透明な回想録 ~Transparent reminiscences~

スーパーアドシスO

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医務室にて 1

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医務室で俺は、双子の幼女とお医者さんごっこをしていた。
俺が患者で幼女が医者で。

まぁ、ごっこでは無く本当に治療してもらったわけだが。

「セラさまぁー、本当に常人に施してしまって宜しいのですかぁー?」

「黙りなさい、フル! セラ様のお考えに意見するなんて言語道断よ!」

狼に食いちぎられた傷も痛みも嘘のように綺麗さっぱりと消えていた。
まるで逆再生でもするかのように塞がっていくのを、ただ眺めているうちに傷痕すら残らず元通りになっていく様に愕きが隠せなかった。

医務室に着いた俺達は、えらく間延びした喋り方をする天使と、えらくツンツンした天使に治療をされたのだった。

医務室と聞いていたが、およそ不似合いに思える豪華なソファーや調度品。
仕切りの向こうに10基程のベッドが並べられている。
やはりこの部屋も規格外にデカい。

「ありがとう、オク、フル。 あなた達のお陰で助かったわ」

優しい声でそう言って、セラが二人の頭を撫でる。

「えへへっ、セラ様のお役に立てるならお安い御用です!」

「ねぇさまばっかりずるいー、フルも頑張りましたよぉー」

セラより更に小さい身長に童顔、二人とも長い髪を束ねてツインテールにしている。
違いは髪色と前髪くらいだろうか、誰が見ても双子だと認識出来るぐらいに瓜二つである。

フルと呼ばれた天使は銀髪で眉の下辺りで切り揃えられた前髪、オクと呼ばれた天使は黄色みの強い金髪で前髪は左右に分けられている。

あぁ、大きな違いがもう一つある。
オクは絶壁でフルはそこそこ立派な双丘をお持ちである。

「なに人の顔ジーっと見てるのよっ! 異常性癖者の汚い視線であたしを見ないで頂戴っ!」

身体が癒えたと思うと、襲い掛かる言葉の暴力。
見てたのは顔じゃなくて胸部だけどな。

「ねぇさまー、あんまりそういうこと言うの良くないと思いますよぉー」

「そんな事無いわっ! さっきはセラ様の頼みだから何も追及しなかったけど、見てご覧なさい、フル。 女装するような変態男よっ!」

座る俺の背後に走り寄ってきたオクがソファーの背もたれ部分から身を乗り出し、スリット部分を掴んでヒラヒラする。
一定の人種からすれば、この行為はご褒美なのだろうが、あいにく俺はその素養を持ち合わせていない。

そして、あんまりめくると大事な部分がもろだし状態になるんですが……。

「治療してくれた事には感謝しますけど、あんまり私のご主人さまで遊んでると、可愛い顔に消えないアザを作ることになりますよぉ?」

笑顔で握り拳を作ったセリカが優しい口調でオクに語りかける。
表情と口調は優しいが、恫喝としか感じられない禍々しいオーラを放ちながら。

俺をおもちゃにしていたオクは手を止め、怯えた小動物のようにセラの後ろに隠れていった。

「冗談ですっ」

ウインクしながら人差し指を口に沿え、語尾に音符マークでも付随するかのような口振りをするセリカ。
どう見てもあざとい仕草そのものだったが、心ときめいてしまった自分が憎い。

「ふふふ、ごめんなさいね。 二人とも天使以外の方とお話しする機会があんまりないからはしゃいでしまって」

左右両側でしがみ付く双子の頭を撫でながらセラが言う。

「……いや、割と強烈なキャラだったので少々面食らったのは確かだけど。 俺達のケガを治してくれてありがとうな」

双子の顔をそれぞれ交互に見て、俺は治療の礼を述べた。

「変態に礼を言われても全く嬉しくないけどっ!」

「ねぇさまぁー、素直にどういたしましてって言いましょうよぉー」

「黙りなさい、フル! あなたこの変態に籠絡でもされたのっ!?」

「そんなことないですよぉー、でも悪い人じゃなさそうですよぉー」


バタバタと身振り手振りの多い姉に対して、妹のほうは動きが非常におっとりとしていて、その対比が興趣をそそった。
そんな仲睦まじい双子のやりとりを微笑ましく見ていた。

「お二人に伝えておかなければならない重要なお話しがあります。 オク、フル、少しだけ静かにしておいて下さいね」


双子の鎮静化が終わると急にセラが真顔になった。



――――――――――――


「本来であればわたくしがお二人に治癒の魔法をかければ済んだのですが、先刻の悪魔による呪いでそうもいかなくなりました」

「……呪いで魔法が使えなくなったって事か?」

「端的に言えば、そういうことになりますね。 呪いの詳細についてはまだ解りかねますが、天使の力を封じる呪いであると推測しています」

鳥頭が最期に苦し紛れの最後っ屁のように放った一撃にそんな効果があったとは……。

「魔法で解呪とか出来たりしないのか?」

俺の怪我が跡形も無くなるような魔法があるんだ。
きっと呪いを解くことだって可能なはず。

「高位な悪魔の呪いを解く魔法はありません。 アンドラスは序列63番といえど強力な悪魔です。 ……呪いを解くにはアンドラスを完全に消滅させるか、魔王による解呪の二つしか方法は無いでしょうね」

あっさりと否定するセラの言葉。

「あの鳥頭は死んだんじゃないのか?」

アンドラスが負った傷はどう見ても致命傷に見えた。
あの場から消えたのは、ヤツが消滅したという訳じゃなかったのか?

「残念ながら取り逃がしてしまいました。 悪魔を滅するには姿形が完全に無くなるまで消滅させるか、この世界に生きる全ての者の記憶からその悪魔の存在を消し去るか、このどちらかしかありません。」

どっちの方法も酷く難易度が高いような気がする。

「……えらくシビアだな」

「わたくし達天使に関しても、自身で生きる事を辞めるか、核を破壊されるかのどちらかでしか消滅する事はありませんので、ある意味条件は五分ですね」

おいおい、そんなヤツらが戦争してたなんて泥仕合になること必至だ。

「でも私が書庫で読んだ文献には、天使と悪魔の戦争は終わったと書いてありました。 なのに何故さっきの悪魔は襲ってきたのでしょうか?」

静聴していたセリカが口を開く。

「確かに戦争は終わりました。 しかし魔界の貴族社会には派閥があって、あのような戦争再開の機会を虎視眈々と狙う過激派もいるのです」

「……どこの世界でも変わらないって事か」

戦争が無い、というものが平和という言葉の意味だとすれば、現代日本は間違い無く平和だった。
その状態しか知らない俺には、平和という言葉の定義も上手く説明出来ないわけだが。

人間にとって都合の良い環境、というものが平和という言葉の意味であれば、現代日本は平和では無いのかもしれない。
それは単に争いが、命の奪い合いから別の容に変わっただけであって。

「争いに巻き込む形になってしまって本当に申し訳なく思っております、それともう一つ謝罪しないといけない事があります」

それまで俺とセリカの顔を交互にうかがいながら話していたセラが俯いた。
そして、言い淀むように小さく呟く。


「……お二人の寿命に関してですが、数百年、もしくは千年単位かもしれませんが、伸びてしまいました」
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