最低最悪の救世主

第三世界(うたかたとわ)

文字の大きさ
9 / 17

第九話 冒険者ギルドにて

しおりを挟む
 
 優雅な朝を迎えたクトウは、優しい太陽光を浴びていた。

 黄金のように降り注ぐ、心地いい光に全身が包みこまれる。

「おはよう」

 同じベッドから、アンナが幸せな顔で起き上がってくる。

 夜のスイーツを楽しんだアンナは、今度はハイブランドの朝食を求めているようだ。

「ん……美味しい……」

 朝日を浴びながら、二人は甘い食事を堪能する。

 ボルドンの死についてであるが、病気で片が付いた。

 ボルドンの一族であるジルヴァイン家だけは殺人を疑っているが、証拠がないのだから仕方がない。

「さて、出かけるか」

 ゆったりとした朝食を終え、スーツを着ると、クトウは外出する。

 向かうのは、冒険者ギルド。

 冒険者ギルドにて、クトウが殺した野盗の討伐依頼が出ていると聞いた。

 また、強者の集いであろう冒険者たちを観察することで、クトウはこの世界の暴力の質を測ろうとも考えている。

「すまない、野盗を殺したのだが、首実検を頼めるかね」

「はい、大丈夫ですよ」

 冒険者ギルドにて、クトウは受付の女性に声を掛ける。

 担当者が来るというので、クトウはしばらく待つように伝えられた。

「まあ、一杯やるか……」

 冒険者ギルドには酒場が併設されていて、朝から飲酒が可能だ。

 夜の狩りでもしていたのであろう冒険者パーティたちが、それぞれを労いながら談笑している。

 木製のテーブルが並んだ酒場スペースに、クトウは進む。

「エールをくれ」

「はいよ!」

 椅子に座り、恰幅の良い女性に注文をすると、ガラスのジョッキに注がれたエールが出てきた。

「……うまい」

 エールを一口飲むと、冷えた喉越しが五臓六腑を潤わす。

 よく冷えていることから、製氷機、冷蔵庫が発明されている文化水準であることが理解できる。

 衛生状態も良い。

 ガラスの形も均一。

 つまりは工場が生まれ、大量生産も開始されている。

 クトウは未知の異世界の情報を、確実に収集していく。
 
「おい……あいつ……」

「まじかよ?」

 朝からエールを嗜んでいるクトウを見ながら、遠巻きで三人組がニヤニヤと談笑していた。

 一人は黒髪に黒目。

 後の二人は金髪碧眼のエルフに、灰色の髪をした狼獣人だ。

 こちら側が弱いかどうかを品定めしているのは、暴力の標的にされている兆候。

 スーツ姿のクトウを見て何かしらの反応を見せている彼らは、クトウと同じ異世界転移者に違いない。

 クトウは警戒心を、一段階上げる。

 この世界に転移する際、自由に容姿を変えられる時間が存在した。

 クトウの容姿はそのままだが、肉体年齢は十代後半まで若返っている。

 自分の見た目を変えた者も多い。

 三人組は鎧に剣を身に着けているのが二人。

 黒髪の人間と、獣人の男。

 エルフの男はローブを着て、フードを被っている。

 獣人の男もフードを深く被り、顔を見せていない。

 尻尾だけが、彼が獣人であることを明確に示している。

 観察するに、彼らが身につけている装備は、質の良い物のようだ。

 周りの人間が羨む目で見ている。

 大きな謎だった。

 クトウが異世界にやって来て、まだ一日しか経っていない。

 さて、あの良質な装備を揃える時間は存在するのか。

「おい、やめとけって!」

「はぁ? カモじゃん」

 そんなことを考えているクトウに、仲間の静止を振り切り黒髪の男が声をかけてきた。

