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罰
罰③
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地震はそれほど広範囲に及ぶものではなかったが、俺たちの町だけが局所的に揺れたらしかった。
死傷者は一人。
足を骨折して寝たきりだった八十代の女性が地震のショックで心臓発作を起こし、亡くなったそうだ
犠牲者はその老婆一人だったけれど、各所で古い家屋が倒壊する被害があった。
俺の家にあった古い蔵も半分ほど崩れてしまい、シゲさん達はその修繕と片付けに追われている。
――これは、偶然なのだろうか……? それとも……。
*****
あの地震があった日――。
地震の後始末に追われてばたばたと慌ただしい楠ノ瀬の家を逃げるように辞そうとした俺を――あの人が呼び止めた。
楠ノ瀬の婆さんだ。
婆さんは蜥蜴のような目で、俺と隣に立つ楠ノ瀬を見つめていた。その視線は、ねばねばと絡みつくように執拗で……俺たちはまるで金縛りにでもあったみたいに、息をつめて身を固くしていた。
「清乃」
呼びかけられた楠ノ瀬は小さく息をのんで、俺の後ろへ隠れるように身を寄せた。
その仕草を見た婆さんが、眉間に深い皺を寄せた。
「お前たち、まさか……」
地の底を這うような婆さんの低い声を耳にした楠ノ瀬が、びくりと大きく体を震わせた。
「……清乃。あとで私のところに来なさい。話がある」
有無を言わさぬ婆さんの指示に、楠ノ瀬は顔色をなくして俯いた。
「理森殿も早く帰りなさい。高遠の人間もさぞ心配しているだろう」
「は……い」
反射的に返事をして頭を下げた俺を、婆さんはギロリとひと睨みしてから家の奥へと消えていった。
「高遠くん……ごめんなさい。私の、所為かも……しれない」
「……え」
楠ノ瀬が下を向いたまま、震える声で呟いた。
「ごめ……なさ、い…………ごめんなさ……い」
ガタガタと震えながら何度も謝る楠ノ瀬は、今にも泣き出しそうだ。
「落ち着け。……なにがお前の所為なんだ?」
俺は彼女の肩に手を置いた。
膝を屈めて楠ノ瀬の目線に合わせると、睫毛の先まで細かく震わせているその目を覗きこんだ。
楠ノ瀬は俺の視線を避けるように目を伏せたまま、ぽつりと言った。
「…………神様を、怒らせた」
「え……」
「言いつけを、破ってしまった、から……だから、」
下を向いたままでそう言った楠ノ瀬の顔が大きく歪む。
本人も気付いていないような勢いで両目から涙が噴き出した。
俺は、『声』が言っていたことを思い出す。
『お前たちは、――を破った』
「高遠のひとには、教えちゃ、いけなかった……のに、」
楠ノ瀬はしゃくりあげながら、まるで懺悔でもするように両手を胸の前で組んだ。
爪の先が手の甲に食い込んでいる……痕がつきそうなくらい、強く。
「楠ノ瀬の所為じゃないだろ。……俺のためと思って、教えてくれたんだよな?」
俺は、楠ノ瀬が胸の前で組み合わせた拳を、そっと自分の掌で包んだ。
楠ノ瀬がようやく顔を上げて、俺の顔を見た。
「心配するな。楠ノ瀬だけの所為じゃない。天罰だっていうんなら、俺も一緒に受けるから……だから、自分のことだけ責めんなよ」
「…………ありがとう」
楠ノ瀬が目を閉じて頷いた。その拍子に透明な涙がひと粒ぽとり、と零れ落ちた。
俺は場違いにも「綺麗だな」なんて思いながら、その涙が地面に吸い込まれていくの目で追っていた。
死傷者は一人。
足を骨折して寝たきりだった八十代の女性が地震のショックで心臓発作を起こし、亡くなったそうだ
犠牲者はその老婆一人だったけれど、各所で古い家屋が倒壊する被害があった。
俺の家にあった古い蔵も半分ほど崩れてしまい、シゲさん達はその修繕と片付けに追われている。
――これは、偶然なのだろうか……? それとも……。
*****
あの地震があった日――。
地震の後始末に追われてばたばたと慌ただしい楠ノ瀬の家を逃げるように辞そうとした俺を――あの人が呼び止めた。
楠ノ瀬の婆さんだ。
婆さんは蜥蜴のような目で、俺と隣に立つ楠ノ瀬を見つめていた。その視線は、ねばねばと絡みつくように執拗で……俺たちはまるで金縛りにでもあったみたいに、息をつめて身を固くしていた。
「清乃」
呼びかけられた楠ノ瀬は小さく息をのんで、俺の後ろへ隠れるように身を寄せた。
その仕草を見た婆さんが、眉間に深い皺を寄せた。
「お前たち、まさか……」
地の底を這うような婆さんの低い声を耳にした楠ノ瀬が、びくりと大きく体を震わせた。
「……清乃。あとで私のところに来なさい。話がある」
有無を言わさぬ婆さんの指示に、楠ノ瀬は顔色をなくして俯いた。
「理森殿も早く帰りなさい。高遠の人間もさぞ心配しているだろう」
「は……い」
反射的に返事をして頭を下げた俺を、婆さんはギロリとひと睨みしてから家の奥へと消えていった。
「高遠くん……ごめんなさい。私の、所為かも……しれない」
「……え」
楠ノ瀬が下を向いたまま、震える声で呟いた。
「ごめ……なさ、い…………ごめんなさ……い」
ガタガタと震えながら何度も謝る楠ノ瀬は、今にも泣き出しそうだ。
「落ち着け。……なにがお前の所為なんだ?」
俺は彼女の肩に手を置いた。
膝を屈めて楠ノ瀬の目線に合わせると、睫毛の先まで細かく震わせているその目を覗きこんだ。
楠ノ瀬は俺の視線を避けるように目を伏せたまま、ぽつりと言った。
「…………神様を、怒らせた」
「え……」
「言いつけを、破ってしまった、から……だから、」
下を向いたままでそう言った楠ノ瀬の顔が大きく歪む。
本人も気付いていないような勢いで両目から涙が噴き出した。
俺は、『声』が言っていたことを思い出す。
『お前たちは、――を破った』
「高遠のひとには、教えちゃ、いけなかった……のに、」
楠ノ瀬はしゃくりあげながら、まるで懺悔でもするように両手を胸の前で組んだ。
爪の先が手の甲に食い込んでいる……痕がつきそうなくらい、強く。
「楠ノ瀬の所為じゃないだろ。……俺のためと思って、教えてくれたんだよな?」
俺は、楠ノ瀬が胸の前で組み合わせた拳を、そっと自分の掌で包んだ。
楠ノ瀬がようやく顔を上げて、俺の顔を見た。
「心配するな。楠ノ瀬だけの所為じゃない。天罰だっていうんなら、俺も一緒に受けるから……だから、自分のことだけ責めんなよ」
「…………ありがとう」
楠ノ瀬が目を閉じて頷いた。その拍子に透明な涙がひと粒ぽとり、と零れ落ちた。
俺は場違いにも「綺麗だな」なんて思いながら、その涙が地面に吸い込まれていくの目で追っていた。
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