リフレイン

桃瀬わさび

文字の大きさ
37 / 52
本編

会えなくて 3 〚カナ〛

しおりを挟む

『色々終わらせたら、会いに行く。』

その言葉を、毎日、何度も思い出す。
最後に会ったのは、9月。今は11月。レコーディングのときは会えるかと思ったのに、別録りで日程が組まれてしまって、結局会えなかった。
作為的なものを感じてしまうのは、穿ちすぎだろうか?

ひとりきりのレコーディングスタジオで、トモとミヤの音をヘッドホンで聞きながらギターを弾く。
いつだってギターを弾く時は熱く熱く昂ぶるのに、今日はひどく冷たい。
長く付き合っている相棒は、いつもは俺に呼応してくれるのに、今日はしらんぷりでそっぽを向いている。
集中しろと思うけど、そう考えている時点で集中できていない。
ああ、音が、逃げていく。


「全然だめね。これじゃあ、哭くような、じゃなくて、泣き虫なギターだわ。」

わかってる、俺だって。泉さんに言われなくても。
どうやったら前みたいに力強く弾けるのかわからない。
どうやったら、ライブの時みたいに、熱く滾るのかも。
何回もリテイクをくらって休憩を言い渡されて、ずるずると崩れ落ちた。
視界に入った、攻撃的な黒のピンヒール。
泉さん。思えばこの人に初めて会ったあの日から、キサちゃんに会っていないんだ。

「……困ったわね。キサの選んだ相手ならもう少し強いかと思ったんだけど。キサも案外大したことないのかしら?」
「なっ……!」
「悔しかったら見返すことね。」

剣呑に髪を掻き上げた泉さんが、ヒールの足音高く去っていく。
キサちゃんが大したことない?そんなはずない。
俺が情けないせいで?………そんなの、許せるはずない。
ぎっと歯を食いしばって、バングルを無理矢理に外した。手首に引っ掻き傷が出来たけど、それに構わず袖を捲くって深呼吸する。

―――簡単だ。蔑まれたら、抗えばいい。




ぱんと頬を叩いて、不格好に笑った。
キサちゃんほど強くはなれなくても、せめて強がりたい。

ぎゅっとギターを掴んで、スタジオに戻る。
もう一度チューニングして気持ちを落ち着けて、ヘッドホンをして、ポケットからバングルを取り出しマイクに引っ掛けた。


どうやったら気持ちが昂ぶるのか、どうやったら集中できるのか、そんなことを考えていたのが嘘みたいだ。
怒りがそのまま熱になって、音に気持ちが乗る。
マイクにぶら下がるバングルが、やわらかく光る。

キサちゃん。
俺のギターは、キサちゃんのためのギターだ。

会えなくて、見失いかけていた。
いつのまにか、贅沢になっていた。
俺の音で、キサちゃんが歌う。それがどんなにすごいことか、忘れかけていた。

バングルの向こうに、キサちゃんの横顔を幻視する。
ライブの時の、獰猛な瞳を。光を集める、その存在を。


指先も身体も熱くなって、そこから先は、ただ夢中で音に溺れた。









しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...