「お前さー、転移者?」

「そうだな」

 ニヤニヤと侮る態度を変えない黒髪の男。

 空気が歪む、修羅場の予兆。

 スーツ姿のクトウを見ながら、黒髪の男は軽口を続けていく。

「その格好、来たばっかりでしょ?」

「そうかもな」

「あはは! ごまかしても無駄だし! 知ってる~? 転移者がこっちの世界に来るまでタイムラグがあるんだよ!」

「ほう……続けたまえ」

 自分が強者側だということを確信したように、黒髪の男は話を続ける。

 タイムラグという気になる話題が出たことで、クトウの興味が少しだけ湧いた。

「俺がこっちに来たのは半年前、あいつらは一ヶ月前」

「それで?」

「で、お前が来たのが最近。これ、どういうことがわかる?」

「さあ?」

 弱者をいたぶるような態度で、会話が続いていく。

 暴力に発展する直前の人間たちによる、情報交換。

 心地の良い、バッドコミュニケーションの時間。

「察しが悪いなー。お前は、雑魚ってこと」

「なぜそう言えるのかね?」

「先に来た俺達には、戦闘の経験がある。お前にはない。ドゥーユーアンダースタン?」

「なるほど。素晴らしい洞察力だ」

 空気が軋むような、言葉が流れる。

 黒髪の男が、雰囲気を変えた。

「お前さ、人殺したことある?」

 黒髪の男は自分が優位であることを示したと考え、勝ち誇っている。

「なぜかね」

「いや、聞いただけ。それで、アイテムボックスがあると、この世界では証拠隠滅できちゃうんだよねー」

「ふむ」

 幼児が火遊びを自慢するように、黒髪の男が独白を続けた。

 抑えの効かない軽薄な男が始める、愚かな行動のテンプレート。

「お前が誰かに殺されても、証拠は残らないってね。あ、これ、独り言だから」

「ああ。素晴らしい世界だな」

 取り付く島のない態度のクトウを見て、黒髪の男が威圧するように凄んでいた。

 それも、クトウは意に介さない。

「はい。お前、ナメてるから殺すわ。あ、これ冗談ね」

 一瞬だけ威嚇すると、すぐにまた黒髪の男は侮蔑するような笑い顔になる。

 人間種が攻撃行動に移る際に見せる、示威シグナル。

 さあ、修羅時の始まりだ。

「ごぶぅ……」

 そして、ヘラヘラと笑っていた彼は、ドス黒い血を吐いて冒険者ギルドの床に倒れた。

 そのまま、ピクリとも動かなくなる。

 静寂。

 周囲の時が止まる。

「てめえ! 何しやがった!」

 獣人の男が、剣を構えて叫んでいた。

 彼は仲間の死が受け入れられない様子だ。
 
 床一面は血の池模様。

 木の床と砂埃が、鉄の匂いへと変わる。

 ここは戦場となった。

「私は何もしていないが……」

「ふざけるな!」

 糧のない問答が続いていく。

 クトウが発動したのは、強奪スキルへのカウンター。

 深淵魔法を会得したクトウの魔力は、一般の人間が扱うと死ぬというデメリットがある。

 クトウの能力を奪おうと強奪スキルを発動した黒髪の男が、深淵の魔力に侵され死んだ。

 ただの自滅だ。

 本当にクトウは何もしていない。

 迷惑な話である。

「君、その剣はどうするのかね?」

「てめえ! ナメんな!」

 クトウは立ち上がると、左手をポケットに入れたまま質問する。

 獣人の転移者が握りしめる剣の先は震えていた。

 それは怒りによるものか、怯えによるものか。

 余裕を見せるクトウ。

 対して、獣人の男はゴクリと喉を鳴らした後、一気に切りかかった。

 あまりにもわかりやすい、予備動作。

(残念……雑魚か……)

