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本編
82話 合戦に向けて その6
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鐘の音が青い空に吸い込まれ、ゆっくりと顔を上げる一同、ミナもいいのかなと不安そうにタロウを見上げる、タロウがニコリと微笑むと、安堵したのかウフフと微笑み返すミナ、そしてすぐさま振り返り、
「ハナコー、ハナコー、下ろしてー」
ゲインの足に抱き着いた、ハナコ?と首を傾げるコース、ゲインが無言でハナコを下ろすと、ハナコは雪の冷たさにブルッと震えたようで、しかしすぐにヘッヘとミナに駆け寄った、あぁ、犬かと微笑むコース、ミナはハナコと共にキャッキャッと駆け出した、何が楽しいのやらと思わず微笑む大人達、すると、
「あんたのそれよく見たわねー」
ユーリがポツリと呟いた、
「ん?何が?」
フッと振り返るタロウ、
「それ、手、合わせるやつ?」
ユーリが見様見真似でタロウの真似をする、
「あー・・・別にいいだろ、俺の故郷じゃこうなんだ」
そんな事かと鼻で笑うタロウ、先程クロノスも言っていたが、王国ではこういった慰霊碑の前ではそれぞれのやり方で祈るが通例となっている、これは多神教らしくその信じる神々によって祈りの方法が異なる為で、主流となる四つの神以外にも神は多く存在し、平民は当然として貴族の間でも祈りの作法が大きく異なる事があった、この場にあってもクロノスは胸元で両拳を組み、他の三人は左手を胸に当てている、クロノスのそれは彼が信じる軍神の祈りの作法であり、他三人は信奉する神がいない者の取る一般的な作法となっていた、厳密に言えばソフィアとユーリは神というよりもその組織体である神殿を嫌っており、ゲインは故郷の山の神を信奉しており、その山の神に死者への祈りの作法は存在しない、故に三人は王国内においてそうしておけば形にはなるという、その作法でもって死者に対したのだ、而してタロウのように手を合わせるという作法は存在しないらしい、タロウはこの作法の違いを咎める事も無く、またそれを受け入れ、適応する緩さを大変に気に入っている、実に多神教らしく、また大らかであり押しつけがましくない、信仰というものは他人に強制されるものでも勧誘されるものでもないだろうなとタロウは考えており、多神教の持つ温かさすら感じてしまっていた、
「なんか意味あるの?」
ソフィアも疑問を口にする、前々から聞いてみたかったなとも思い出す、
「あー・・・あるにはあるが・・・・」
ハテと首を傾げるタロウ、昔祖父からそれらしい事を聞いたなと思い出すも、それを説明するには仏とはなんぞやから始めなければならず、こりゃ長くなるしめんどいなとも思う、
「・・・うん、まぁ、ほれ、あれだ、君らのそれと大きくは変わらないよ」
適当に誤魔化す事にしたタロウである、フーンとユーリとソフィアも諸々を察してそれで良しとしてくれたようだ、二人もそうであるし、クロノスもコースもこと信仰であるとか神であるとかなると七面倒くさい事は身に染みて理解している、故に必要以上に問い質す気にもならなかった、どうにもあの界隈の連中は中身の無い事を熱心に語りたがる、タロウの様子からしてただ手を合わせるその作法にも深い意味、いや面倒くさい理屈があるのであろうと察し、またタロウのよく口にする彼の故郷があらゆる面で王国よりも優れているようで、となればまたその小さな仕草にはタロウが面倒くさがる程の何かがあるに違いない、つまりはタロウをもってしても長話になるのは確定で、それはこの場で話せる事ではないし、恐らくこの場の誰も理解しえないし、興味もない内容なのであろう、
「・・・フー・・・とりあえずだな・・・コース、何かあれば聞いておくぞ」
クロノスが鐘を片付け始めたコースの背に問いかけた、
「ハッ」
バッと振り返るコース、その素早い仕草とビシリと伸ばした背筋はまさに近衛兵のものであった、
