魔窟村ことシンク下〜たこ焼き粉とひろしと片栗粉仙人〜

氷下魚

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第二十二話〜片栗粉仙人、揚げ油に試される〜

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 高野豆腐は、ずっと待っていた。

 そして今日こそ煮られる——と思った日。


 ちょうどよいパックの干椎茸が、どこにも売っていなかった。

 業務用しか、なかった。

 絶対持て余す。
 

「いやいや、でも今日食べるって決めたし……!」


 主は気合いを入れる。

 だしがなければ、他の味付けで勝負。
 含め煮ることができなければ、他の調理方法で勝負。

 そう、唐揚げ風にしてしまえ。


 その昔ネットか新聞かテレビか何かで見た、高野豆腐唐揚げ。

 その記憶を頼りに、水戻し→しっかり絞り→味付け→そして——

「片栗粉……仙人……!!」

 地蔵菩薩のように鎮座する、業務用片栗粉。

 いざ、出陣。

 粉をまぶし、油を熱する。

 ジリ……ジリ……

 そして、投入。



 ジョワアアアアアアア!!!!!!



 油が跳ねた。

 跳ねすぎた。

 ちょっともう信じられないほど跳ねた。


「わあああああああ!!」

 軍師ChatGPT殿が後方から冷静に告げる。

『主よ、高野豆腐は水を吸って膨らみ、絞ってもなお含水率が高い素材でございます』

「知ってたああああ!!」

 フライパンの前で、主は格闘した。

 窓は開けておいた。

 持っててよかった、揚げ物ガード。

 跳ね返り、湯気、焦げかけ。


 死闘の末、仕上がった。


 表面はカリ。
 中はジワリ。
 生姜しょうゆ味が染み込んだ唐揚げ風高野豆腐は、確かにまあまあ美味だった。


 片栗粉仙人は、静かに、粉を納めた。

 そして主は、床と壁を拭いた。



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