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招かれた理由
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「すみません、私だけはしゃいでしまって、お困りですよね?」
そう言ってから、照れて俯いていたセリカは静かに立ち上がり、短いワンピースの裾を直すとこちらに一礼した。
直す寸前に覗いた太腿の艶めかしさに俺は息を飲んでしまった。
「君がさっき言ってくれた言葉に対しては困惑という感情は無い。でも現状の状況がわからずに困惑はしている」
異性を意識して会話する時、相手のことを二人称で呼んでしまう癖がある。
それが原因で終わってしまった人間関係も過去にはあった。
気恥ずかしいという感情とは少し違うのだろうが、口から名前を出すことが出来なくなる。
不思議なもので、この癖には該当する人間と該当しない人間が居るということ。
名前を口にすることが躊躇われる人間と、気安く口に出来る人間の両者があるということだ。
俺の深層心理でその振り分けが、どのようなプロセスを経て行われているのかは定かではないが厄介な癖ということは確かである。
それは置いておくとして、全裸状態で愛の告白をされたわけだが、彼女の正体以外はすべて謎のままである。
ここが何処なのか、何故ここにいるのか、そして何故彼女は人間になったのか。
「……ありがとうございます、ご主人さま。ではこの三日間で起こった出来事を私が知る限りお話しします」
座る角度は90°、姿勢良くベッドサイドの椅子に掛け直し説明をはじめた。
「こちらをご覧下さい」
どこから取り出したのか、板のようなものをひざの上に乗せる。
その板を俺に見えるように若干傾けつつ両手で支えた。
おい、そのフリップボードはどこから出した?
「一度しか再生出来ませんので、よくご覧になって下さいね」
そう念押しすると、人差し指を立てる仕草をした。
そして次の瞬間、フリップボードとおぼしき物体は青白い光を放ち、まるで液晶ディスプレイのように映像が流れはじめた。
---------
「そうだ、娘よ。 我にはその者がどのような魔法が使えるのか、その魔法がどういう効果をもつのかがわかるのだ」
フリップボードに浮かびあがる映像には、だだっ広い礼拝堂のような場所が見えた。
低く、良く通る声が反響する。
次にカメラがパンするように真っ白い猫と、長い金髪を巻き髪にし所々にピンク色のメッシュの入った盛り髪の天使がアップになった。
低く腹に響く声の主が猫であった事も気になったが、それ以上に天使の見た目のケバさが気になった。
喋る猫と、純白の四つの翼を纏ったギャルの映像が続く。
「我の見たところ、そなたには見たものを最大で三分間記録出来る、という魔法を持っているようだな。記録の再生は三日以内で一度限り、膨大な魔力を消費する代物のようだが」
偉そうに喋り続ける猫にどことなく見覚えがあるような気がする。
「我はこの地に余り長く滞在することが出来ん故、この者が目覚めたら今から話す内容を見せてやってはくれないか?」
猫は隣のギャルのほうを向くと、顎を突き出すようにしながら首をふいっと横に振り指図をした。
すると隣のギャルは先程のフリップボードをそそくさと手渡してきた。
「我の力が込めてある、そなたの魔力を使う事はないので安心して魔法を行使するがよい、さぁ!」
猫の言葉の直後、見えていた視界が暗転する。
急に真っ暗になったのは、この主観映像の視界の主が目を閉じたことによるものだろう。
「――録画を開始します」
どこからともなく機械音声のような女性の声が響く。
すると映像が一瞬赤くなった後、また元の色に戻った。
……って、ドラレコの音声じゃねぇかこれ。
こほん、と咳払いをして猫が正面に向き直る。
「我は、この世界の神だ」
猫が神妙そうな面持ちで言う。
ドライブレコーダーには常時録画と、イベント録画機能がついている。
イベント録画機能とは、衝撃を検知してからの記録と衝撃検知前の記録。
猫の前フリが記録されていることから、魔法としてのこの機能はイベント録画機能に近いようだ。
つまり、この映像は偉そうな猫が記録させているもの、ということか。
「そしてそなたは違う世界から我々の住む世界へと転移してしまった」
そなたというのは俺に対する呼びかけか?
