馬鹿でかわいい俺だけの魔族

桃瀬わさび

文字の大きさ
2 / 12

2下請けの下請けの……? 【ゼノ】

しおりを挟む

「で、魔族がなんでこんなところに?」
「……はぁ、そーだった……仕事だよ仕事……。下請けの下請けの下請けの下請けで理由はよくわかんないんだけど、そこの村を燃やさなきゃいけないらしくてさぁ……燃やすだけならパパッとやっちゃえばいーんだけど、カンケーない人たちまで燃やすのはちょっと後味わるいじゃん? 別に頑張ってもボーナスが出るわけじゃないんだし、気の引けることはしたくないじゃん? っつーわけで少年、村になんか宝とかない?」

魔族がはあああと大きくため息を吐き、いじいじと靴先で土を抉る。
かと思えば俺の両肩を掴んで必死の面持ちで見つめてきたりと、表情も言動も落ち着きがない。
下請けの下請けの下請けの下請けというのがどれくらい不遇な立場なのかはよくわからないけど、十歳の子どもにすがるほどのことなんだろうか。
魔族の世界は楽じゃないらしい。

「宝?」
「うん! 魔族を討ち滅ぼす聖なる剣とか、つけると能力が上がる額飾りとか、未来を見通す宝玉とか、アホみたいに強くて敬われてる重要人物とか、そーゆーなにか?」
「知らない」
「だーよなぁあああ……。あーんな小さくてしょっぼい村に、そんなのあるはずないよなぁ」

深い深いため息とともに、魔族ががっくりと肩を落とす。
大人の男にしては細い肩だけど、魔族はみんなこうなんだろうか?
……体格はともかくとして、魔族がこんなのばっかりだったら、人魔戦争なんて起きないと思うけど。
「これはマジで燃やさなきゃいけないのか」とか、「うう、やだなぁ」「でも上司怖いんだよなぁぁあ」とかブツブツ言ってる魔族には悪いけど、もう少し人を疑った方がいいと思う。

とくに敬われてはいないけど、アホみたいに強いやつってたぶん俺のことだ。
魔族と戦ったことはまだないけど、こいつを脅威には感じない。
まだ子どもだから俺のほうが小さいけど、戦ったら俺のほうが強いんじゃないか?

なんでこいつがそれに気づかないのかはわからないけど。
相手が子どもだからってこんなに油断していいのか? とも思うけど。
頭を抱えてうんうん唸って、隙だらけにもほどがある。

「……そんなに嫌なら、アンタが燃やして俺が消火すればいいんじゃない?」
「ハッ……! それだ!! お前天才か!?」

いや、どう考えても駄目だろう。
ぱあっと顔を輝かせた魔族には悪いが、大した被害もなく消火されたら、そもそも燃やす意味がないと思う。
村を守りたくて提案したのは俺だけど、こんなに簡単に子どもの口車に乗って大丈夫なのか?
この魔族、実は、馬鹿なんじゃないか……?

それともまさか本当に、関係ない人まで燃やしたくないと思っているんだろうか?
だからダメとわかりつつも、俺の案に飛びついたのか?
魔族は人間の敵なのに?

そんな俺の疑問をよそに、魔族は村についてあれこれ聞いてきた。
食料庫はどこか。
頑丈な建物はどれか。
燃やしても困らない建物はあるのか。
村人はどっちに逃げると思うか。
そのすべてに正直に答えながら、じっと魔族を観察する。

もしかしたらこう見えて、馬鹿のフリをしているだけかもしれない。
この情報を基に、効率的に村を焼くつもりかもしれない。
村人の逃げる方向に火を放てば、一人残らず始末できる。
食料庫に火を放たれたら、火災からなんとか逃げ延びても、次の冬は越せないだろう。
今までの俺とのやり取りは全部、油断させるための罠かもしれない。

……のんきにへらへら笑う顔を見ていると、とてもそうは思えないけど。
滅ぼすなら俺に構わずさっさと火を放てばいいとも思うけど、警戒するに越したことはない。
こいつが怪しい動きをしたときには、俺がすぐに倒さなきゃならない。
いくら遠巻きにされていたって、村が大切なことに変わりはない。
ここまで育ててくれた村のみんなを、なんとかして守らなきゃいけない。

「んじゃ、明日の昼の鐘とともに燃やすから、それまでに危ないところから離れとけよ。俺が燃やすところは覚えてるな?」
「うん」
「よっし! じゃあ少年、ここでお別れだ。明日は燃やしたらソッコー帰るから、消火活動頑張れよ」

にぱっと思い切り笑う顔は、やっぱり魔族らしくない。
禍々しさなんてかけらもなくて、表情がくるくる変わっていって。
皆に遠巻きにされている俺の肩を叩いて話を聞いて、ときにはきらきらと目を輝かせて――結構長く話していたはずなのに、あっという間に時間が過ぎてしまった。

「…………」
「ん? どした? 変な顔して」
「また会える?」

うっかり漏れた言葉にきょとりと目を丸くした魔族を見て、ぎゅっと唇を引き結んだ。
胸に巣食っていたもやもやがそのままこぼれ落ちてしまったようだけど……俺はいったい何を言ってるんだろう。

相手は魔族で、人類の敵で、もしかしたら俺を騙してるのかもしれなくて。
それでなくても、魔族と会うことなんて二度とないほうがいいはずなのに――誰かとこんなに話したのは、久しぶりだったから。

くるくると変わる表情を、あたりが明るくなるような笑顔を、もう少し見ていたいと思ってしまったから。
弾けるような笑い声を、もう少し聞いていたかったから。

「おう、またな! おっきくなれよ、少年!」

わしわしと俺の髪をかき混ぜて、魔族がにぱっと楽しげに笑う。
そんな顔はまったく魔族らしくなくて、俺もつられて小さく笑った。
笑ったのも久しぶりだった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。 ※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。 ※画像は男の子メーカーPicrewさんよりお借りしています。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています

たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話

処理中です...