さんの言うとおり、高遠家の後継者として正式に認められるようになるには、俺にはまだまだいろんなものが足りてない。
それなり名の知れた大学に進まないといけないから勉強もしないといけないし。
さっきの祭で祖父さんがやっていたようなことも、やらなきゃならないんだろう。
「はぁ……」
自分でも無意識のうちに吐いていた溜息が、行くあてもなく空中に漂った。
――諦めろ、と言われても……。
俺はきつく目を閉じて、喉元をせり上がってくる熱い塊を呑み込んだ。
瞼の裏に楠ノ瀬の白い肌と赤い痕が浮かんだ。
*****
観月祭の翌週――。
俺は楠ノ瀬の家を訪れていた。
『治療』のためだ。
しかし――。
藍原の件があったせいか、楠ノ瀬の人たちの俺を見る目は冷たい。
ヤツがいわゆる「隠し子」で、こともあろうに楠ノ瀬の次期党首に襲い掛かったのだ。
高遠家への不信が高まるのも仕方のないことかもしれなかった。
――「神憑り」を行うのは久しぶりだ。
徳堂直之が怪我を負ったあの日以来、俺はそれを行っていない。
俺と楠ノ瀬が隠し撮りされた画像の拡散や藍原のこともあってそれどころではなかったというのもあるけれど……。
――怖かったのだ。
それまで半信半疑だった「神の力」の一端を思い知らされた俺は、その力の前に竦んでしまった。
もし、またあの力に取り込まれそうになった時、俺は自分自身を保っていられるだろうか? 楠ノ瀬が隣にいなくても……。
「ごめん、待たせた?」
楠ノ瀬が白い息を吐きながら、襖を開けて顔を出した。
「ううん、全然」
俺は首を振りながら答えて、軽く笑ってみせた。
安心したように相好を崩した楠ノ瀬が俺の向かいに来て腰を下ろした。
「楠ノ瀬、今までありがとな。……今日で、最後になると思う」
楠ノ瀬の顔を正面から見れなくて、彼女の鎖骨あたりに目をやりながら伝えた。
「楠ノ瀬の娘のことも、諦めなさい」
「…………え」
俺はだらしなく口を半開きにして、間の抜けた声を漏らすことしかできなかった。
「前にも言ったはずだ。高遠と楠ノ瀬が結びつくことは禁じられておる……と」
「…………」
「ましてや、藍原聡子の息子が開眼の兆候を見せた今、何が原因で足元をすくわれるかしれん……。少しでも付け込まれる隙を作るな」
「藍原……サトコ?」
藍原朔夜の母親の名前だろうか。
「あぁ……照森の学生時代の同級生だった女だ」
祖父さんが昔の記憶を辿るように、遠い目をして呟いた。
そうか、父さんはずっとその女のことが好きだったんだな……。
「……付け込まれるって、どういうことだ?」
父さんへの思慕を打ち切るように、祖父さんへと向き直る。
「町の人間、高遠の人間、楠ノ瀬人間や他にも……力や利権を狙う人間はどこにでもいる。弱みを握られれば厄介だ」
祖父さんは奥歯に物が挟まったように、訥々と語った。
「まだ高校生のお前には、酷かもしれないが……腹を括ることだ。お前には覚えてもらわないといけないことも、たくさんあるしな」
祖父さんはそう言って俺に背中を向けた。
それでようやく俺は、祖父さんの刺すように鋭い視線から逃れることができた。
祖父さんの言うとおり、高遠家の後継者として正式に認められるようになるには、俺にはまだまだいろんなものが足りてない。
それなり名の知れた大学に進まないといけないから勉強もしないといけないし。
さっきの祭で祖父さんがやっていたようなことも、やらなきゃならないんだろう。
「はぁ……」
自分でも無意識のうちに吐いていた溜息が、行くあてもなく空中に漂った。
――諦めろ、と言われても……。
俺はきつく目を閉じて、喉元をせり上がってくる熱い塊を呑み込んだ。
瞼の裏に楠ノ瀬の白い肌と赤い痕が浮かんだ。
*****
観月祭の翌週――。
俺は楠ノ瀬の家を訪れていた。
『治療』のためだ。
しかし――。
藍原の件があったせいか、楠ノ瀬の人たちの俺を見る目は冷たい。
ヤツがいわゆる「隠し子」で、こともあろうに楠ノ瀬の次期党首に襲い掛かったのだ。
高遠家への不信が高まるのも仕方のないことかもしれなかった。
――「神憑り」を行うのは久しぶりだ。
徳堂直之が怪我を負ったあの日以来、俺はそれを行っていない。
俺と楠ノ瀬が隠し撮りされた画像の拡散や藍原のこともあってそれどころではなかったというのもあるけれど……。
――怖かったのだ。
それまで半信半疑だった「神の力」の一端を思い知らされた俺は、その力の前に竦んでしまった。
もし、またあの力に取り込まれそうになった時、俺は自分自身を保っていられるだろうか? 楠ノ瀬が隣にいなくても……。
「ごめん、待たせた?」
楠ノ瀬が白い息を吐きながら、襖を開けて顔を出した。
「ううん、全然」
俺は首を振りながら答えて、軽く笑ってみせた。
安心したように相好を崩した楠ノ瀬が俺の向かいに来て腰を下ろした。
「楠ノ瀬、今までありがとな。……今日で、最後になると思う」
楠ノ瀬の顔を正面から見れなくて、彼女の鎖骨あたりに目をやりながら伝えた。
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