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スライむてきせいかつ 3
しおりを挟むふくろに入ってるのって、ひまなんだねぇ。
まわりの景色も見えないしー、ごしゅじんさまとお話もできないしー、おっきいお手手をむぎゅむぎゅすることもできないしー。
ひとりぼっちのスライムだったときみたいで、なんだかちょっと、いやーなきもち。
ごしゅじんさま、どうしてるかなあ。
まだ武器屋さんにいるのかなあ。
左手をにゅにゅっと変形させて、ごしゅじんさまの手を作ってみる。
うーーん、もうちょっと大きいかな。指が長くてー、ごつごつしててー、指先はちょっと硬くなっててー。
むう、なかなかじょうずにできない。
なんとなく似ているふうにはできたけど、こんなのごしゅじんさまの手じゃない。
ごしゅじんさまの手はもっと、かっこよくてあったかくて、触ると心がふわふわするもん。
「ほう、こりゃ上玉だ。少し育ちすぎだが、高く売れるぞ」
「だろ?ちょっと見ねぇくらい、綺麗な顔してらぁ」
「おじさんたち、だあれ?ここはどこ?」
やっとふくろが開いたから、きょろきょろと辺りをかくにんした。
暗くてちょっとじめじめした部屋で、すみっこに硬そうなベッドがひとつあるだけ。とびらはダンジョンのヌシの部屋みたいな、重そうなやつ。
そんなに広くない部屋だけど、ぼくのまわりには三人の男の人が立っていて、わからないことをしゃべってる。
じょうだまってなんだろう。うれるってなんのことなのかなあ。
ごしゅじんさまならなんでも答えてくれるのに、この人たちは答えてくれない。
「これで中身は幼いとかたまんねぇな。少し味見してもいいだろ?」
「この変態め。痕はつけるなよ」
ひとりがぼくの手を掴んで、もうひとりがぼくの服をやぶった。
びりっとひどい音がして、ボタンがぶちぶちとはじけとぶ。
―――ボタン、
ごしゅじんさまが、ぼくに買ってくれたボタン。
まだじょうずにボタンが止められなくて、いっぱい練習してたとき、『でかい方がやりやすいだろ』って買ってくれた、白くてまあるい木のボタン。
そのボタンに交換してもらってから、ちゃんと自分で服が着られるようになって、ごしゅじんさまが褒めてくれて。
でも今日はちょっとしっぱいして、ひとつずつずらしてとめちゃってたのを、ごしゅじんさまが直してくれた。
「ずれてんぞ」って小さく笑ってはめなおして、「よしできた」ってなでてくれた。
―――ぼくの、ボタン。
手をつかまれて動けなかったから、『ぎたい』をやめてぽよぽよになった。「うわあ!?」っておじさんたちがおどろいてるけど、ぽよぽよ跳ねてぼたんをひろう。
ひとーつ、ふたーつ、あ、あそこにも!
あれ、このボタンなんかちょっとビリビリする?
なあんだおじさんの魔法かあ、びっくりしたあ。
んん?
でもなんでカミナリしたんだろ?
ダンジョンの罠よりずいぶん弱いけど、練習でもしたかったのかなあ?
「なんでスライムなのに魔法が効かない!」
「雷が駄目なら燃やすしかねぇ!油持ってこい!」
「変化するスライムなんているわけねぇだろ! もっと上級の魔物がスライムに化けてんじゃねぇのか!?」
おじさんたちが大騒ぎして、あっという間にたくさんの人が集まってきた。
大きい人、小さい人、男の人、女の人。みんないろんな武器を持ってて、なんかちょっとダンジョンみたい。
なにか魔物が出たのかな?
たくさんの人たちは、みんな武器をかまえてこうげきをはじめた。
あちこちから弓とか爆弾が飛んできて、ピカッて光るとカミナリでビリビリして、ときどきどおんって爆発が起こる。
槍や剣がぼくにささって、ちょっとからだがうにょんってなる。
ぜんぜんいたくないからだいじょうぶだけど、困ったなあ。
あとひとつでボタンがぜんぶそろうのに、人がいっぱいで探せない。
まわりをぐるっと囲まれてるから、ぽよぽよ跳ねることもできない。
こんなにあちこち燃えちゃって、ボタンが焦げちゃったらどうしよう。
「くっ……! これでもだめなんて、もう……「おい、何やってる」
「あ! ごしゅじんさま! あのね、ボタンがね、」
「はあ?ボタン?」
「うん。さっき、このおじさんがビリッてしたから、拾ってるんだけどね、」
「……ふうん、なるほど」
ぐるりとごしゅじんさまが辺りを見回して、ほんの少し目を細める。
ぼくもそれにつられてぐるっと部屋をみわたしたけど、あれー、いつのまにこんなことになってたんだろ。
石の壁は吹き飛んで、いつのまにか外が見えてる。
おじさんたちもぼろぼろで、あちこち傷ついてぐったりしてる。動ける人はほんの少しで、その人たちも、もう戦う元気はないみたい。
もしかして、すごく強い魔物だったのかな。
ぼくは見つけられなかったけど、ごしゅじんさまが倒したのかな。
ごしゅじんさま、そのためにここに来たのかな?
「……おまえなぁ…………まあいい、それは帰ってからだ」
おじさんたちに眠りの魔法をかけてから、ごしゅじんさまがぽよぽよのぼくをだっこする。
『ぎたい』して首に抱きついたら、やっぱりごしゅじんさまはあったかかった。
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