 戦闘は開始された。

 クトウは獣人の男の剣を避けると、足をかける。

 そのまま、秘密裏に魔力をぶつけて、彼の手から剣を叩き落とした。

 勢い余った獣人の男は前のめりに転ぶと、不運にも滑り落とした剣が腹に突き刺さる。

 誰の目から見ても、不幸な事故だ。

 さようなら。

「ごぼぼぉ……」

 そのまま、獣人の男は血の海に溺れてもがく。

 早々に治療すれば、彼は助かるだろう。

 治療手段も用意している。

 公開殺人はあまり趣味ではない。

 若気の至りは、少し痛い目にあうくらいでいい。
 
「さて、君はどうするのかね?」

「ひぃ!?」

 クトウは最後の一人に笑いかける。

 ジェントルマンの、素敵な笑みで。

 目の前でいきなり仲間が殺され、次いで重症を負わされたエルフの男は恐慌状態だ。

「待って! 俺たちは殺しには参加してない! 無理やり、仲間に誘われたんだよ!」

「俺も……殺しはしてない……」

「そうかね」

 クトウの返事を聞いてから、狼の獣人が理性的に続ける。

「あんな奴だけど、一応は仲間だ……殺されたら、報復はするだろう」

「道理だな」

 嘘を言っている様子はない。

 命乞いを始めた男たちに、クトウは深淵の魔力を纏わせた。

「ぐぅぅ……体が……あつい……」

「がぁぁ……あっ……」

「では、それくらいで勘弁しておこうか」

 二人の肉体が、女性へと変貌を遂げていく。

 体を小さく華奢にし、その代わりに乳房を大きくしたため、彼らが彼女へと変わったことには、誰も気が付かない。

 大声で叫んだ獣人の男が、甲高い少年の声だったことも幸いだ。
 
「おい! あんた! こいつらは俺達に譲ってくれ!」
 
 抵抗する気力を失ってしまった二人を、冒険者たちが取り囲んでいた。

「さっきこの黒髪が、殺しの証拠が残らないとか言ってたよな!」

「前から怪しいと思ってたんだ!」

 親切なことに、この世界では死ぬと、アイテムボックスが取り出し専用の魔石となって保存される。

 地面に落ちていたアイテムボックスのかけらを拾うと、冒険者が中身を確認し始めた。

「こいつは、ランディ!」

「行方不明になってた、パミードもだ!」

 そして、殺人の証拠が次々と出てきてしまう。

「てめえら、覚悟しろよ!」

「うわぁ!」

 エルフの女は殺人事件の容疑者として、すぐさま取り押さえられた。

 腹から出血した獣人の女も、最低限の治療を受けながら捕縛される。

「お前ら、女だったのか!」

「違う! ボクは男だ!」

「オレも男だって!」

 着ていたローブがはだけて、エルフの女が持つ豊満な柔房やわふさが露わになる。

 獣人の女が治療のため胸当てを脱がされると、鎧の下にあった巨大なたわわが締め付けを解かれていた。

 人を魔性に惹き寄せる、誘惑の化身のような肉体である。
 
 彼女たち二人が床にうつ伏せに寝かされると、やわらかな脂肉がむっちりと歪んでいる。

 華奢なエルフ少女と、程よく腹筋の浮き出た獣人の女。

 そのまま、二人は犯罪者として捕縛されていった。

 この世界には嘘を看破する魔道具があるようで、取り調べは簡素に行われた。

 クトウも、参考人として現場で聴取されている。

 結果、窃盗や恐喝には参加していたが、二人は殺人に参加していないことが証明された。

 脅され、仕方なく従っていた。

 黒髪の男を止めようと努力したが、無理だった。

 黒髪の男が奪ったものは、可能な場合、こっそりと被害者に返却していた。

 それらの弁明も、魔道具により事実であると立証された。

 証言を裏付ける、彼らに救われた住民も現れた。

 しかし、犯罪者であることには変わりない。

 被害額が大きいため、この国の法により、彼女たちは犯罪奴隷にされるらしい。

 十中八九、性奴隷として購入されるだろうとのこと。

 まあ、深淵魔法のサービスでサキュバスのように快楽を得られる感度と、病気にならない体を追加したため、彼女たちはなんとかなるだろう。

「あんたのおかげて、仲間の敵が討てた!」

「ありがとう!」

 近頃、冒険者が行方不明になる事件が増えていて、捜査がされていたようだ。

 仲間の仇を取れたと、クトウは多くの冒険者たちから感謝される。

「クトウ様、こちらへお越しください!」

 そして、クトウの待ち時間も、無事に終わる。

 一悶着あったが、無事に首実検が済むと、クトウは冒険者ギルドで懸賞金を受け取った。

 ◆

 サキュバス族の国。

 世界最大の遊郭都市である、無限遊楼に二人の犯罪奴隷が売られた。

 エルフであるマヒルノ・ツクヨは、ハイエルフが経営する花蜜庵へ。

 獣人であるシンゲツ・ヒナタは、サキュバスが経営するギルティエデンへ。

 無限遊楼の権力を二分する最高級遊郭に売られた二人は成り上がり、後に伝説の遊女となる。

 遊郭都市でしのぎを削る二つの老舗であるが、花魁の頂点に立つツクヨとヒナタは、仲が良かったそう。

 歴史書には、そう記されていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...