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1下っ端なのか上級なのか 【ゼノ】
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俺は人より頑丈にできていた。
年上の少年に殴られても傷一つ付かなかったし、大きな怪我をしてもすぐに治った。
火や水は簡単に出すことができたし、風も土も意識しなくても操れた。
どれも俺にとっては自然にできることだったが、普通はできないことらしい。
普通の人は、屋根より高く跳ぶこともできないし、風を操って飛ぶこともできない。
火をおこすには時間がかかるし、水だって井戸まで何往復もしなきゃ汲めない。
……そんな事実に気づいたのは、もう村中に、俺が普通じゃないことが知れわたったあとだった。
孤児の俺には優しくしてくれていた皆でも、『普通』と違うのは怖かったようだ。
挨拶はちゃんと返してくれる。でも距離は一歩遠のいた。
話しかけると答えてくれる。だがいつも肩をびくりと震わせ、そそくさと話を切り上げて去っていく。
同年代の子どもたちも、俺と遊ばないようきつく言われているらしい。
俺が近くにいるだけですぐに親が飛んでくるから、彼らともだんだん距離を取るようになっていった。
そうして少しずつ空いた距離が、いつしか大きな溝となるのは、今思えば当たり前のことだったんだろう。
それ以上嫌われないために俺のほうから空けた距離のはずなのに、気づけばもう飛び越えることができないくらいになっていた。
俺はずっと村で暮らしているはずなのに、いつの間にか透明になってしまったかのようだった。
みんなの中で一人でいるよりは、森の中にいた方がいい。
静かな森の中であれば、自分の孤独を感じずに済む。
ひとりぼっちの寂しさを、必要以上に味わわずに済む。
――そうして俺がほとんどの時間を森で過ごすようになったころ、そいつに出会った。
✢
村の近くの森には、村人はあまり立ち入らない。
森はとても豊かだけれど、凶暴な獣も魔獣も出る。
それらに遭遇したらまず命はないとされているから、村人は森の恵みには手を出さずに、農作物だけで暮らしていた。
だから俺が森に入るようになってからは、魔獣を倒し獣を狩り、山菜を取って村の生活を助けている。
もちろん少なからず危険はあるが、魔法を使えばそれほど困ったことにはならない。
むしろ、遠巻きにされながら畑仕事をするよりも、ずっと気楽な仕事だった。
だから今日もいつもと同じように、魔獣に気をつけながら山菜を取っていた。
油断すると背後から襲われ、そこいらの獣の食料になる。
食うか食われるか。殺るか殺られるか。
まさに弱肉強食というべき獣たちの世界。
この危険な森の中でだけ、俺は透明ではなくなって、肉を持った何かになれた。
――そんな危険な森の中で誰かに会うなんて、思いもよらない。
それどころか、その誰かが村人でも行商人でもないなんて。
俺を見るなりにぱっと笑って、気さくに話しかけてくるなんて、一度も想像したことはなかった。
まさに今日、そいつに出会ったこの瞬間までは。
「お、少年! ちょーどいいところに!」
「……誰だ」
「ん? 俺? 通りすがりの下っ端魔族!」
不審な人物に最大限警戒しながらも、うっかり「魔族?」と聞き返したくなったのも無理はないと思う。
辺境のちっぽけな村の近くの、危険に満ちた森の中。
こんなところに魔族がいるなんて聞いたことがないし、そもそもどう見ても人間にしか見えない。
その気持ちが相手に伝わったのか、「ほら、見てろよ」と言った魔族の身体を魔力が包む。
どうやら変化を解いたらしいが、正直どこが変わったのかわからない。
得意げな魔族には申し訳ないが……ええと、そうだな……よく見ると、わずかに耳が尖っただろうか。
でも見てとれたのはそれだけだ。
黒髪に赤い目という色彩だけは魔族っぽいような気もするが、ゆるくウェーブした柔らかそうな髪も、飴玉みたいな甘そうな瞳も、禍々しさとはほど遠い。
さすがに十歳の俺より背は高いけど、白いし細っこいし顔立ちもかわいい。
村の爺さんのほうがよっぽど怖い見た目をしている。
じっと疑いの眼差しを向けていたら、ちゃんと羽やしっぽもあると怒られた。
でも上級魔族は生涯の伴侶にしかしっぽを見せない決まりだから、今は見せられないんだとか。
……下っ端なのか上級なのかどっちなんだ?