だとすれば、これは猫から俺に対するメッセージ。
「転移の原因はこの智天使ケルビムによる禁忌の魔法が原因だ」
横にいたギャルが、てへぺろの仕草をする。
グラマラスでエロい身体をしているのが一層腹立たしかった。
今すぐぶん殴りたい衝動に駆られたが、尚も神と称する猫の言葉は続く。
「元々は魔王と72体の悪魔を滅ぼすための救世主を召喚する魔法として作られたものだ」
長い尻尾をゆらゆらとさせながら凄んで見せる猫。
「もっとも、使用されること無く天界と魔界の戦は終わりを告げ、その魔法は禁忌とされ何万年もの月日が経ったのだが……。 悠久の時を生きる天使の好奇心と暇つぶしにより行使されてしまった」
横にいたギャルが今度は、両手を目の下に当て嘘泣きのポーズをとる。
再びぶん殴りたい衝動に駆られる。
「前例が無いのでそなたが元の世界に帰れるか、何故そなたが選ばれたのか、それはわからない」
自称『神』に「わからない」ことがあるのか?
神とは全知全能と相場が決まってるものだろうに。
「この魔法は呼び寄せられた者を、この世界でのあるべき姿形で召喚するもの。 ……体よく言えば、その者の資質を改ざんして、我らが戦力とする為のものだった」
真っ直ぐこちらに視線を向けていた猫が視線を逸らす。
……あまり趣味が良い、とは言えない魔法だ。
「この娘、元の世界では無機物だったと聞いた。そもそもこの魔法は人の形をとる生命体をただ一人この地へ呼び寄せるものだったはずなのだ」
猫が喋る度にひげがヒョコヒョコと上下に動く。
「現状でそなたを元の世界に送り還す手立てが無い上に、このような事態になってしまったのは我の不徳の致すところ。 お詫びにとはいかんが、そなたらがこの世界で過ごすための助力を約束しよう」
長い尻尾を揃えられた前足にクルっと巻きつけ、猫はペコリとおじぎをした。
「ケルビムにも然るべき罰を与える、我も事態の解決策を思案する」
そこまで言うと、猫は横に立つギャルに視線を向け睨みつけた。
一瞬ビクっと肩を震わせると、頬に両ひとさし指を沿え、顔を横に傾けながら引きつった笑みでこちらを向くギャル。
その煽っているようにしか見えないポーズは誤魔化してるつもりなのか?
「我が直接この地に赴くと天変地異の異常が起こる危険性がある故、伝令役兼世話役の者にそなたらのことは任せるとしよう。 では、そなたらの行く末に祝福があらんことを」
---------
火の粉を散らすようにしてフリップボードが消滅し、そこで映像は終了した。
つまり、事の顛末は……。
ギャル天使の悪戯で異世界に招かれた、そういうことらしい。
――ふざけるな!!
単なる暇潰しに巻き込まれた、……だと?
そう言ってから、照れて俯いていたセリカは静かに立ち上がり、短いワンピースの裾を直すとこちらに一礼した。
直す寸前に覗いた太腿の艶めかしさに俺は息を飲んでしまった。
「君がさっき言ってくれた言葉に対しては困惑という感情は無い。でも現状の状況がわからずに困惑はしている」
異性を意識して会話する時、相手のことを二人称で呼んでしまう癖がある。
それが原因で終わってしまった人間関係も過去にはあった。
気恥ずかしいという感情とは少し違うのだろうが、口から名前を出すことが出来なくなる。
不思議なもので、この癖には該当する人間と該当しない人間が居るということ。
名前を口にすることが躊躇われる人間と、気安く口に出来る人間の両者があるということだ。
俺の深層心理でその振り分けが、どのようなプロセスを経て行われているのかは定かではないが厄介な癖ということは確かである。
それは置いておくとして、全裸状態で愛の告白をされたわけだが、彼女の正体以外はすべて謎のままである。
ここが何処なのか、何故ここにいるのか、そして何故彼女は人間になったのか。
「……ありがとうございます、ご主人さま。ではこの三日間で起こった出来事を私が知る限りお話しします」
座る角度は90°、姿勢良くベッドサイドの椅子に掛け直し説明をはじめた。
「こちらをご覧下さい」
どこから取り出したのか、板のようなものをひざの上に乗せる。
その板を俺に見えるように若干傾けつつ両手で支えた。
おい、そのフリップボードはどこから出した?