「・・・特には・・・無いですかな・・・」
しかし頼りなさそうな笑顔を浮かべるコースである、実際にわざわざクロノスに報告するような事件は無い、折角ここまで除雪したのだから毎年やって欲しいとか、できれば敷地内全部をそうして欲しかったと伝える事はできるであろうが、それであってもあまり意味は無い、北ヘルデルでは雪が降ったら殆ど外に出ない生活となる、行き来するとしても隣近所程度で、わざわざ街を出て丘の上にまで慰霊に来る者はこの時期となれば皆無であったりする、
「そうか、まぁ、なにかあったらすぐに言え、苦労させたな」
優しく労うクロノスである、やはり祈りを捧げ少しばかり落ち着けば理性が快復するもので、昨日も今日もコースには無理をさせているように思う、墓守はそれが仕事とはいえ、わざわざこうして雪の中で待たせていたのだ、コース自身はまだ若いとはいえ、簡単な事ではないであろう、
「ハッ、そのように」
満面の笑みでゆっくりと頭を垂れるコース、とりあえずこんなもんかなとタロウとソフィア、ユーリも思う、本来であれば花の一つも手向けるのが正しいのであろうが、この時期に咲く花など無い、また慰霊碑の前で酒を酌み交わすのも儀式の一つでもあるが、そこまでの準備はしていなかった、
「・・・雪が無くなったらまた来るか・・・」
慰霊碑とその背後にある雪の壁を見つめるタロウ、
「そうしてくれ・・・では戻るか」
スッと踵を返すクロノス、そうねと微笑むソフィア、何気にソフィアもこの慰霊碑には足を向けなければと考えつつ出来ていなかった、少しばかり胸のつかえがとれたかなと感じるソフィアである、
「あー、タロー、カマクラー、カマクラ作るー」
雪の壁に腕を突っ込んでミナが叫んだ、エッと振り返る大人達、
「汚れるでしょ、なにやってるの!!」
ギャンと叱りつけてしまうソフィア、このあとパトリシアの見舞も控えている、その為ミナとソフィアはパトリシアから贈られた訪問着を身に着けていた、ソフィアは汚さないようにとミナに言って聞かせ、ミナも分かってるーとどう聞いてもわかっていないいつもの調子で返している、
「えー、大丈夫ー、ハナコのお部屋作るのー」
キャーと言い返すミナ、ハナコはその足元で、楽しそうに尻尾を振って駆け回っている、
「お部屋って・・・もう、ほら、行くわよ」
呆れて言葉も無いソフィア、
「えー、タロー、カマクラー、作れるでしょー、カマクラー」
ズボッと腕を抜いてタロウに駆け寄るミナ、
「そりゃ作れるがさ・・・そっか、あれだぞ、ミナ、雪像とか作るか」
ニヤーと微笑むタロウ、これだけの積雪があればカマクラは当然として巨大な何かは作れそうである、
「なにそれー」
ピョンと飛び跳ねるミナ、
「んー、そだなー・・・あれだ、雪でゲインとかクロノスとか・・・それよりも滑り台とかかな?あっちのが面白いか・・・」
「スベリダイ?」
キョトンと首を傾げるミナ、なんだそりゃと大人達もタロウを見つめる、
「あっ、そっか、こっちにはないか・・・ほら、ブランコみたいなもんだな、楽しいぞ」
「楽しいの?」
ミナは両目をキラキラと輝かせてタロウを見上げる、
「まずな・・・といっても・・・まぁ、もう少ししてからかな」
タロウはここ数日はミナと遊んでいる時間は無いなと顔を顰めた、
「えー、いつー、どんなの?どうするのー」
しかしガバリとタロウの足に縋りつくミナである、
「そのうちだ、あれだ、学校のみんなで作るか」
ニヤーと微笑むタロウ、確かソウザイ店の内庭もそこそこの広さがあった筈で、あそこに作れば他の子供達も好きに遊べるはずである、
「うん、作るー、みんなでやるー、やりたいー、遊びたいー」
「そっか、じゃ、まぁ・・・といっても・・・あの街ってまだ雪降るのか?」
そう言えばとソフィアに問うタロウ、ソフィアはハテ?とユーリに視線でもってその問いを投げ渡すと、
「降るわよー、来月いっぱいはねー、だから、まだまだこれからよあの街の雪もねー」
ニヤリと答えるユーリ、何故か自慢気である、
