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監視者
監視者①
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「ん……っ」
目を覚ますと薄闇が広がっていた。
右半身には硬く冷たい感触――。
ぼんやりとする記憶をたどって、音楽室の前で意識が途切れたことを思い出す。どうやら俺は横向きで寝転がされているみたいだった。
「くそっ……」
起き上がろうと力を入れても、後ろ手に両手を拘束されているせいで思うように動けない。
しばらくバタバタと鯰のように暴れまわってみたけれど、きつく縛られた拘束が緩む気配はない。
「うっ……」
意識を失う前に殴られたらしい頭の後ろが鈍く痛んだ。
「……どこだ、ここは……」
俺は一旦動くことを諦めて、おとなしく辺りを見回してみる。何度か瞬きをして宵闇に目を凝らすと、雑然とした室内がぼぅっと浮かび上がってきた。
床一面に所狭しと置かれた何かの荷物。
壁の両側に備え付けられた木棚。
――ここって……
「気が付いたか?」
俺の思考を妨げるように誰かの声が重なった。
低いのによく通る……男の声だ。
「……誰、だ……?」
荷物の影に隠れて、床に這いつくばった俺の位置からでは顔が見えない。
でもさっきの声、どこかで聞いたことがあるような……。
男は何も言わずにコツコツと靴を鳴らして俺の背後へ回り込むと、シャーという小気味のいい音を立てて、カーテンを一気に引いた。
露わになった窓から月の光が仄かに差し込む。
冴え冴えとした光が雑然とした室内を浮き上がらせた。男の顔も……月明かりの下に薄っすらと照らし出される。
俺はゆっくりと目線を上げて、男の顔を確認した。男の目元が青白い月光を反射して冷たく光った。
「っ……あんたは、」
「ふっ……」
動揺した俺の声を聴いた男が、かすかに頬を動震わせた。
笑っている……?
冷たい床に長く黒々と伸びた影が、男の動きに合わせてかすかに揺らめいた。
男の正体に気づいた俺は戸惑いを隠せない。
――どうして、この人が……?
「……なんで、あなたが、こんなこと……」
振り絞るように出した俺の声が掠れた。
――理由がわからない。
この人に敵意を向けられる理由が全く思い当たらなかった。
「なんで、って……」
俺の問いかけに答えるように、男が口を開いた。
「忠告……いや、『警告』かな」
「……警告?」
予想外の台詞に、俺は顔をしかめた。
「そう。言いつけを破った高遠の息子に、お灸を据えなきゃいけないからね」
そう言うと、男が大きく破顔した。男の影が、大きく揺れ動いた。
目を覚ますと薄闇が広がっていた。
右半身には硬く冷たい感触――。
ぼんやりとする記憶をたどって、音楽室の前で意識が途切れたことを思い出す。どうやら俺は横向きで寝転がされているみたいだった。
「くそっ……」
起き上がろうと力を入れても、後ろ手に両手を拘束されているせいで思うように動けない。
しばらくバタバタと鯰のように暴れまわってみたけれど、きつく縛られた拘束が緩む気配はない。
「うっ……」
意識を失う前に殴られたらしい頭の後ろが鈍く痛んだ。
「……どこだ、ここは……」
俺は一旦動くことを諦めて、おとなしく辺りを見回してみる。何度か瞬きをして宵闇に目を凝らすと、雑然とした室内がぼぅっと浮かび上がってきた。
床一面に所狭しと置かれた何かの荷物。
壁の両側に備え付けられた木棚。
――ここって……
「気が付いたか?」
俺の思考を妨げるように誰かの声が重なった。
低いのによく通る……男の声だ。
「……誰、だ……?」
荷物の影に隠れて、床に這いつくばった俺の位置からでは顔が見えない。
でもさっきの声、どこかで聞いたことがあるような……。
男は何も言わずにコツコツと靴を鳴らして俺の背後へ回り込むと、シャーという小気味のいい音を立てて、カーテンを一気に引いた。
露わになった窓から月の光が仄かに差し込む。
冴え冴えとした光が雑然とした室内を浮き上がらせた。男の顔も……月明かりの下に薄っすらと照らし出される。
俺はゆっくりと目線を上げて、男の顔を確認した。男の目元が青白い月光を反射して冷たく光った。
「っ……あんたは、」
「ふっ……」
動揺した俺の声を聴いた男が、かすかに頬を動震わせた。
笑っている……?
冷たい床に長く黒々と伸びた影が、男の動きに合わせてかすかに揺らめいた。
男の正体に気づいた俺は戸惑いを隠せない。
――どうして、この人が……?
「……なんで、あなたが、こんなこと……」
振り絞るように出した俺の声が掠れた。
――理由がわからない。
この人に敵意を向けられる理由が全く思い当たらなかった。
「なんで、って……」
俺の問いかけに答えるように、男が口を開いた。
「忠告……いや、『警告』かな」
「……警告?」
予想外の台詞に、俺は顔をしかめた。
「そう。言いつけを破った高遠の息子に、お灸を据えなきゃいけないからね」
そう言うと、男が大きく破顔した。男の影が、大きく揺れ動いた。
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