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第十話 ソフィアとセレーネ
しおりを挟む「ふむ……」
野盗退治の懸賞金を生活費にして、クトウは連日、図書館へと通っていた。
そして、知識の遺産スキルを使い、この世界の歴史、文化、技能、暴力を吸収していく。
「さて、試してみるか……」
図書館の禁書庫で見つけた、薄汚れた古文書。
記されていたのは、死者を復活させる禁呪。
でたらめであり、創作であったが、そこには一片の真実が含まれていた。
アナグラムを組み合わせていくと、世界を破滅させる禁呪の断片が見えてくる。
この本を解読できた者に、完成を託すとのメッセージも。
この本を書いた人間は狂人だった。
さて、この本を読んだのがクトウであることは、生命にとって祝福か、それとも破滅となるか。
クトウは神話大全スキルにより、世界のソースコードにアクセスする。
冒涜と神聖。
それすらもただの情報処理として、クトウは事務的に処理していく。
作り上げられるのは、この世界で禁忌とされる魔法。
クトウは新しいスキル、英霊召喚を会得する。
「ここも、久しぶりだな」
街を出てクトウは、この異世界にやってきて初めて出会った人工物、朽ちた墓標の前にやってきていた。
この世界について調べて知ったこと。
ソフィアとセレーネは、実力者だった。
ならば、護衛として復活させるのもありだろう。
クトウは深淵の魔力を練り上げると、黄泉の国から二人を呼び寄せる。
禁呪『英霊召喚』
膨大な魔力が吹き荒れ、本来なら触媒が必要となる儀式も吹き飛ばし、クトウは世界のソースコードから直に英霊を呼び出していく。
「はじめまして、お嬢さん方」
「私たちを呼び出したのは、あなた?」
クトウの前に立つのは、どこまでも空高い晴色の瞳をした金髪の女剣士。
そして、海の底のように碧い瞳を持つ、黒夜の長髪をした魔女。
かつて、魔王による世界侵略を止めるために立ち上がった十四英雄。
七人は最後まで魔王に抗い、七人は魔王に与し、人類を裏切った。
人類に対し、あまりにも巨大な被害が出た悪夢。
裏切りの七人は、やがて七災害と呼ばれることになる。
残った七英雄は死力を尽くし、人類を裏切った七災害を討つと、魔王と平和条約を結んだ。
誰もが知る偉大な歴史。
侮蔑された七人は戦いの中で殺され、歴史からも抹消された。
その名前すらも、忌むものとされ、消されている。
もはや誰も知ることのない七人の素性。
七災害のうちの二人が、ソフィアとセレーネだ。
「契約を結ぼうか。報酬は七英雄の殺害」
「む……」
「……」
七英雄の殺害と聞いて、ソフィアとセレーネの瞳が暗くなる。
「待ちたまえ、私は真実を知っている」
隠された本当の歴史。
人類を裏切ったのは、七英雄だった。
傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、怠惰、色欲。
大罪者七名。
世界から祝福された現在では、勇者、賢者、聖者 、聖騎士 、吟遊詩人、狩人、探索者と認識されている。
魔力のコントロールにより、この異世界では寿命をいくらでも伸ばすことができる。
人類を裏切った七人は、今も健在だ。
「それで、あなたは私たちに何をさせたいの?」
「契約内容は、私の側近として働くこと。私は、七英雄を殺す」
クトウは七災害の二人に宣言した。
人類の希望の消滅を。
すでに過去の存在となった自分たちが、今の世に干渉して良いものかと、二人は逡巡する。
しかし、七英雄が今も世界に影響力を持っていると聞いて、覚悟を決めたようだ。
「忠誠を誓います」
「契約完了……」
ソフィアとセレーネが跪くと、契約は成立する。
暗き道に見えた希望。
灯火の先にある到着点は破滅か、創造か。
人類の抽象的次元が、ねじくれていく。
視界が闇に包まれていたほうが、人々は幸せだったのかもしれない。
闇が祓われた先に見えるのは、さらなる闇かもしれない。
自らの進む先は、自分の足で決めねばならない。
自らが、闇を照らす灯火にならなければならない。
それが、神の定めた真理である。
「さて、戻ろうか」
クトウは下宿しているアンナの家に戻ると、彼女たちを紹介する。
「はあ……まあ、あなたは一人じゃ満足しなそうだものねぇ……」
護衛として連れた二人の美女を見て、アンナはため息をついていた。
その時、地揺れが起きる。
カタカタと音が鳴り、家具が揺れる。
外の通りからは、悲鳴が聞こえていた。
「この国では、地震が頻繁に起きるのかね?」
「いいえ! こんなこと初めてよ!」
街が、突如現れた灰色の波に飲み込まれていく。
遠くに聞こえる叫び声が、少しずつ消えていた。
混乱と絶望に襲われ、人々は逃げ惑う。
大勢の人が恐怖に震え、空気が鳴く。
これは、後に歴史書に記される大災害「最低最悪」の始まりであった。
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