「そっか、じゃ、次降ったらやってみるか・・・」
ミナの頭にポンと手を置くタロウ、
「うん、やるー、なんだっけ、なんだっけ」
「ん?滑り台?」
「それー、スベリダイ、えっと、滑るの?」
キョトンとタロウを見上げるミナ、
「おっ、そだぞ、滑るんだ、楽しいぞー」
「ホント?」
ピョンと飛び跳ねるミナ、その足元のハナコもワフッと飛び跳ねる、
「ホントだ」
「やったー、いつ?いつやるのー、ガンバルー」
「だから、もっと降ってからだな」
「だからー、それいつー?」
「だからー、次降ってから」
「だから、いつー」
「だからー」
ギャーギャーと騒がしいタロウとミナ、コースはフフッと微笑んでしまう、恐らく死者達も喜んでいるであろう、この慰霊碑に眠る戦友達も魔族に蹂躙された平民達もきっとこの親子の元気な様を温かく見守っているに違いない、慰霊碑の前にあると大人はどうしても神妙に堅苦しくなってしまう、しかし自分もそうであるが死者たちもそんなものは望んでいないであろうなとコースは思う、生きた者が明るく笑いあい、子供達が騒いでこそ、死者達もまた自分達の犠牲が無駄では無かったと実感してくれるであろう、いや、そう感じて欲しいしそれこそが慰霊であるとコースは思っている、なにせ自分もまたその死者に寄り添い、死者の一人と思って墓守の任に当たっている、昨日はどうしても堅苦しい雰囲気を拭えなかった、やはり大人達には酒盛りが必要で、馬鹿騒ぎをして笑いながら死者を悼んでこそのこの場なのである、だからだからとピョンピョン飛び跳ねるミナを見つめ心底そう考えるコースであった。
そうして一行が来た道を戻り、転送陣を幾つか潜り抜けた先では、
「あー、リシア様だー」
クロノスがタロウとユーリ、ミナとハナコを連れて向かったのはパトリシアの自室である、ミナが寝台の上で背もたれに埋まったパトリシアに駆け寄った、
「あら、いらっしゃい」
ニコリと手にした冊子を脇に置くパトリシア、実に嬉しそうな明るい笑みである、
「エヘヘー、久しぶりー」
キャーとハナコを抱いたまま寝台に縋りつくミナ、
「久しぶりね、あらっ、その子がハナコ?」
ニコリと微笑むパトリシア、
「そうなのー、ハナコ、ハナコなのー、ハナコー、リシア様だよー、挨拶してー」
ハナコをのぞきこむミナ、ハナコはキューと首を傾げており、いや、挨拶はお前が先だと苦笑してしまうタロウとユーリ、
「ムー、ハナコめー、あのねー、ハナコは吠えないのー、すんごい静かなの、あと、カシコイのー」
とすっかり定番の自慢話になるミナ、今朝も似たようなことをゲインに言っていたなとクロノスも苦笑いとなり、
「まぁいい、おい、テーブルを、ソフィアが何か持って来るそうだ」
と壁際に控えるメイドに指示するクロノス、
「何か?」
パトリシアがスッと視線を上げた、
「そなのー、あのねー、あのねー、昨日食べたの、フワフワなのー、あと、今日も食べたー、アジミしたー、ユーリが意地悪だったー」
キャーっとはしゃぐミナ、意地悪?と首を傾げるパトリシア、あちゃーと顔を歪めるユーリである、
「そうなのー、ユーリは意地悪なのー、あのねー、ミナがねー、間違って食べちゃったんだけどー、ハナコにも半分あげたかったのー、でも食べっちゃってー、でー、ユーリがもう一個いいよーって言ったんだけどー、マテってしなかったの、だからー」
何のことやらと首を傾げるパトリシア、それなりに筋は通っているかなと苦笑するユーリ、しかしここはひとまず、
「御機嫌麗しゅう、パトリシア様」
ツイッと近寄り一礼するユーリである、
「フフッ、お忙しい所よく来たわね、まぁ・・・男達が不甲斐ないからね、出来る女が頑張らないとね」
パトリシアがニコリと微笑み、クロノスとタロウを睨みつける、ウゲッと呻いたタロウ、クロノスもめんどくさそうに目を細める、
「その通りでございます、まったくだらしない男達ばかりで・・・」
顔を上げクロノスとタロウを睨むユーリ、
「そうよねー」
