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閃光
閃光①
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その目に青い光を湛えた藍原は、俺と祖父さんを押しのけると舞台に上がった。前髪をかき分けて素顔を晒すと、大きく目を見開いて眼下の人々を見渡した。
藍原の青い目を認めた人々の口から次々に感嘆の声が漏れる。
「本当に青い……」
「……あれが『開眼』?」
「あぁそうだよ……あの目こそ神様が『憑かれた』証だよ……」
青い目に魅入られて、うっとりと祈るように手を組む人までいる。
一方で、俺と祖父さんの様子を伺いながら、戸惑いの声を上げる人もいた。
「どういうことだ……?」
「この少年が跡取りなのか?」
「でも、彼は一体誰なんだ……高遠家の人間なのか?」
困惑と疑念の囁きがザワザワと波紋のように広がっていく。
俺は舞台の下で所在なく突っ立っているしかなかった。この場の主役は完全に藍原だった。
祖父さんも楠ノ瀬も楠ノ瀬の婆さんも、みんなが俺のことを気遣わしげに見つめていた。
――いたたまれなかった。
町の人たちの好奇の目と違って、この人たちは本当に俺のことを心配してくれている。それは痛いほどわかっていた。
なのに……。
俺は彼らの視線を受け止めることができず、ただただ俯いて自分の情けない顔を隠すことしかできなかった。
「私は……」
舞台上の藍原朔夜が口を開いた。この場の全員が口を噤んで、彼に目を向ける。
あいつが何を言い出すのか――。
みんなの注目が一心に藍原へと注がれていた。
「私は……そこにいる高遠理森の兄です……」
「な……っ!?」
突然の藍原の告白に、喉の奥から声が漏れた。
横を見ると、祖父さんも呆気に取られたように口を開けて固まっている。
「おい、どういうことだ……!? 理森くんに兄弟がいるなんて聞いたことないぞ」
俺も知ってる町会議員の一人が声を上げた。彼の言を耳にした町の人たちが色めき立つ。
「訳あって高遠姓ではありませんが、私は高遠照森の長男……れっきとした高遠家の人間であり、正当な後継者に足る資格を持つ者です。何より……」
藍原はそこまで言うと、改めて彼を仰ぎ見る人々に視線を向けた。大きく見開かれた瞳からは、青白い光が発せられている。その光は遠目でもわかるほどに強い。
「この『青い目』が、その証拠です」
彼の青い視線に絡めとられた人々が、その場に縫いつけられたように動きを止め、口を閉ざした。
「おい、何を勝手なことを言っておるんだ……!?」
祖父さんが舞台上に戻って藍原のふるまいを咎めると、
「…………黙れ」
祖父さんの方へと向き直った藍原が、有無を言わさぬ口調で告げた。腹の底を直接震わせるようなその声は、いつもの軽薄なあいつの口ぶりからは想像もできないほど重かった。
藍原の青い目を認めた人々の口から次々に感嘆の声が漏れる。
「本当に青い……」
「……あれが『開眼』?」
「あぁそうだよ……あの目こそ神様が『憑かれた』証だよ……」
青い目に魅入られて、うっとりと祈るように手を組む人までいる。
一方で、俺と祖父さんの様子を伺いながら、戸惑いの声を上げる人もいた。
「どういうことだ……?」
「この少年が跡取りなのか?」
「でも、彼は一体誰なんだ……高遠家の人間なのか?」
困惑と疑念の囁きがザワザワと波紋のように広がっていく。
俺は舞台の下で所在なく突っ立っているしかなかった。この場の主役は完全に藍原だった。
祖父さんも楠ノ瀬も楠ノ瀬の婆さんも、みんなが俺のことを気遣わしげに見つめていた。
――いたたまれなかった。
町の人たちの好奇の目と違って、この人たちは本当に俺のことを心配してくれている。それは痛いほどわかっていた。
なのに……。
俺は彼らの視線を受け止めることができず、ただただ俯いて自分の情けない顔を隠すことしかできなかった。
「私は……」
舞台上の藍原朔夜が口を開いた。この場の全員が口を噤んで、彼に目を向ける。
あいつが何を言い出すのか――。
みんなの注目が一心に藍原へと注がれていた。
「私は……そこにいる高遠理森の兄です……」
「な……っ!?」
突然の藍原の告白に、喉の奥から声が漏れた。
横を見ると、祖父さんも呆気に取られたように口を開けて固まっている。
「おい、どういうことだ……!? 理森くんに兄弟がいるなんて聞いたことないぞ」
俺も知ってる町会議員の一人が声を上げた。彼の言を耳にした町の人たちが色めき立つ。
「訳あって高遠姓ではありませんが、私は高遠照森の長男……れっきとした高遠家の人間であり、正当な後継者に足る資格を持つ者です。何より……」
藍原はそこまで言うと、改めて彼を仰ぎ見る人々に視線を向けた。大きく見開かれた瞳からは、青白い光が発せられている。その光は遠目でもわかるほどに強い。
「この『青い目』が、その証拠です」
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「おい、何を勝手なことを言っておるんだ……!?」
祖父さんが舞台上に戻って藍原のふるまいを咎めると、
「…………黙れ」
祖父さんの方へと向き直った藍原が、有無を言わさぬ口調で告げた。腹の底を直接震わせるようなその声は、いつもの軽薄なあいつの口ぶりからは想像もできないほど重かった。
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