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本編
わかってる? 1 〚カナ〛
しおりを挟むモデルさんかと思うような美人なのに、ルディさんは気さくというかなんというか……面白いひとだ。
他国でひどい目に遭った話なんかをあっけらかんと話したかと思えば、ダグさんの行動でむくれたり赤くなったりと忙しい。
迫力ある美形のダグさんと並ぶとものすごく人目を惹くのに、周りなんて一切気にしない。キサちゃんは「いちゃつく」としか言ってなかったけど、まさかここまでとは。
ふたりとも見るからに男なのに、道端でも手を繋ぐし、外国の人だからか頬へのキスは普通にする。
さらに、ルディさんが話しすぎているとダグさんがキスで口を塞いだりもする。
いちおう、口へのキスは周りに人がいないときだったけど、……俺の存在忘れてるんだろうか?
キサちゃんを脅迫じみた電話で呼び出したルディさんに言われるがまま、俺も携帯の電源を落とした。
「イブきっと焦るよー。焦ったとこなんて見たことないんじゃない?」
「小さい頃からふてぶてしかったしな。俺の顔を見て泣かない子供は珍しい。」
キサちゃんの焦ったとこ。確かに見たことないかもしれない。
強いて言うなら飛び降りの瞬間見た顔だろうか。でもあのときは緊張やら驚きやらで俺こそいっぱいいっぱいだったから正直あまり覚えていない。
思い出話を聞きながら待てば、走って来てくれた。
ふたりから隠すように俺を抱きしめて、いろんなところを触られて身体が震える。
ぎゅうっと抱き込まれて、聞こえる鼓動はひどく速い。
大急ぎで来てくれたんだろう、ラフなジャージ姿に、乱れた髪。
ぎゅっと抱きしめる逞しい腕に、すこし汗ばんだ肌に、自然と頬が熱くなってしまう。
ぽうっとしていたらなぜだかルディさんに抱き込まれた。
なんで、なにが、と目を白黒させていたら、キサちゃんが腕を広げて俺を呼ぶ。
嬉しくて駆け寄って抱きついて、ぎゅうっとしがみついたら、優しく髪が撫でられた。
✢
あの日はじめて、キサちゃんの家に行った。
折り合いの悪いご両親と離れて暮らしているらしく、殺風景なワンルーム。ギターとCD以外は最低限のものだけ。そんなキサちゃんらしすぎる部屋に感動してしまった。
キサちゃんは、大きい人だ。
すべてを吐き出して、男のくせに情けなく泣いても、何も言わない。
ただ優しくキスをして、抱きしめてくれただけ。
髪をなでて、背中を擦って、けれど慰めたりはしない。
俺がそれを望んでいないと、きっとわかっているんだろう。慰められるようなことはなにもない。整理できない感情が涙になってあふれただけで、悲しくもつらくもない。キサちゃんが泣かせてくれるから、泣いてしまうだけ。
キサちゃんは、ずるい。
俯くなって、抗えって示すのに、こうやって俺を甘やかす。
優しくやさしく俺を抱きしめて、つつみこんで。
そして、望みもしないほどの幸せを、与えてくれる。
腕に嵌まる、薄茶の木とピンクゴールドの、細いバングル。
「カナ。お前となら、世界に笑われても構わない。」
そんな、この上ない愛を囁いて、ぼろっとこぼれた涙を舐めとって、噛み付くようなキス。満足気な微笑み。
嬉しくて、嬉しすぎて、泣きながら笑った。
あの日から、ふとした瞬間に、というか頻繁に、バングルを眺めてしまう。
キサちゃんのは焦げ茶と金でよく似合ってたなとか。
俺も、キサちゃんといれるなら、世界に笑われても構わないなとか。むしろ自慢したいくらいだなとか。
そんなことを思うたびに赤くなったりにやけたりするから、とうとう追及されてしまった。
「で?秘密主義なハルちゃんはそろそろ恋人のことを聞かせてくれるの?」
「え、な、なんで、」
「そーんなかわいい顔でずっとバングル弄ってて、気づかない方が無理でしょうよ。」
女の子たちからの追及に男たちに助けを求めれば、お手上げのポーズ。
根掘り葉掘りと聞かれては躱すのにも限界が来て、どの程度話したら許してもらえるだろうかと考えていたら、周囲がしんと静まりかえった。
さっきまではしゃいでた子たちも、その周りの男たちも、ぽかーんと俺の後ろを見てる。
なんだろ?と振り向きかけたら、大きな手で目が塞がれた。
―――え、なん、で。
見えなくても、一言も話してなくても、俺がこの人を間違えるはずない。
キサちゃん。
混乱のあまり固まってたら、背後でくすりと笑う声がした。
大きな手の隙間から見える女の子の顔がぼっと赤くなって、思わずキサちゃんの手を掴んで走り出す。
静まりかえった周囲は、みんなキサちゃんを見ている。柔らかく笑って、色気とフェロモンを振りまくキサちゃんを。
―――ああ、もう、なんで声を上げて笑うのー!
自慢したいくらいだと思ったけど、前言撤回!
キサちゃんは、隠しとかないと大変なことになる。……隠せるような人じゃないけど!
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