リフレイン

桃瀬わさび

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本編

トモとミヤの場合 2 〚トモ〛

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ゲイなのかと言われるとよくわからない。
でもミヤを好きであることをゲイと呼ぶのなら、間違いなくゲイだ。
高2の頃、カナと出会った。ゲイ同士はにおいでわかるのか、人を探しているらしいちっこいのにミヤが声を掛けて、自然と3人でつるむようになって。
ギターをすこしやるというから聞いてみたら、クソうまかった。それこそ、今のバンドのギターなんてメじゃない。
身体もちっこいし手もちっこいのに、信じられないほどに重いギター。即興だと言った、惹きつけるメロディ。

高3になって、他のふたりがバンドを辞めると言い出した瞬間から、俺とミヤの中にはカナとやるビジョンしかなかった。
ボーカルは自信ないとカナが言うから、カズを入れて活動して、軌道に乗ってきたころにひどい形で脱退して。
ミヤは「ホモなのは事実だからしょうがないよ」なんて笑ってたけど、2年近く共に過ごした相手の心無い言葉に傷ついていたのは知ってる。
二度とこんな思いはさせたくない。その一心で次のボーカルにはゲイだと予め打ち明けようと言ったから、そんな簡単に見つからないだろうと思っていた。

……思っていたんだけどなぁ。


初めてにしてまさかの完売を叩き出したワンマンライブ。
光を集めて人を魅了する非凡な男。顔も、体格も、歌も、声も。すべてを持ち合わせた男の最も非凡なところは、その強靭な精神だろう。
ぶっつけでいきなりステージにあげられて余裕で歌った最初のライブ。
ゲイだという話も、カナの気持ちも軽々と受け入れて、「だからどうした」と言う。
俺とミヤに対してもあまりにもフラットに接するから、もしかして関係を知らないのではと思えば、普通に知っていた。

「あんたらはふたりでいる方が自然だ。」

そうこぼしてふっと笑うから、ミヤとふたりで思わず赤面したっけ。キサは本当に人たらしで困る。
基本的に誰も寄せ付けないくせに、カナにはべたべたに甘いし、フェロモンだだもれだし、身内と認定されたらしい俺たちにも贔屓目が激しい。
そのくせ、自分の凄さは全然わかってなくてタチが悪い。

うますぎる歌とかすごすぎる新曲とかにミヤとふたりですげーすげーとはしゃいでいたら、少し眉を顰めて「ふたりの音の方がすごい。この曲のここのところとか。」なんて言ったりする。
……カナは苦労するぜ、まったく。






いつも“plena”はMCはほとんどやらない。
けどさすがにワンマンでそれはないだろうと話したら、何故か俺にお鉢が回ってきた。
あのキサがやるわけない。カナがキサを差し置いてやるはずもない。俺か、ミヤか、……ミヤはノリはいいが自分からぺらぺら話すタイプではないし、消去法で俺だ。
なるほどとクソッタレという気持ちが入り混じったので、仕返しをすることにした。こいつらなんて、客の前で驚いちまえ。

「どうも、“plena”です。」

まずは挨拶。次の小休止で、お決まりのメンバー紹介と、グッズとCDの紹介。ライブの終盤で話すことはもう決めている。
初めてのワンマンだけど、キサは化物だ。
何曲歌っても声量は衰えないし、声が震えることもない。ボーカル特有の、声が出ないなんていう悩みとは無縁なのだろう。
カナもよくついていく。ギターはもちろん、中性的な高い声がキサのマスタードボイスと絡まって、高めあって、歌を作り上げていく。
若いふたりに引っ張られて、俺もミヤもいつも以上に熱い。
4人のグルーヴがぴたりと噛み合って、音の波が理性を攫って、本能のまま、ただ走る。
無限の可能性を感じるのは、こんなときだ。
ミヤ。カナ。キサ。それと、俺。
この4人なら、どこへだって行ける。
―――たとえば、真夏のロックフェスにだって。


「実はまだメンバーにも知らせてない重大発表があります。」

ミヤ、驚いてるな。たぶん何かわかったんだろう。
カナは怪訝な顔。というかちょっとブッ飛んでいる?そりゃ、キサとあれだけ戦うのは疲れるだろう。カナでなければ出来ない。
キサ。こいつは本当によくわからんな。ごくごくと水を飲んで、少しだけ目を眇めて俺を見る。

「8月。サマーグルーヴに参戦します。」

わぁぁぁああと会場が湧くなか、俺はミヤだけを見ていた。
あまり見せない、満面の笑顔を。
ぎらぎらとしたライトの中で輝く笑顔に、興奮して潤んだ瞳に、抱きしめたくて仕方なくなる。
カナも、とろけるように笑った。それをキサが見てすこし手を動かし、思い直したかのようにマイクを握る。

ちらりとカナを見てにっと笑ったキサが、唐突に歌いはじめた。曲は、カナリア。

……おいおい、予定ではそれはラストだろ。
カナへのラブソングが歌いたいからって、ほんと、勝手なやつ。

カナが即座についていき、すこし遅れてミヤが、俺が、ついていく。
甘くあまく歌われるバラード。
どこか官能的な響きに、観客が身動ぎもせずに聴き入る。



サマーグルーヴでは、どうなるだろうか。
フェス自体経験がないのに、いきなり最大級のフェス。
俺たちなら行けると思ったくせに、結果を見てまさか本当に行けるとは、とも思った。
数千にも及ぶ応募者からわずか数組。しかも、審査員の目に敵うものがいなければ通過者が出ないこともある。
そんな狭き門を、一発でくぐれると、誰が思うか。……思ったんだけどさ。

そしてそれは、自惚れではなかった。


ライブ中だというのに、思わず笑いがこぼれた。
ミヤが俺を見て、同じように笑う。

この、光に白く飛んだ世界で、どこまでも走ろうと、そう思った。



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