ニマニマと微笑むパトリシア、なんのことやらとその顔を不思議そうに見上げるミナとハナコであった。
「ハナコー、ハナコー、下ろしてー」
ゲインの足に抱き着いた、ハナコ?と首を傾げるコース、ゲインが無言でハナコを下ろすと、ハナコは雪の冷たさにブルッと震えたようで、しかしすぐにヘッヘとミナに駆け寄った、あぁ、犬かと微笑むコース、ミナはハナコと共にキャッキャッと駆け出した、何が楽しいのやらと思わず微笑む大人達、すると、
「あんたのそれよく見たわねー」
ユーリがポツリと呟いた、
「ん?何が?」
フッと振り返るタロウ、
「それ、手、合わせるやつ?」
ユーリが見様見真似でタロウの真似をする、
「あー・・・別にいいだろ、俺の故郷じゃこうなんだ」
そんな事かと鼻で笑うタロウ、先程クロノスも言っていたが、王国ではこういった慰霊碑の前ではそれぞれのやり方で祈るが通例となっている、これは多神教らしくその信じる神々によって祈りの方法が異なる為で、主流となる四つの神以外にも神は多く存在し、平民は当然として貴族の間でも祈りの作法が大きく異なる事があった、この場にあってもクロノスは胸元で両拳を組み、他の三人は左手を胸に当てている、クロノスのそれは彼が信じる軍神の祈りの作法であり、他三人は信奉する神がいない者の取る一般的な作法となっていた、厳密に言えばソフィアとユーリは神というよりもその組織体である神殿を嫌っており、ゲインは故郷の山の神を信奉しており、その山の神に死者への祈りの作法は存在しない、故に三人は王国内においてそうしておけば形にはなるという、その作法でもって死者に対したのだ、而してタロウのように手を合わせるという作法は存在しないらしい、タロウはこの作法の違いを咎める事も無く、またそれを受け入れ、適応する緩さを大変に気に入っている、実に多神教らしく、また大らかであり押しつけがましくない、信仰というものは他人に強制されるものでも勧誘されるものでもないだろうなとタロウは考えており、多神教の持つ温かさすら感じてしまっていた、
「なんか意味あるの?」
ソフィアも疑問を口にする、前々から聞いてみたかったなとも思い出す、
「あー・・・あるにはあるが・・・・」
ハテと首を傾げるタロウ、昔祖父からそれらしい事を聞いたなと思い出すも、それを説明するには仏とはなんぞやから始めなければならず、こりゃ長くなるしめんどいなとも思う、
「・・・うん、まぁ、ほれ、あれだ、君らのそれと大きくは変わらないよ」
適当に誤魔化す事にしたタロウである、フーンとユーリとソフィアも諸々を察してそれで良しとしてくれたようだ、二人もそうであるし、クロノスもコースもこと信仰であるとか神であるとかなると七面倒くさい事は身に染みて理解している、故に必要以上に問い質す気にもならなかった、どうにもあの界隈の連中は中身の無い事を熱心に語りたがる、タロウの様子からしてただ手を合わせるその作法にも深い意味、いや面倒くさい理屈があるのであろうと察し、またタロウのよく口にする彼の故郷があらゆる面で王国よりも優れているようで、となればまたその小さな仕草にはタロウが面倒くさがる程の何かがあるに違いない、つまりはタロウをもってしても長話になるのは確定で、それはこの場で話せる事ではないし、恐らくこの場の誰も理解しえないし、興味もない内容なのであろう、
「・・・フー・・・とりあえずだな・・・コース、何かあれば聞いておくぞ」
クロノスが鐘を片付け始めたコースの背に問いかけた、
「ハッ」
バッと振り返るコース、その素早い仕草とビシリと伸ばした背筋はまさに近衛兵のものであった、
「・・・特には・・・無いですかな・・・」
しかし頼りなさそうな笑顔を浮かべるコースである、実際にわざわざクロノスに報告するような事件は無い、折角ここまで除雪したのだから毎年やって欲しいとか、できれば敷地内全部をそうして欲しかったと伝える事はできるであろうが、それであってもあまり意味は無い、北ヘルデルでは雪が降ったら殆ど外に出ない生活となる、行き来するとしても隣近所程度で、わざわざ街を出て丘の上にまで慰霊に来る者はこの時期となれば皆無であったりする、