年上の少年に殴られても傷一つ付かなかったし、大きな怪我をしてもすぐに治った。
火や水は簡単に出すことができたし、風も土も意識しなくても操れた。
どれも俺にとっては自然にできることだったが、普通はできないことらしい。
普通の人は、屋根より高く跳ぶこともできないし、風を操って飛ぶこともできない。
火をおこすには時間がかかるし、水だって井戸まで何往復もしなきゃ汲めない。
……そんな事実に気づいたのは、もう村中に、俺が普通じゃないことが知れわたったあとだった。
孤児の俺には優しくしてくれていた皆でも、『普通』と違うのは怖かったようだ。
挨拶はちゃんと返してくれる。でも距離は一歩遠のいた。
話しかけると答えてくれる。だがいつも肩をびくりと震わせ、そそくさと話を切り上げて去っていく。
同年代の子どもたちも、俺と遊ばないようきつく言われているらしい。
俺が近くにいるだけですぐに親が飛んでくるから、彼らともだんだん距離を取るようになっていった。
そうして少しずつ空いた距離が、いつしか大きな溝となるのは、今思えば当たり前のことだったんだろう。
それ以上嫌われないために俺のほうから空けた距離のはずなのに、気づけばもう飛び越えることができないくらいになっていた。
俺はずっと村で暮らしているはずなのに、いつの間にか透明になってしまったかのようだった。
みんなの中で一人でいるよりは、森の中にいた方がいい。
静かな森の中であれば、自分の孤独を感じずに済む。
ひとりぼっちの寂しさを、必要以上に味わわずに済む。
――そうして俺がほとんどの時間を森で過ごすようになったころ、そいつに出会った。
✢
村の近くの森には、村人はあまり立ち入らない。
森はとても豊かだけれど、凶暴な獣も魔獣も出る。
それらに遭遇したらまず命はないとされているから、村人は森の恵みには手を出さずに、農作物だけで暮らしていた。
だから俺が森に入るようになってからは、魔獣を倒し獣を狩り、山菜を取って村の生活を助けている。
もちろん少なからず危険はあるが、魔法を使えばそれほど困ったことにはならない。
むしろ、遠巻きにされながら畑仕事をするよりも、ずっと気楽な仕事だった。
だから今日もいつもと同じように、魔獣に気をつけながら山菜を取っていた。
油断すると背後から襲われ、そこいらの獣の食料になる。
食うか食われるか。殺るか殺られるか。
まさに弱肉強食というべき獣たちの世界。
この危険な森の中でだけ、俺は透明ではなくなって、肉を持った何かになれた。
――そんな危険な森の中で誰かに会うなんて、思いもよらない。
それどころか、その誰かが村人でも行商人でもないなんて。
俺を見るなりにぱっと笑って、気さくに話しかけてくるなんて、一度も想像したことはなかった。
まさに今日、そいつに出会ったこの瞬間までは。
「お、少年! ちょーどいいところに!」
「……誰だ」
「ん? 俺? 通りすがりの下っ端魔族!」
不審な人物に最大限警戒しながらも、うっかり「魔族?」と聞き返したくなったのも無理はないと思う。
辺境のちっぽけな村の近くの、危険に満ちた森の中。
こんなところに魔族がいるなんて聞いたことがないし、そもそもどう見ても人間にしか見えない。
その気持ちが相手に伝わったのか、「ほら、見てろよ」と言った魔族の身体を魔力が包む。
どうやら変化を解いたらしいが、正直どこが変わったのかわからない。
得意げな魔族には申し訳ないが……ええと、そうだな……よく見ると、わずかに耳が尖っただろうか。
でも見てとれたのはそれだけだ。
黒髪に赤い目という色彩だけは魔族っぽいような気もするが、ゆるくウェーブした柔らかそうな髪も、飴玉みたいな甘そうな瞳も、禍々しさとはほど遠い。
さすがに十歳の俺より背は高いけど、白いし細っこいし顔立ちもかわいい。
村の爺さんのほうがよっぽど怖い見た目をしている。
じっと疑いの眼差しを向けていたら、ちゃんと羽やしっぽもあると怒られた。
でも上級魔族は生涯の伴侶にしかしっぽを見せない決まりだから、今は見せられないんだとか。
……下っ端なのか上級なのかどっちなんだ?
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