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本編
抱擁 2 〚キサ〛
しおりを挟むカナを連れて、家に戻ってきた。
家と言っても殺風景な部屋だ。高校になると同時に住み始めたのに、どこか冷え切って閑散としている。
クズ男がまとめてぽんと出した学費と養育費。それらを母親から分捕って家を出て、それ以来奴らには会っていない。
立派な檻に閉じ込められたクソ犬にも、下衆い飼い主にも会わない生活は快適そのものだ。
部屋にあるのは、ベッドと机とギター。壁際のラックの、たくさんのCD。以上。
カナが、俺の顔と部屋を交互に見ている。でっかい目をまんまるくして。
―――子供みてーだ。
「そこ座ってろ。コーヒーでいいか?……飲めるか?」
「飲めるよ!……砂糖と牛乳があれば。」
やっぱり子供だ。忍び笑ったらふくれるところも、それでいて、わしゃわしゃと撫でれば嬉しそうにするところも。
ご要望どおりに準備をして、ベッドに座るカナの横に腰掛けた。
「カナ。何があった。」
こいつの表情を読むことは相変わらず難しい。
このちっさい頭で色々考えているのに、いろいろと抱え込んでいるのに、それを容易には吐き出さないやつだ。
口を開けば、能天気で楽しい話ばかり。それでいて、歌にはくすぶった感情が篭っていたりする。
ひとつの変化も見逃さないようにじっと見つめていたら、一瞬目を泳がせたカナがへらりと笑った。
「ちょっと絡まれてたら、ダグさんが助けてくれたんだー。ほら、俺、弱そうだから、」
「正直に話せ。」
もう一度問い詰めれば、またカナの目が泳いだ。
縋り付くように眉根を寄せて、不安げにカップを握りしめて、動揺を押し隠そうとしているのがわかる。
ひどい苛立ちが湧き上がって、がりっとくちびるに噛み付いた。
牙を立てて至近距離で睨みつけ、もう一度促す。
名前を呼んだら、カナの目が潤んだ。
手も震えて、はくりとくちびるが動く。
「………カズが、」
そこまで言ったらぽろりと涙がこぼれ、驚いたように拭おうとした手を掴む。
カズ。あいつか。カナへの執着とゲイへの偏見と、ちっぽけなプライドを抱えたひねこびた男。
涙をキスで掬いながら、震える背中をさすりながら、ほろりとこぼれる言葉を集めた。
―――どこまでも見下げ果てた男だ。
“plena”を逆手にカナを脅し、きっぱりと断れば無理矢理にでも手籠めにしようとする。
あいつもひょろかったが、カナほど細くはない。運良くダグが居合わせなかったら、きっと抵抗には苦労しただろう。
カップを取り上げて、冷え切った指に指を絡めた。
腹立たしさは無論ある。
けど、ゲイだと告白して俯いたカナが、外で触れると人目を気にするカナが、『だからどうした』と撥ね退けたことへの嬉しさもある。
たとえ世界に後ろ指を指されようと、俺たちなら、だからどうしたと笑える。
きっと、カナも、そう思ったのだろう。
「カナ。手ぇ出せ。」
小さな手だ。やわで華奢なくせに、指先だけは硬い、ギタリストの手。
手首にひとつキスをして、細い手首にバングルを嵌める。
ダグとルディがどこかの国で見つけたという揃いのバングル。
焦げ茶の木と金でできた男用のものと、薄茶の木とピンクゴールドでできた女用のもの。
どちらもごく細く、複雑な波模様が全面に刻まれている。
『ステディがいないだろうイブに嫌がらせとして買ってきたのに、まさかいるとはなぁ!』
そんな風に茶化しながら嬉しそうに笑ったルディと、仏頂面をすこしだけ緩めたダグ。相変わらずのふたりに呆れると同時にむず痒いような気持ちになった。
ぱちりと目を瞬いたカナが、俺の顔とバングルを交互に見る。ぽかんと開いたままのくちびるにキスをして、もう一つをカナに渡した。
同時に手首を差し出して軽く振れば、ぽうっとしたままのカナが恐る恐るそれをつけて。
……さすがのセンスだ。ピアスも全部もらったものだが、今のところ外れはない。
「キサちゃん、これ……」
「カナ。お前となら、世界に笑われても構わない。」
ぼろっと泣いたカナの涙を舐めとって、くちびるに噛み付く。
しょっぱいくせにどこか甘くて、ふっと笑ったらカナも笑った。
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