「そうか、まぁ、なにかあったらすぐに言え、苦労させたな」
優しく労うクロノスである、やはり祈りを捧げ少しばかり落ち着けば理性が快復するもので、昨日も今日もコースには無理をさせているように思う、墓守はそれが仕事とはいえ、わざわざこうして雪の中で待たせていたのだ、コース自身はまだ若いとはいえ、簡単な事ではないであろう、
「ハッ、そのように」
満面の笑みでゆっくりと頭を垂れるコース、とりあえずこんなもんかなとタロウとソフィア、ユーリも思う、本来であれば花の一つも手向けるのが正しいのであろうが、この時期に咲く花など無い、また慰霊碑の前で酒を酌み交わすのも儀式の一つでもあるが、そこまでの準備はしていなかった、
「・・・雪が無くなったらまた来るか・・・」
慰霊碑とその背後にある雪の壁を見つめるタロウ、
「そうしてくれ・・・では戻るか」
スッと踵を返すクロノス、そうねと微笑むソフィア、何気にソフィアもこの慰霊碑には足を向けなければと考えつつ出来ていなかった、少しばかり胸のつかえがとれたかなと感じるソフィアである、
「あー、タロー、カマクラー、カマクラ作るー」
雪の壁に腕を突っ込んでミナが叫んだ、エッと振り返る大人達、
「汚れるでしょ、なにやってるの!!」
ギャンと叱りつけてしまうソフィア、このあとパトリシアの見舞も控えている、その為ミナとソフィアはパトリシアから贈られた訪問着を身に着けていた、ソフィアは汚さないようにとミナに言って聞かせ、ミナも分かってるーとどう聞いてもわかっていないいつもの調子で返している、
「えー、大丈夫ー、ハナコのお部屋作るのー」
キャーと言い返すミナ、ハナコはその足元で、楽しそうに尻尾を振って駆け回っている、
「お部屋って・・・もう、ほら、行くわよ」
呆れて言葉も無いソフィア、
「えー、タロー、カマクラー、作れるでしょー、カマクラー」
ズボッと腕を抜いてタロウに駆け寄るミナ、
「そりゃ作れるがさ・・・そっか、あれだぞ、ミナ、雪像とか作るか」
ニヤーと微笑むタロウ、これだけの積雪があればカマクラは当然として巨大な何かは作れそうである、
「なにそれー」
ピョンと飛び跳ねるミナ、
「んー、そだなー・・・あれだ、雪でゲインとかクロノスとか・・・それよりも滑り台とかかな?あっちのが面白いか・・・」
「スベリダイ?」
キョトンと首を傾げるミナ、なんだそりゃと大人達もタロウを見つめる、
「あっ、そっか、こっちにはないか・・・ほら、ブランコみたいなもんだな、楽しいぞ」
「楽しいの?」
ミナは両目をキラキラと輝かせてタロウを見上げる、
「まずな・・・といっても・・・まぁ、もう少ししてからかな」
タロウはここ数日はミナと遊んでいる時間は無いなと顔を顰めた、
「えー、いつー、どんなの?どうするのー」
しかしガバリとタロウの足に縋りつくミナである、
「そのうちだ、あれだ、学校のみんなで作るか」
ニヤーと微笑むタロウ、確かソウザイ店の内庭もそこそこの広さがあった筈で、あそこに作れば他の子供達も好きに遊べるはずである、
「うん、作るー、みんなでやるー、やりたいー、遊びたいー」
「そっか、じゃ、まぁ・・・といっても・・・あの街ってまだ雪降るのか?」
そう言えばとソフィアに問うタロウ、ソフィアはハテ?とユーリに視線でもってその問いを投げ渡すと、
「降るわよー、来月いっぱいはねー、だから、まだまだこれからよあの街の雪もねー」
ニヤリと答えるユーリ、何故か自慢気である、
「そっか、じゃ、次降ったらやってみるか・・・」
ミナの頭にポンと手を置くタロウ、
「うん、やるー、なんだっけ、なんだっけ」
「ん?滑り台?」
「それー、スベリダイ、えっと、滑るの?」
キョトンとタロウを見上げるミナ、
「おっ、そだぞ、滑るんだ、楽しいぞー」
「ホント?」
ピョンと飛び跳ねるミナ、その足元のハナコもワフッと飛び跳ねる、
「ホントだ」
「やったー、いつ?いつやるのー、ガンバルー」
「だから、もっと降ってからだな」
「だからー、それいつー?」
「だからー、次降ってから」
「だから、いつー」
「だからー」
ギャーギャーと騒がしいタロウとミナ、コースはフフッと微笑んでしまう、恐らく死者達も喜んでいるであろう、この慰霊碑に眠る戦友達も魔族に蹂躙された平民達もきっとこの親子の元気な様を温かく見守っているに違いない、慰霊碑の前にあると大人はどうしても神妙に堅苦しくなってしまう、しかし自分もそうであるが死者たちもそんなものは望んでいないであろうなとコースは思う、生きた者が明るく笑いあい、子供達が騒いでこそ、死者達もまた自分達の犠牲が無駄では無かったと実感してくれるであろう、いや、そう感じて欲しいしそれこそが慰霊であるとコースは思っている、なにせ自分もまたその死者に寄り添い、死者の一人と思って墓守の任に当たっている、昨日はどうしても堅苦しい雰囲気を拭えなかった、やはり大人達には酒盛りが必要で、馬鹿騒ぎをして笑いながら死者を悼んでこそのこの場なのである、だからだからとピョンピョン飛び跳ねるミナを見つめ心底そう考えるコースであった。
そうして一行が来た道を戻り、転送陣を幾つか潜り抜けた先では、
「あー、リシア様だー」
クロノスがタロウとユーリ、ミナとハナコを連れて向かったのはパトリシアの自室である、ミナが寝台の上で背もたれに埋まったパトリシアに駆け寄った、
「あら、いらっしゃい」
ニコリと手にした冊子を脇に置くパトリシア、実に嬉しそうな明るい笑みである、
「エヘヘー、久しぶりー」
キャーとハナコを抱いたまま寝台に縋りつくミナ、
「久しぶりね、あらっ、その子がハナコ?」
ニコリと微笑むパトリシア、
「そうなのー、ハナコ、ハナコなのー、ハナコー、リシア様だよー、挨拶してー」
ハナコをのぞきこむミナ、ハナコはキューと首を傾げており、いや、挨拶はお前が先だと苦笑してしまうタロウとユーリ、
「ムー、ハナコめー、あのねー、ハナコは吠えないのー、すんごい静かなの、あと、カシコイのー」
とすっかり定番の自慢話になるミナ、今朝も似たようなことをゲインに言っていたなとクロノスも苦笑いとなり、
「まぁいい、おい、テーブルを、ソフィアが何か持って来るそうだ」
と壁際に控えるメイドに指示するクロノス、
「何か?」
パトリシアがスッと視線を上げた、
「そなのー、あのねー、あのねー、昨日食べたの、フワフワなのー、あと、今日も食べたー、アジミしたー、ユーリが意地悪だったー」
キャーっとはしゃぐミナ、意地悪?と首を傾げるパトリシア、あちゃーと顔を歪めるユーリである、
「そうなのー、ユーリは意地悪なのー、あのねー、ミナがねー、間違って食べちゃったんだけどー、ハナコにも半分あげたかったのー、でも食べっちゃってー、でー、ユーリがもう一個いいよーって言ったんだけどー、マテってしなかったの、だからー」
何のことやらと首を傾げるパトリシア、それなりに筋は通っているかなと苦笑するユーリ、しかしここはひとまず、
「御機嫌麗しゅう、パトリシア様」
ツイッと近寄り一礼するユーリである、
「フフッ、お忙しい所よく来たわね、まぁ・・・男達が不甲斐ないからね、出来る女が頑張らないとね」
パトリシアがニコリと微笑み、クロノスとタロウを睨みつける、ウゲッと呻いたタロウ、クロノスもめんどくさそうに目を細める、
「その通りでございます、まったくだらしない男達ばかりで・・・」
顔を上げクロノスとタロウを睨むユーリ、
「そうよねー」
ニマニマと微笑むパトリシア、なんのことやらとその顔を不思議そうに見上げるミナとハナコであった。
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ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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