83 / 100
監視者
監視者①
しおりを挟む
「ん……っ」
目を覚ますと薄闇が広がっていた。
右半身には硬く冷たい感触――。
ぼんやりとする記憶をたどって、音楽室の前で意識が途切れたことを思い出す。どうやら俺は横向きで寝転がされているみたいだった。
「くそっ……」
起き上がろうと力を入れても、後ろ手に両手を拘束されているせいで思うように動けない。
しばらくバタバタと鯰のように暴れまわってみたけれど、きつく縛られた拘束が緩む気配はない。
「うっ……」
意識を失う前に殴られたらしい頭の後ろが鈍く痛んだ。
「……どこだ、ここは……」
俺は一旦動くことを諦めて、おとなしく辺りを見回してみる。何度か瞬きをして宵闇に目を凝らすと、雑然とした室内がぼぅっと浮かび上がってきた。
床一面に所狭しと置かれた何かの荷物。
壁の両側に備え付けられた木棚。
――ここって……
「気が付いたか?」
俺の思考を妨げるように誰かの声が重なった。
低いのによく通る……男の声だ。
「……誰、だ……?」
荷物の影に隠れて、床に這いつくばった俺の位置からでは顔が見えない。
でもさっきの声、どこかで聞いたことがあるような……。
男は何も言わずにコツコツと靴を鳴らして俺の背後へ回り込むと、シャーという小気味のいい音を立てて、カーテンを一気に引いた。
露わになった窓から月の光が仄かに差し込む。
冴え冴えとした光が雑然とした室内を浮き上がらせた。男の顔も……月明かりの下に薄っすらと照らし出される。
俺はゆっくりと目線を上げて、男の顔を確認した。男の目元が青白い月光を反射して冷たく光った。
「っ……あんたは、」
「ふっ……」
動揺した俺の声を聴いた男が、かすかに頬を動震わせた。
笑っている……?
冷たい床に長く黒々と伸びた影が、男の動きに合わせてかすかに揺らめいた。
男の正体に気づいた俺は戸惑いを隠せない。
――どうして、この人が……?
「……なんで、あなたが、こんなこと……」
振り絞るように出した俺の声が掠れた。
――理由がわからない。
この人に敵意を向けられる理由が全く思い当たらなかった。
「なんで、って……」
俺の問いかけに答えるように、男が口を開いた。
「忠告……いや、『警告』かな」
「……警告?」
予想外の台詞に、俺は顔をしかめた。
「そう。言いつけを破った高遠の息子に、お灸を据えなきゃいけないからね」
そう言うと、男が大きく破顔した。男の影が、大きく揺れ動いた。
目を覚ますと薄闇が広がっていた。
右半身には硬く冷たい感触――。
ぼんやりとする記憶をたどって、音楽室の前で意識が途切れたことを思い出す。どうやら俺は横向きで寝転がされているみたいだった。
「くそっ……」
起き上がろうと力を入れても、後ろ手に両手を拘束されているせいで思うように動けない。
しばらくバタバタと鯰のように暴れまわってみたけれど、きつく縛られた拘束が緩む気配はない。
「うっ……」
意識を失う前に殴られたらしい頭の後ろが鈍く痛んだ。
「……どこだ、ここは……」
俺は一旦動くことを諦めて、おとなしく辺りを見回してみる。何度か瞬きをして宵闇に目を凝らすと、雑然とした室内がぼぅっと浮かび上がってきた。
床一面に所狭しと置かれた何かの荷物。
壁の両側に備え付けられた木棚。
――ここって……
「気が付いたか?」
俺の思考を妨げるように誰かの声が重なった。
低いのによく通る……男の声だ。
「……誰、だ……?」
荷物の影に隠れて、床に這いつくばった俺の位置からでは顔が見えない。
でもさっきの声、どこかで聞いたことがあるような……。
男は何も言わずにコツコツと靴を鳴らして俺の背後へ回り込むと、シャーという小気味のいい音を立てて、カーテンを一気に引いた。
露わになった窓から月の光が仄かに差し込む。
冴え冴えとした光が雑然とした室内を浮き上がらせた。男の顔も……月明かりの下に薄っすらと照らし出される。
俺はゆっくりと目線を上げて、男の顔を確認した。男の目元が青白い月光を反射して冷たく光った。
「っ……あんたは、」
「ふっ……」
動揺した俺の声を聴いた男が、かすかに頬を動震わせた。
笑っている……?
冷たい床に長く黒々と伸びた影が、男の動きに合わせてかすかに揺らめいた。
男の正体に気づいた俺は戸惑いを隠せない。
――どうして、この人が……?
「……なんで、あなたが、こんなこと……」
振り絞るように出した俺の声が掠れた。
――理由がわからない。
この人に敵意を向けられる理由が全く思い当たらなかった。
「なんで、って……」
俺の問いかけに答えるように、男が口を開いた。
「忠告……いや、『警告』かな」
「……警告?」
予想外の台詞に、俺は顔をしかめた。
「そう。言いつけを破った高遠の息子に、お灸を据えなきゃいけないからね」
そう言うと、男が大きく破顔した。男の影が、大きく揺れ動いた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる