禁じられた逢瀬

スケキヨ

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監視者

監視者②

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「……どういうことだ……? なんであんたがそれを、」

「知ってるんだ?」という俺の台詞は口から出す前に喉の奥に引っ込んだ。

「ぐ、はっ……!」

 男が靴の先で俺の鳩尾みぞおち辺りを蹴り上げたからだ。

 痛みに喘ぐ俺を見下ろしながら、

「どういうことでもないよ。私は君たちの『監視』役だからね」

 男が淡々と言った。

「……監視?」

 訝しげに問い返した俺に、

「そうだ。それも知らないのか? 本当に高遠たかとおは何をしているのやら……」

 男はやれやれ、といった風に首を振ると呆れたように言った。

 そういえば、以前楠ノ瀬くすのせが言ってなかったか?

 私たちは監視されている、と。

 あれは――

「監視って……あやちゃんのことじゃないのか?」

 思い出したように呟いた俺に、

「あぁ、あのか。まぁ、楠ノ瀬家は偉いよね。家内の者で相互に監視させて自衛に努めているわけだから。……高遠と違って」

 男は鼻で笑いながら嘲るように言った。
 月の光を反射して、男の眼鏡が光った。

「……まさか、あんたがここで働いてるのも、俺たちを監視するため……なのか?」

 俺は床に這いつくばったまま、目線だけ上に向けて男の顔を睨みつけた。

「そうだよ」

 その男――音楽の梢江こずえ先生が、こともなげに答えた。ひょろりと細長いシルエットが月明かりの下、不気味に浮かび上がる。

 混乱する頭の中で、楠ノ瀬やあやちゃんと親しそうに会話する先生の姿を思い出す。おそらく楠ノ瀬たちも梢江先生に見張られているなんて夢にも思っていないのだろう。

 俺はこの先生をよく知らないけれど。
 あの二人は本心からこの人のことを「信頼できる教師」として慕っているように見えたのに……。

「なんで、そこまでして、俺たちのことを……?」

「さぁ、なんでだろうねぇ……」

 先生は俺の質問を面白がるように口の端を上げて首を捻った。

「正直なところ、こっちだって冗談じゃないと思ってるよ。なんで職業まで指定されて君たちみたいな子供の見張りをしなきゃいけないんだ……って。だけど――」

 梢江先生はしゃがみこんで、這いつくばる俺の耳を強い力でつまみあげた。

「しょうがないよね。それがうちの家に課せられた『お役目』だから」

『お役目』という言葉を、一言一句、俺の耳の穴に向かって叩きつけるように告げる。

「ぐ、はっ……!」

 先生に胸倉を掴まれ強制的に顔を上げさせられた。銀縁の眼鏡越しに、大きく見開かれた先生の目が視界に入った。

 その目は――虎の目のように黄金きん色に輝いていた。


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