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3変な魔族 【ゼノ】
しおりを挟む次に例の魔族と出会ったのは、勇者になって数年経った頃だった。
あちこちで侵攻してくる魔族と戦っていた俺に、とある辺境の村に行けという命令が下ったのがきっかけだ。
俺が勇者だという神託が下りたときと同様に、そこに聖女がいるという神託があったらしい。
『勇者についての神託が下ったとき、真っ先に勇者の住む村を燃やされた。今回もあのときのように無事に済むとは限らない。魔族の手が伸びる前に聖女を救い出して欲しい』
そんな内容の命令書を読んで思い出すのは、もちろんあの変な魔族のことだ。
あのとき、変な魔族は俺との打ち合わせの通りに村を燃やして、その後の確認もせずにかき消えた。
俺がさっさと消火したから村人の被害はまったくなく、元々壊す予定だった古い建物がいくつか燃えただけで終わった。
のちに騎士団が俺を迎えに来て、初めて魔族の仕業だとわかったものの、村人はみんな何とも言えない顔をしていたくらいだ。
「はあ、魔族、見てないけんども」という村長の言葉が、そのまま全員の気持ちを代弁していたと思う。
……俺が望んだ通りの展開ではあったけど、本当にあれで良かったんだろうか。
魔族は恐怖をまき散らし破壊を好むという話なのに、あの魔族はまったく違っていた。
火を放つなりそそくさといなくなって、その後の確認にも来なかった。
あんな中途半端な焼き具合では、任務が失敗したとして叱られたんじゃないだろうか。
それとも、一応は村を焼いたとして褒められたのか。
あれから会えていないから、どちらだったかはわからない。
――またな、って言っていたくせに。
ほとぼりが冷めたら、どうなったかの確認にくらい来ると思っていたのに。
いつ魔族が森にやってきてもいいように、あれこれと魔法も仕込んでおいたのに。
子どもの言うことを簡単に信じるような馬鹿だから、約束も覚えていられなかったんだろうか。
✢
聖女が住むという村に着いたあと、騎士たちを置いて森に入った。
こうすればあの魔族に会えそうな気がした、などという殊勝な理由ではまったくない。
なんの因果かわからないが、森の中にあの魔族の気配を感じたからだ。
もしかして、また村を焼きに来たんだろうか?
それともようやく、俺に会いに来てくれたとか?
十歳の頃に一度会ったきりだったが、あの魔族の気配はちゃんと覚えている。
あれから勇者として何度も魔族を屠ってきたが、そのどれとも違う澄んだ気配だ。
まったく魔族らしくなくて、ひどく懐かしいその気配が、なぜか同じところをうろうろと歩き回っている。
森の中でいったい何をしているのか。
相変わらず、変な魔族だ。
「どうした?」
「しょ、少年! 少年んんんんん!! たすけてたすけてどうしよう!」
「落ち着け。なんだ、どうした」
「なんかいろいろあってこの子倒れちゃったんだけど、どうしよう!?」
再会の挨拶より先に勢いよく飛びつかれて、目を白黒させながら周囲を見渡すと、確かに女の子が倒れていた。
森の中ではこの上なく目立つ、真っ白な髪をした同年代の少女だ。蒼白な顔で倒れてはいるが、外傷はない。
魔族に抱きつかれたままそっと手首に触れてみたけど、熱などの不調もないようだ。
おそらく魔力切れだろう。
その原因は、この変な魔族……ではなく、おそらく魔獣との戦いによるものだ。
彼女と魔族を取り囲むようにおびただしい数の魔獣の死体が転がっている。
それも、どれも焼き殺されたのか、ぷすぷすと煙をあげて焦げ臭い匂いを放っている。
倒れている少女がやったのか、この魔族がやったのかはわからないが、これだけ倒せるのは大したものだ。
……うかつにも森の中で炎を使うあたり、なんとなく魔族の仕業のような気がしているが。
「心配ない、ただの魔力切れだろう」
「ひぇ、魔力って切れると倒れるの!?」
「そんなことも知らないのか。……それで、これは?」
「いやもうなんにもわかんない! 人遣いの荒い上司がまた村を焼いてこいって言うから来てみたら、女の子が魔獣に囲まれてんじゃん? キラキラ~って光る結界で対抗してたけど、どう見ても苦戦してるじゃん? とりあえず慌てて全部焼肉にするじゃん? なのになぜか女の子が倒れちゃうじゃん? お、俺、なんも悪いことしてないよな? な?」
「…………ああ、うん」
動転しきって胸ぐらを揺さぶってくる手をそっと外し、曖昧に答えて目を逸らす。
魔族に聞く限りでは、特に悪いことはしていない。
むしろ人間を救っている。
延焼しそうになって焦ったのか、水魔法で消火した形跡もある。
――それが魔族として正しいのかはわからないが。
なんで魔族のくせに、咄嗟に人間を助けてしまうのかもわからないが。
どうせ村を焼いてこいと言われたなら、火を消す必要だってないと思うんだが。
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