禁じられた逢瀬

スケキヨ

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罰①

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 殺風景な和室が濃密な気配に包まれていた。
 俺と楠ノ瀬くすのせの乱れた呼吸音が混じり合う。

 俺たちはしばらく抱き合ったまま動かなかった。

 楠ノ瀬は俺の首元に顔を埋めている。汗でしっとりと濡れた肉体がぴったりと隙間なく俺の体に張り付いていた。

 外の庭に面した障子越しに陽の光が差し込んでいる。柔らかな午前中の日差しが俺たちを照らしていた。

「……なぁ、楠ノ瀬。さっきの、なんだったんだ? 呪文みたいなやつ」

 呼吸が落ち着いてきたところで、俺は気になっていたことを尋ねた。内緒話でもするみたいに、なんとなく声が小さくなった。

「……ん?」

 まだぼーっとしている楠ノ瀬が、わずかに小首をかしげた。

「全く聞き取れなかったんだけど……。あれ、何語?」

「……日本語だよ、もちろん。現代のことばじゃないけど」

 こともなげに言うと、楠ノ瀬は俺の耳元で、また何か不思議な詞を囁いた。

 それはいつも治療のときに彼女が唱えていたものに似ていると思ったが、全く同じ詞なのかどうかは、俺にはさっぱりわからなかった。

「ほんとはね……教えちゃいけないの。楠ノ瀬の家に代々伝わる秘術で……。楠ノ瀬家の巫女でも、教えてもらえる人は限られてる。あやちゃんは知らないはずだし」

「え……いいのか、そんな大事なことを俺に話して」

「…………」

 楠ノ瀬は答えないで、ぎゅっと俺の首にしがみついた。

高遠たかとおくんが困ってるから……。私は高遠くんの役に立ちたいよ……。あの人にも、誰にも負けないで……」

 泣きそうな声で呟いた彼女に愛おしさが込み上げた。

「……ありがとう、きよちゃん」

 俺は楠ノ瀬の震える体を抱きしめた。その細い体が軋んで音を立てるくらい、強く―ー。

 楠ノ瀬も同じくらい強い力で、抱きしめ返してくれる。

 俺は彼女の顔を見たくて、密着していた体を優しく離した。

 涙がたまった目の端が赤くなっている。
 瞬きをした拍子に、大粒の涙の雫がぽとりと頬を伝わった。俺は親指を添えて、その雫を拭った。

 楠ノ瀬の濡れた唇が、もの言いたげに薄く開かれている。

 俺は涙を拭った指を唇に持っていって、ゆっくりなぞった。あたたかくて、柔らかい。化粧もしていないのに鮮やかな紅色に色づいたそれは、つやつやと光って見えた。

 俺は顔を傾けて、その紅い唇に自分の乾いた唇を触れさせようとした。

 その瞬間――





 ドク……ン

 嘘だろう? 

 俺はガクリと手をついた。

「高遠くん?」

 楠ノ瀬が不審そうに俺の名前を呼んだ。

 なんで、このタイミングで……?
 楠ノ瀬の唱えた詞の所為か……!?

 血が、熱い。
 全身の血が一瞬にして沸き立つようなこの感覚は忘れるはずもない。

理森よしもり

 ――来た。

 俺の名前を呼ぶ、あの『声』が。

 理森よしもり理森よしもり理森よしもり理森よしもり理森よしもり理森よしもり……。

「……ぅるさ、ぃ」

 俺はその『声』を振り払うように、

「っ……うるさいっ!」

 叫んだ。

 喉が痛むくらい、何度も。

『お前たち、――を破ったな』

「…………え」


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