「一度しか再生出来ませんので、よくご覧になって下さいね」
そう念押しすると、人差し指を立てる仕草をした。
そして次の瞬間、フリップボードとおぼしき物体は青白い光を放ち、まるで液晶ディスプレイのように映像が流れはじめた。
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「そうだ、娘よ。 我にはその者がどのような魔法が使えるのか、その魔法がどういう効果をもつのかがわかるのだ」
フリップボードに浮かびあがる映像には、だだっ広い礼拝堂のような場所が見えた。
低く、良く通る声が反響する。
次にカメラがパンするように真っ白い猫と、長い金髪を巻き髪にし所々にピンク色のメッシュの入った盛り髪の天使がアップになった。
低く腹に響く声の主が猫であった事も気になったが、それ以上に天使の見た目のケバさが気になった。
喋る猫と、純白の四つの翼を纏ったギャルの映像が続く。
「我の見たところ、そなたには見たものを最大で三分間記録出来る、という魔法を持っているようだな。記録の再生は三日以内で一度限り、膨大な魔力を消費する代物のようだが」
偉そうに喋り続ける猫にどことなく見覚えがあるような気がする。
「我はこの地に余り長く滞在することが出来ん故、この者が目覚めたら今から話す内容を見せてやってはくれないか?」
猫は隣のギャルのほうを向くと、顎を突き出すようにしながら首をふいっと横に振り指図をした。
すると隣のギャルは先程のフリップボードをそそくさと手渡してきた。
「我の力が込めてある、そなたの魔力を使う事はないので安心して魔法を行使するがよい、さぁ!」
猫の言葉の直後、見えていた視界が暗転する。
急に真っ暗になったのは、この主観映像の視界の主が目を閉じたことによるものだろう。
「――録画を開始します」
どこからともなく機械音声のような女性の声が響く。
すると映像が一瞬赤くなった後、また元の色に戻った。
……って、ドラレコの音声じゃねぇかこれ。
こほん、と咳払いをして猫が正面に向き直る。
「我は、この世界の神だ」
猫が神妙そうな面持ちで言う。
ドライブレコーダーには常時録画と、イベント録画機能がついている。
イベント録画機能とは、衝撃を検知してからの記録と衝撃検知前の記録。
猫の前フリが記録されていることから、魔法としてのこの機能はイベント録画機能に近いようだ。
つまり、この映像は偉そうな猫が記録させているもの、ということか。
「そしてそなたは違う世界から我々の住む世界へと転移してしまった」
そなたというのは俺に対する呼びかけか?
だとすれば、これは猫から俺に対するメッセージ。
「転移の原因はこの智天使ケルビムによる禁忌の魔法が原因だ」
横にいたギャルが、てへぺろの仕草をする。
グラマラスでエロい身体をしているのが一層腹立たしかった。
今すぐぶん殴りたい衝動に駆られたが、尚も神と称する猫の言葉は続く。
「元々は魔王と72体の悪魔を滅ぼすための救世主を召喚する魔法として作られたものだ」
長い尻尾をゆらゆらとさせながら凄んで見せる猫。
「もっとも、使用されること無く天界と魔界の戦は終わりを告げ、その魔法は禁忌とされ何万年もの月日が経ったのだが……。 悠久の時を生きる天使の好奇心と暇つぶしにより行使されてしまった」
横にいたギャルが今度は、両手を目の下に当て嘘泣きのポーズをとる。
再びぶん殴りたい衝動に駆られる。
「前例が無いのでそなたが元の世界に帰れるか、何故そなたが選ばれたのか、それはわからない」
自称『神』に「わからない」ことがあるのか?
神とは全知全能と相場が決まってるものだろうに。
「この魔法は呼び寄せられた者を、この世界でのあるべき姿形で召喚するもの。 ……体よく言えば、その者の資質を改ざんして、我らが戦力とする為のものだった」
真っ直ぐこちらに視線を向けていた猫が視線を逸らす。
……あまり趣味が良い、とは言えない魔法だ。
「この娘、元の世界では無機物だったと聞いた。そもそもこの魔法は人の形をとる生命体をただ一人この地へ呼び寄せるものだったはずなのだ」
猫が喋る度にひげがヒョコヒョコと上下に動く。
「現状でそなたを元の世界に送り還す手立てが無い上に、このような事態になってしまったのは我の不徳の致すところ。 お詫びにとはいかんが、そなたらがこの世界で過ごすための助力を約束しよう」
長い尻尾を揃えられた前足にクルっと巻きつけ、猫はペコリとおじぎをした。
「ケルビムにも然るべき罰を与える、我も事態の解決策を思案する」
そこまで言うと、猫は横に立つギャルに視線を向け睨みつけた。
一瞬ビクっと肩を震わせると、頬に両ひとさし指を沿え、顔を横に傾けながら引きつった笑みでこちらを向くギャル。
その煽っているようにしか見えないポーズは誤魔化してるつもりなのか?
「我が直接この地に赴くと天変地異の異常が起こる危険性がある故、伝令役兼世話役の者にそなたらのことは任せるとしよう。 では、そなたらの行く末に祝福があらんことを」
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火の粉を散らすようにしてフリップボードが消滅し、そこで映像は終了した。
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