禁じられた逢瀬

スケキヨ

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罰②

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『声』が何かを告げた。

「……う、っ……」

 体内を暴れまわる血の奔流に呑み込まれそうになる。

高遠たかとおくん……!」

 異変に気づいた楠ノ瀬くすのせが俺の名を呼ぶ。

『お前たちは、――を破った』

『声』がまた何か言った。 

 ――お前……?

 体の中に直接手を突っ込まれて心臓をぎゅうぎゅうと握りつぶされるような痛みのなかで……。
 俺は耳を研ぎ澄ませた。

『声』には一切の抑揚も音律もなく、何を思っているかは全く計り知れない。

「高遠くんっ……高遠くん……!」

 頭から倒れこむ俺の背中に楠ノ瀬が手を添える。

「落ち着いて……大丈夫。高遠くんなら、もう……」

 楠ノ瀬は俺を励ますように耳元に顔を寄せ、何度も何度も呼びかけてくれる。

「高遠くん、――――」

 俺の耳の中へと直接吹き込むように、楠ノ瀬がいにしえことばを唱えた。それは、さっき教えてもらったものとは違う詞のようだった。

 俺の体内で煮えたぎっていた血が、徐々に冷めていくのがわかった。

 ――俺の名を呼ぶ声も……遠くなっていく。

 脱力した俺が仰向けになると、楠ノ瀬が馬乗りになって俺の顔を覗きこんだ。

「あ、れ……」

 俺の顔を……おそらくは目を……見つめた彼女が、意外そうな声を上げて俺の上から離れた。

 俺はまだぜぇぜぇ、と荒い息を吐いていた。
 茫然と、天井を見つめる。

『声』が言ったことを思い出してみる。

「お前たち」と言っていた。

 ――俺と、楠ノ瀬のことだろうか……?

 何かを「破った」と言っていた。

 そう告げる『声』は淡々としたものに過ぎなかったが……。
 俺には……怒っているようにも、呆れているようにも、諦めているようにも……感じられた。

 ――俺たちは、何かとんでもないことをしてしまった、のだろうか……?

「高遠くん」

 焦点の合わない目を上に向けたまま横たわる俺に、楠ノ瀬が覆いかぶさった。
 その紅い唇をそっと俺の瞼に寄せる。
 
「ん……大丈夫。いつものままだよ、目」

「え……?」

 俺は楠ノ瀬が口づけた左の瞼に手を当てた。

 自分ではよくわからないが、こういう状態……「神に憑かれた」状態になっているとき、俺の目は青くなるはずだ。その「青い目」をうちの祖父じいさんのように自分の意志で制御できるようになって初めて一人前だと思っている。

 ――神に見放されてしまったのか、俺は……。

 あいつを選んだんだろうか……。
 頭の中に、半分だけ血の繋がったあいつの……藍原あいはら朔夜さくやの胡散臭い笑顔が思い浮かんだ。



 

「…………!?」

 ふいに地面が揺れた。

「ひゃあ……っ!」

「地震……!? 楠ノ瀬、大丈夫か?」

 楠ノ瀬のふるい家が、ぎしぎしと音を立てて軋んだ。
 ぱらぱら、と剥げた漆喰の欠片が降ってくる。

「高遠くん……!」

 俺たちは身を寄せ合い、畳の上に頭を伏せて、揺れが収まるのを待った。
 揺れはしばらく続いた。


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